大人が抱えやすいモヤモヤについて、臨床心理士の八木経弥さんにお話を伺いました。今回は、「マイホームブルー」に陥ってしまった女性の相談にお答えします。
【Q】マイホームを買ったのになぜかモヤモヤ…
憧れだったマイホームを購入しました。手狭だった賃貸アパート暮らしから解放され、とてもうれしい気持ちがある半面、心の底から喜べない自分がいます。「私、この街でおばあさんになっていくんだな」と考えたり、実家は遠方なので「もう生まれ育った地域で暮らすことはないんだな」と思ったり…。
なぜかマイナスな思考がループしてしまいます。多額のローンのせいかもしれません。喜んでいる夫や祝ってくれる親や友人には、私の気持ちなんて理解してもらえないだろうなと思って言えずにいます。どうしてこんな気持ちになってしまうのでしょうか。
マイホームブルーをひとりで抱えがちでは?
マイホーム購入後、気持ちが落ち込んでうつのような症状になることを、巷では「マイホームブルー」と呼ぶそうです。
そんな言葉が誕生してしまうほど、相談者さんと同じ悩みを持つ人は多いよう。マイホームブルーが離婚の原因になることもあるようですから、かなり気持ちの浮き沈みが大きい問題であることが分かります。
新居を購入するとなると一般的にはおめでたいことと捉えられますから、相談者さんのように身近な人にも暗い気持ちを打ち明けづらい方が多いのではないでしょうか。
抱えている金額が大きいことも悩みであるならば、金銭的なことを相談するのも気が引けます。「大人なんだし、こんなことで悩んでいると思われたくない…」とひとりで悩みを抱えて悪循環に陥っている人も少なくないのではないでしょうか。
不安メモを付箋に書き出し思考を整理
マイナス思考に陥っているときは、思考を整理することが大事です。どんなふうに年齢を重ねていきたいか、新しい土地でどんな人間関係を築いていきたいか、などを具体的に書き出してみましょう。
ノートに書く方法もいいですが、付箋にメモ書きする方法の方が気楽に取り組めるかもしれません。具体的には、まずひとつの付箋につきひとつの不安を書きます。それを並べて見比べて、不安のグループ分けをします。
例えば、こんなグループに分けられるかもしれません。
グループ1:お金の不安
グループ2:地元に帰れない不安
グループ3:近所付き合いの不安
などです。
グループ分けすると、モヤっとしていた自分の考えが整理されてきますから、「今わたし、こんな感じのことを考えていて、気持ちがしんどくなっちゃうんだよね」とご主人に見せて、悩んでいることを打ち明けるのもいいと思います。漠然と「わたしマイホームブルーだわ」と伝えるより、伝わりやすいと思います。
またはSNSに上げて気持ちを吐き出すのも、不安を解消する方法のひとつだと思います。「#マイホームブルー」とタグを付けてツイッターなどにあげると、共感してもらえたり、いいアドバイスをもらえたりして気持ちが楽になる場合もあるかもしれません。
「考え方のクセ」を知ってマイナスループから脱出
いろいろな自分の気持ちを書き出してみると、考え方のクセが見えてきます。
例えば、マイナスな思考がループしがちだとしたら、次のように俯瞰してみてください。
「自分が抱えている悩みを、信頼できる“あの人”に聞いたら、何てアドバイスしてくれるだろう」
もしくは
「大事な“あの人”がもし私と同じ悩みで困っていたら、私ならその人に何てアドバイスをするだろう」
と想像力を働かせて角度を変えるのもいいと思います。この方法は認知療法で用いられる方法です。人には考え方にクセがありますから、こうして目線を変えてみるのです。
人間の考え方のクセはいくつかにパターン化されています。たとえば、
- よくない出来事が起こると全部自分のせいだと思ってしまう
- 〜すべき、〜でなければと思ってしまう
- 0か100かの白黒をはっきりつけたくなってしまう
などです。認知療法だとだいたい少なくても8種類から10種類のクセが挙げられます。こうした思考のクセは誰にでもあります。まったくクセがない人はいません。
大切なのは、自分がそのなかのどのクセを持っているかということを把握することです。「あ〜この考え方はいつもの私のクセだわ」と気づくことができれば、マイナス思考のループから抜け出せる可能性は広がります。自分のクセを知り、いろんな可能性を考えられる柔軟性が持てるようになると、気持ちはラクになります。
今回の相談者さんの場合、生まれ育った地域で暮らすことはもうないかもしれない。それはとてもさびしいことかもしれない。だけどその分、遠方の両親をこっちに呼んであげることができるようになる。こっちの観光地をいろいろ教えてあげられる。両親に旅をさせてあげられる。
このようにいろいろな考え方を引っ張り出せるようになると、きっとマイホームブルーから抜け出すことができるでしょう。
認知療法の本から自分の思考のクセを探して知っておくと、いろんなシーンでラクになれますよ。
PROFILE 八木経弥さん
取材・文/大楽眞衣子