大人が抱えやすいもやもやについて、臨床心理士の八木経弥さんにお話を伺いました。今回は「見た目と体力が低下していく自分の老いに向き合えない」と悩む40代女性の相談にお答えします。
【Q】「40代で老いを実感」鏡を見るのが嫌だ
私は40代半ばですが、最近特に自分の老いを実感するようになりました。白髪が目立つようになり、シミやシワ、たるみも気になってきたうえ、食べたら食べた分だけ太る「おばさん体型」に。以前より疲れやすくなった気もします。
職場のトイレにある大きな鏡の前に若い同僚と並んでしまうと、その差は歴然。独身の友人はエステやジムに通ってアンチエイジングをがんばっているようですが、日々の生活に追われる子育て中の私にそんな余裕はありません。
老いは自然のことと分かっていながらも、鏡を見るのが嫌になってしまいました。そのせいか、以前と比べてネガティブ思考になりやすい気も。誰もが通る道だとわかっていますが、老いていく自分をどう受け止めればよいでしょうか。
老いより「年を重ねることのメリット」に目を向けて
自分の体に起こる変化に対して戸惑ってしまうのは、男女問わずどの世代の方にもある悩みだと思います。
東洋医学では、女性は7の倍数の年齢で体質の変化があるといわれています。40代でいうと42歳と49歳。相談者さんは40代半ばということなので、いろいろと衰えを感じ始めているのでしょう。そろそろ更年期の時期にもなります。
相談者さんの場合、老いに対して前向きになれないご様子ですが、そもそも老いていく現実に対して抗う必要はあるのでしょうか。まずはそこから考えてみましょう。
「アンチエイジング」という言葉が当たり前のように使われるようになりましたが、“エイジング”に“アンチ”しなくてもいいと私は思っています。
“年を重ねることは嫌なこと”という考えに囚われていませんか。もしそうならば、視点を変えて年を重ねることのメリットに目を向けてみてはいかがでしょうか。
何もかも若いほうがいいとは限りません。仕事もファッションも、年を重ねたからこそ魅力が増すことってありますよね。年を重ねたほうが信頼感が増す仕事は案外多いものですし、若い頃はしっくり来なかったブランドバッグが、年を重ねてから持つと似合うようになったということもあるでしょう。
どんなふうにエイジングしたいか、どんな50代60代になりたいか、どんな70代80代のおばあちゃんになりたいかを具体的にイメージしてみてください。
例えば、
- 映画で活躍しているシニア世代の女優さんのような立ち居振る舞いをする
- 毎日着物を着て暮らす
- 道具にこだわるていねいな暮らしをする
などです。こうしてイメージすると、ちょっとわくわくしませんか。
人と比べるくらいなら、自分のいいところ探しを
相談者さんは美意識の高い独身の友人との見た目の違いを嘆いていらっしゃるようですが、子育てや家族の世話があるとそんなに自分にお金と時間は使えないものです。「比べない」のは難しいことかもしれませんが、きっと彼女には相談者さんとは異なる悩みがあるはずです。
それよりも、視点を変えてご自分のいいところに目を向けてみてはどうでしょうか。例えば育児を経験したことで、子育て中の人の相談にのる能力が高くなっていると思いますし、世間からは若い人より「落ち着きがあって信用できそう」と思われているのではないでしょうか。ちょっと見方を変えるだけで、自信につながることも多いと思います。
「自分を褒めるノート」を作ってみる
もしネガティブな悪循環の渦のなかに入り込んでいるようなら、その流れを変えるために新しい風を通す必要がありそうです。考え方を意識的に変化させるとっておきの方法があります。それは、「自分を褒める」ことです。
まず手始めに、「自分を褒めるノート」を作ってみてください。
自分を褒める言葉をノートに記し、そのノートを家族や友人に渡して「ここに書いてあることを私に言って」とお願いしてみてください。子どもに頼むのもいいですよ。
これは心理学のワークでもよくやる手段です。褒めてほしい言葉を書いて、ペアの人に読んでもらいます。カウンセリングのグループワークでよく用いる方法です。
なかなか褒め言葉が出て来ないなら、身近な人から聞き出してみるのもいいと思います。日常のなかで“当たり前”になってしまっているような、ほんの些細なことでもいいのです。
例えば
「今日はごはんを3食手作りした」
「時間通りに起きられた」
「洗濯物を全部畳んだ」
などです。こうしてノートに書き溜めていくことで、自分のいいところが文字で見える化され、このノート自体が気持ちを上げるためのツールになっていきます。
相談者さんのように「老いに対して落ち込む」ことがあってもいいのです。そのとき、「今は負の部分に目が向いているな」と気づけることが大事です。そしてそんなときに、このノートを開いてみてはいかがでしょうか。
PROFILE 八木経弥さん
取材・文/大楽眞衣子