大人が抱えやすいモヤモヤについて、臨床心理士の八木経弥さんにお話を伺いました。今回は、ママ友に誘われて習い事の体験に行ったものの、断る口実が難しいと悩む女性の相談にお答えします。
【Q】 ママ友に誘われた習い事を断る口実が難しい
ママ友に誘われて、数名でバレエの習い事体験に行ってきました。かわいいひらひらのレオタードを着て踊るちびっ子ダンサーたちに魅了され、娘は憧れの気持ちを持ったようです。でも、そこのバレエ教室は発表会やコンクールなどでかなりお金がかかると知り、「わが家は厳しいかも…」と思いました。
一緒に体験に行ったうち以外のお友達は、そのまま入会するつもりみたいです。一緒に入会して頃合いを見て脱退することも考えたのですが、子どもがこのままバレエにハマってから辞めさせるのはかわいそうな気もします。早めにお断りしなければと思うのですが…。正直ママ友仲間に言い出しにくいです。
考え過ぎるとシンプルな問題で悩んでしまいがち
習い事って始めるときもやめるときも、判断に迷いますよね。子どもの気持ちを最優先していろいろ決断できれば最高ですが、家計や人間関係の問題が絡んでくると、親のほうが頭を抱えてしまいがちです。子どもの習い事に関して、悩んでいる方は多いように感じます。
さて、相談者さんは「ママ友に言い出しにくい」ということですが、おそらくママ友との人間関係を一番気にしていらっしゃるようですね。「費用が高いからやめておくね」なんて言えたら簡単ですが、なかなかそうはいかないものです。
こういう場合は、「考え過ぎることで悩んでいる」ケースが多いです。考え過ぎると難しい問題に思えてきます。もっとシンプルに捉えてはいかがでしょうか。
さらっといえば大丈夫!子どもを振り回さない決断を
「うち、やめとくわ」
これでいいと思います。さらっと言うだけで、理由まで細かく伝える必要はありません。その決断に対し、人は意外と「なんで?」「どうして?」と理由を求めないものです。
もし聞かれたとしたら、
「ほかにも習い事していて、あっちに集中させたいから」
「夫が前向きではないから」
など、ウソにならない程度にさらっと返せばいいと思います。
「一緒に入会して頃合いを見て脱退するのも考えた」と相談内容にありますが、これはおすすめしません。最初からやめるつもりで入会させるのは、子どものためによくありません。
あくまでも習い事は、子どものためのもの。ママ友との関係性で断りきれず、金銭的に厳しいからやめるというのは、大人の都合に振り回していることになります。
こんがらがった頭を整理する損益分析
今回の相談のように、本来単純な話を自分の中で複雑化させてしまうことってしばしばありますよね。今抱えている問題をクリアするために、ノートにメリット・デメリットを書き出して、頭の中を整理してもいいかもしれません。
心理学のカウンセリングの手法、「損益分析」という方法です。
- コピー用紙などの紙を4分割する
- 紙の上半分にバレエを習うメリット/デメリットを箇条書きで書く
- 紙の下半分にバレエを断るメリット/デメリットを箇条書きで書く
- 特に重要なところに赤線を引く
「誰のため?」「何で断りたい?」を意識して書き出してみてください。
子どもには「例えやオノマトペ」を用いて分かりやすく伝える
子どもが「私もやりたい!」と強く主張し、困っているという人もいるかもしれません。ただ「ダメ」というだけでは、反発するでしょう。子どもの年齢にもよりますが、ある程度理解できる年齢になっているなら、ウソをつかずに「お金が大変だから」ということを伝えてもいいと思います。
同時に、バレエを断ることで生じる「子どものメリット」も伝えられると説得力が増します。また、子どもの気持ちをしっかりリスニングできると理想的です。会話には例えやオノマトペを使うと伝わりやすいでしょう。例えば、次のように提案をしてはいかがでしょうか。
「もしバレエをしなかったら、年2回は家族で遊園地へ行けるよ」
「いつも夏に行っている家族のイベントには参加できなくなるくらいお金がかかっちゃうけどいい?」
「バレエに行かないと、遊ぶ時間が増えるよ」
「お友達と一緒だからやりたいのかな?それともバレエが本当にやりたいからかな?」
「もしその習い事をすると、わくわくしそう?ぐったりしちゃいそう?」
などです。
繰り返しになりますが、習い事の主役は子どもです。始めるか断るか、実はとっても単純な問題なんです。
どの悩みにも共通しますが、あれこれ考えあぐねてしまうときは、一度立ち止まってシンプルに考えてみるのも手です。そうするとスッとラクになれることもありますよ。
PROFILE 八木経弥さん
やぎ・えみ。臨床心理士/公認心理師。心療内科や児童相談所、スクールカウンセラーなどの勤務経験のもと、開業カウンセラーとしても活動中。仕事では心理学を活用した育児の方法などを伝えている。2人の娘の母。
取材・文/大楽眞衣子