「なぜそうするのか」を親子で考える

── 子どもの選択肢を豊かにするために、子育てする上で親が気に留めておくとよいことは何でしょうか。

 

田中さん:

身近な話でいうと、たとえば男の子が転んだときに、未だに「男の子なんだから泣くんじゃない」と叱る親御さんを見かけます。そのように感情を抑制させることを強要してしまうのはなぜなのかと考えたときに、やはり「競争に勝てない」と思ってしまうからではないでしょうか。

 

たとえば受験勉強など、「辛くてもやらなければならないこと」の理由を、親御さんが明確に示すことは少ないように思います。

 

そんな風に、「やらなきゃいけないから」「みんなやっているから」「いい学校に入れないから」といった説明をしてしまうと、感情は必要なくて、理由は考えても仕方がないものだと思ってしまいます。

 

競争に勝って良い会社に入って、出世して社長になったとしても、その結果の「何が良いのか」を具体的には答えられず「良いものは良いんだ」みたいな説明をしないこと。何のために競争すべきなのか、そもそも競争すべきことなのか、親御さんも一緒に考える必要があります。

 

将来に備えることも大切ですが、今ここでしか出来ないことを親御さんがもう少し大事にできるようになると、「今、ここにいる子ども」という視点を持てるようになりますし、子どもも「今を楽しむ」ということが分かってくるように思います。

田中俊之さん
田中俊之さん

男女という2つカテゴリーで見過ぎない

── 「なぜそうするのか」という理由を「そういうものだから」と曖昧にせず、親子で一緒に考えることが大事なんですね。

 

田中さん:

そうですね。そういった意味では、男女で分けて考えすぎず、大きな視点をもつことも大切なように思います。もう一つ興味深いお話がありまして、先ほどお話ししたフィンランドの大使館の方から聞いたお話なのですが、最近子ども服がジェンダーレス化しているそうなんです。

 

意識しているところもあるのでしょうが、社会の持続可能性を考えたときに、お兄ちゃんが着た服を妹が着たりとか、シンプルに「洋服を大事にする」という習慣がそういったことに繋がっているそうです。それを聞いてなるほどなと思いました。

 

子どもたちが将来にわたって安心して生活できる社会にするために、「こうするとこうなるよ」と危機感を煽るだけでなく、視点をもっとシンプルに穏やかに持ってもいいのではないかと感じました。

 

SDGsの中にも「ジェンダー平等の実現」という項目があるのですが、ジェンダー平等だけを達成するのではなく、持続可能な社会の為にジェンダー平等も大切な要素の一つ、と考えることが大事なように思います。男性が、女性が、と分けて考えていたものをもっとフラットに考え直してみてもいいかもしれません。

 

── 男性、女性という2つのカテゴリーで見過ぎてしまっているのかもしれませんね。

 

田中さん:

僕自身もそうだったのですが、男性であるがゆえに競争、競争と追い立てられてきたという思いがすごくあったのですが、僕は競争して伸びるタイプではなかったことにあるとき気がつきました。

 

やはり男性は無理することや競争することを強要されるという一面がありますし、「男とはそういうものだ」と自分でも思い込んでしまって、自分のペースでやることが自分にとっていちばん良いことだと気づきません。僕も気づくまでに30年程かかってしまいました。

 

もちろん男性に限らず女性でも競争して伸びるタイプの方もいるでしょう。

 

現代社会では、人を「男性か女性か」そのたった2つのカテゴリーに当てはめてしまい、その人自身をちゃんと見ていない気がします。

 

それは自分自身に対しても同じで、ジェンダーの勉強をしていて「人に押しつけるのはやめましょう」という話は多いのですが、意識せずに自分に「男だから」を押しつけてしまっている側面がありました。

 

「自分にやらない。だから人にもやらない」という順番で考えていくのが正しいと思いますし、自分に対してはもちろん、誰かに対してもカテゴリーではなく「その人自身」を見ていきたいと思います。

 

PROFILE 田中俊之さん 

大妻女子大学人間関係学部准教授。男性が抱える悩みや生きづらさについて考える「男性学」が専門。著書に「男が働かない、いいじゃないか!」などがある。夫婦共働きで息子2人を育児中。

取材・文/渡部直子 写真/PIXTA  写真提供(本人写真)/田中俊之さん
参考/株式会社クラレ「将来就きたい職業、就かせたい職業 2022年」