喫煙者の手元

どうしても禁煙できない、これって意志が弱いからなのでしょうか?「禁煙できない人は、自分を責めないでください。喫煙依存に“意志”は関係ありません」と話すのは、禁煙専門医の川井治之さん。タイプ別の禁煙対策を聞きました。

「タバコがないとイライラするタイプ」に有効なのは?

タバコには3つのタイプの依存があります。ひとつが“体の依存”です。

 

ニコチンが体のなかからなくなると、タバコを吸いたくなる、イライラや不安を感じる、落ち着かない、集中できない、眠気を感じるなどの禁断症状が現れます。

 

タバコを吸うとこのような症状がやわらぐ人は、体の依存が起こっているかもしれません。

 

体の依存タイプの人がタバコをやめられないのは、この禁断症状に耐えられないからです。

 

これを断ち切るには、禁煙補助薬を使った薬物療法がおすすめです。薬物療法には、ドラッグストアで販売されている「ニコチンパッチ」や「ニコチンガム」を使う、禁煙外来で医師に相談して内服薬や貼り薬を処方してもらう方法があります。

 

禁煙補助薬は禁断症状を軽くするため、タバコをやめる成功率が2~3倍高まると報告されています。

「起きたら一服」タイムはメモ書きで解消!

次のタイプは“習慣の依存”です。寝起きや食後、コーヒータイムなどに一服することがルーティーンになっている人は、このタイプにあてはまります。

 

同じ時間に同じ場所で、ある人と一緒のときなど、一定の条件下で喫煙しないと落ち着かないのが、習慣の依存です。

 

このタイプの人は、いつどんなときにタバコを吸いたくなるのか知るために「レコーディング禁煙」を始めましょう。

 

まず、タバコを吸いたくなったらその時間をスマホやノートなどにメモして、寝る前に今日は何本吸ったか計算します。

 

そして、このメモの作業を1週間ほど続けたら、今度は吸ったときの状況を詳しく書いてください。場所やそのときの気持ち、誰と一緒にいたかを記録します。

 

喫煙の習慣がわかったら、今度は実践です。習慣のなかで喫煙を他の行動に置き換えてみてください。例えば、喫煙する代わりにガムを噛んでみる。

 

いきなりタバコをやめるだけだと、今まで喫煙が生活のピースとなっていたのにそれが欠けて落ち着かなくなり、再びタバコを吸い始めてしまうでしょう。

 

しかし、ガムで補えばそのピースがピタリとはまり、いつもの生活が平穏に過ぎていきます。

 

このような習慣の置き換えが喫煙とその条件の結びつきをゆるめて、喫煙の習慣はだんだん弱まります。

 

最初のメモ作業をするだけでも大きな意味があります。喫煙したらメモしなくてはいけないと思うと面倒になり、自然に吸う本数が減ってくるのです。

 

こまめにメモをとることは喫煙以外の新しい習慣をつくる練習になりますよ。

「タバコを吸えばストレス解消」と思う人の盲点

最後は、“心の依存”です。「タバコの害は小さい」「タバコを吸うとストレス解消できる」「禁断症状は耐えられない」と、このように心の依存がある人は思い込んでいます。

 

それは3つの原因で引き起こされます。1つ目は、タバコを吸うとニコチンの禁断症状が一時的にやわらぐため「喫煙はよいものだ」と錯覚していること。

 

2つ目は、これまでのような仕事で一服するようなことに寛大な社会のあり方などから、「喫煙しても問題ない」という空気があること。

 

3つ目は、「タバコを吸うと集中できる気がする」「一服したら落ち着ける」など喫煙の言い訳を探して、自分を正当化する方向へ考えを変えていること。

 

心の依存タイプの人は頑なに喫煙する自分を否定できなくなっているため、これらの思い込みによる誤解を正していく必要があります。

 

とはいえ、そのために正しい知識を学んでいこうとしても「でも、タバコがそんなに悪いとは思えない」と考えてしまいます。

 

しかし、まずは「タバコの害はある」と現実を素直に受け入れてみましょう。心の依存から抜け出す第一歩は、禁煙を否定的に捉えて喫煙を都合よく合理化してしまう癖を自覚することです。

 

そこから、現実に目を向けて、本やネットなどからタバコの害に関する正しい知識を吸収し、自分のなかの偏見を修正していきましょう。

 

心の依存はもちろんですが、体の依存や習慣の依存においても、一人でどうにかできないと感じたら禁煙外来に通ってみるのも手です。

 

医師や看護師などが励まし、サポートする体制が整っています。くじけそうなときや禁煙をやめたくなったとき、的確なアドバイスが欲しいときは、ぜひ医師に相談してみてください。

 

PROFILE 川井治之さん

川井治之先生
禁煙専門医、岡山済生会総合病院がん化学療法センター長、内科診療部長。肺がん患者と30年以上向き合う中で、禁煙の大切さに気付く。以降、禁煙外来をしながら、「禁煙センセイ」としてのSNS活動や講演、書籍の執筆など啓発に力を入れている。

取材・文/廣瀬茉理