妻の給料の高さに衝撃を受ける夫のイメージイラスト

夫婦は対等であるべきですが、どうしても経済力の強いほうが立場も強くなりがち。一般的には夫が自分の経済力を盾に、我を通そうとすることも多いようです。でも、その経済力が逆転したらどうなるでしょう。

夫婦の立場を「給与の額」で図る夫

結婚して15年のサワさん(44歳・仮名=以下同)。2歳年上の夫とはずっと共働きを続けてきました。

 

「結婚して2年目に娘が産まれて、産休と育休中は家にいる時間が長い私が、どうしても家事育児をやることになりました。夫は残業も出張も多くて、やむを得ないとは思っていたんです。でも、あの時期、夫の暴言が気になりましたね。『家にいて時間があっていいよね』とか『時間があるんだから、これやっておいてよ』と」

 

当時は分業している認識が強かったので、立場としては対等だよねと夫に何度も確認したそうです。そのたびに夫は「うん」と言うものの、「でもオレがいないと生活できないよね」とも。

 

「いつか見返してやる、と思った記憶はあります。ただ、復職後も私は子どもが気になって、できる限り残業は避けました。娘との時間は今しかないとも思っていたので」

 

娘が大きくなるにつれて、サワさんも仕事に没頭するように。残業ではなく早朝に出社したり、週末、家で仕事をすることもありました。娘とふたり、ダイニングの椅子に腰をかけて娘は宿題、母は仕事。それも楽しい時間だったと彼女は振り返ります。

 

「通信教育で仕事のスキルアップを図ったり、できる限りの努力はしました」

 

そのかいあって、35歳のときには職場で女性だけのチームリーダーに。このときの仕事で社長賞をもらったチームは、その後も会社で注目される存在となりました。 

エリート夫が妻の給与明細を見て意気消沈

サワさんが育休をとっていたときは夫が生活費を全額出していましたが、その後はまたアバウトとはいえお互いにお金を出し合って生活していました。

 

「相手の年収や貯蓄額も知らなかったんです。ただ、6年前にそろそろ家を購入しようかという話になり、隠すことでもないからお金のことをガラス張りにしよう、と。そこで年収を教え合ったんですが、実は私のほうがかなり多いことがわかりました。夫は有名企業ですが、給与が高いとはいえない会社に勤めていたんです。私が勤める企業は知名度は高くないけど、会社が利益を社員に還元してくれる。その違いで収入に差が出たんだと思います」

 

それだけのこととサワさんは冷静に言いますが、妻の収入を知ったときの夫の反応は想像以上でした。「えっ」と言ったきり固まってしまったそうです。

 

「しばらくたってから『そうか』としょんぼりしていました。『サワはすごいよね。オレなんか何もできないし、何もしてこなかった』と。夫はその後、3日ほど寝込んで会社も休んでしまって(苦笑)。よほどショックだったんでしょうか。ちょうど義母への誕生日プレゼントが送ったタイミングで、義母からお礼の電話が来たのを夫が受け、さらに落ち込んでいました。別に義理堅いわけじゃなくて、義母には子どもが小さいころ助けてもらったのでずっと仲良くしているんです」

 

世間では義母と仲の悪い妻の話もよくあるので、夫は「あなたはうちの両親にもよくしてくれるし仕事もできるし、オレなんかと一緒にならないほうが幸せだったかもね」といじけ始める始末。

 

「あのね」とサワさんは説教を始めます。 

妻のひと言で吹っ切れた夫は生まれ変わり

「もともと経済力があるほうが上だとか、男は女より上だとか思っているから、あなたは今、落ち込んでいるんだよね」と、サワさんは正論を述べました。

 

「『夫婦は対等だよね』といつも念を押してきたのに、実際には全然そう思ってなかったという証拠だね」と。ここで言わなければいけないとサワさんはまじめに話をしました。「黙って聞いていた夫ですが、『サワの言うとおり、自分でも知らないうちにオレのほうが稼いでいるんだから、妻は妻らしくしろと思っていたかもしれない。最低だな、オレ』って。もういいよ、ここからふたりで相談しながらもっとオープンに生きていこうよと夫を励ましました(笑)」

 

それ以来、収入も貯金もオープンにして今後のことを話せるようになりました。

 

夫は「これまではムリしてサワにマウントとっていたような気がする。今はとても楽になった」と言ったそうです。4年前に購入したマンションはもちろんふたりの共同名義です。

妻の給料の高さに衝撃を受ける夫のイメージイラスト
夫婦が話しているイメージイラスト

文/亀山早苗 イラスト/前山三都里

※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。