大人が抱えやすいモヤモヤについて、臨床心理士の八木経弥さんにお話を伺いました。今回は子どもの習い事の始めどきについて、周囲に惑わされ悩んでいる女性の相談にお答えします。
【Q】子どもの習い事、子どもの意思を尊重すると貫いてきたけど…
小学生のうちの子は、まだ習い事をしていません。私の考えとしては、本人の意思を尊重したいと思っていて、「本人がやりたいと言い始めたときが始めどき」と思ってきました。今のところ、まだ何も言い出していません。
しかし、周りのお友達は3〜4個の習い事を掛け持ちしているよう。水泳、ピアノ、体操、英語など、習い事のジャンルによっては、まだ本人がよく分かっていない3、4歳から始め、今もずっと続けている、なんて子もいます。
そんな話を耳にすると、私の考え方は甘かったのか、もっと早くから始めておけばよかったのかとモヤモヤしてしまいます。小さい時期から始めたほうが伸びるジャンルもあると聞いたので、不安になってきました。
大切なのは「どんな子に育ってほしいか」
小さい子の習い事はいつからやるのか…悩ましい問題ですよね。相談者さんの考え方は「本人の意思を尊重したい」とのこと。私はとても素敵な考え方だと思います。これが夫婦そろっての考えでしたら、夫婦で気持ちを共有し、貫き通すのがいいと思います。
私は、早期教育を否定するつもりはありません。絶対音感を養うには早くからがいいとも聞きますし、英語のリスニング力も養うには早いほどいいという話もあります。
そこで立ち止まって考えていただきたいのは、「絶対音感ってあったほうがいい?」「英語を聴き取る力は乳児・幼児期からあったほうがいい?」ということです。
もしある分野のスペシャリストを親子で目指すなら、そうなるための習い事を促してもいいかもしれません。でもそうではない場合、早い時期からの習い事にこだわる必要はないかもしれません。
いずれにせよ、習い事への考え方は夫婦の子育て観につながる問題です。大切なのは、子どもにどう育ってほしいか、どういう人になってもらいたいか、という問いについて夫婦で考えること。そうすると、おのずと習い事への向き合い方が見えてくると思います。夫婦で足並みをそろえれば、周囲に振り回される可能性も減ると思いますし、少し気分も楽になるのではないでしょうか。
目標ゴールを設定して、子どもと先のイメージを共有する
相談者さんのように、「本人の意思を尊重したい」という考えはきっとお子さんにいい影響を与えるのではと思います。
子どもは「やりたい」という自分の気持ちを親に尊重してもらえると、自信につながりますし、親への信頼感にもつながります。習い事だけに限りませんが、普段から子どもの意思を尊重してあげると、自分で決断する大切さを知る人に成長していくはずです。
とはいえ、子どもの「やりたい!」「やめる!」の要求に毎回応えるわけにもいきません。そうならないために、初めからある程度の目標を定めておき、想定されるさまざまな問題について前もって確認をしておくことをおすすめします。
例えば
「3級になったら卒業しようね」
「何年生まで続けられるかな?」
「これを始めると水曜日と金曜日はお友達と遊べなくなっちゃうけど、それでもいい?」
などです。
具体的に数年先の目標ゴールや日々のスケジュールについて話しておくと、子どもはイメージを描きやすくなり、物事を決断しやすくなります。タイムスケジュールは紙に書き出すと分かりやすいのでおすすめです。
乳幼児期からの習い事で気をつけるべき視点
世の中にはベビースイミングや英会話のベビークラスなど、乳児期からの習い事はたくさんあります。親の判断で始め、それから何年も続けているというケースも多いでしょう。
そういう場合に気をつけていただきたいのは、子ども自身が「習い事をさせられている」という感覚になっていないか、という視点です。
「心から楽しみにしているかな?」
「練習(宿題)に消極的になっていないかな?」
「嫌がっていないかな?」
「親を喜ばせるためにやっていないかな?」
「学校や園で楽しく過ごせているかな?」
など普段の会話や子どもの様子から、習い事がもたらすさまざまな影響を親がよく見極めることも大事です。もちろん、その子に合っていて心から楽しんでいるケースもたくさんあると思います。
多くの親を悩ます「習い事をいつから始めるか」という問題に、正解はありません。習い事は親の悩み事として捉えられがちですが、結局のところ、子どもの問題です。実はここがいちばん大事なポイントです。それさえ心得ておけば、周囲に惑わされなくなるかもしれませんね。
PROFILE 八木経弥さん
やぎ・えみ。臨床心理士/公認心理師。心療内科や児童相談所、スクールカウンセラーなどの勤務経験のもと、開業カウンセラーとしても活動中。仕事では心理学を活用した育児の方法などを伝えている。2人の娘の母。
取材・文/大楽眞衣子