タバコを消している

在宅勤務になってつい誰の目もないからタバコに手が伸びる、喫煙で気分転換したくなるコロナ禍で喫煙量が増えた人もいるでしょう。「喫煙は重症化リスクや免疫力に影響を及ぼします」と、禁煙専門医の川井治之さんは注意を呼びかけています。

喫煙と新型コロナウイルスの関係

今までの研究から、喫煙したことのある人が新型コロナウイルスに感染した場合、重症化しやすいことが、かなり早期の段階から分かっていました。

 

2021年8月に米国のカリフォルニア大学サンフランシスコ校などの研究グループが発表した論文では、45歳未満の喫煙者は新型コロナウイルスの重症化が顕著に進行することが記されています。

 

これは、若い人でも喫煙者であれば、新型コロナウイルスの感染によりICUや人工呼吸器の使用しなければならない危機的な状態に陥る可能性を示しています。

 

長年喫煙をしていると肺が壊れて、“タバコ肺”と呼ばれる病気「慢性閉塞性肺疾患 (COPD)」になる人がたくさんいます。

 

“タバコ肺”が進むと、肺の機能が低下してどんどん弱っていきます。主な症状としては、息切れ。平らな道を歩くような日常的な場面でも息が切れやすくなり、水の中で溺れているような苦しさが続きます。

 

このような “タバコ肺”を抱えたヘビースモーカーが新型コロナウイルスに感染すると、 呼吸困難に陥る可能性があります。

タバコを吸う人が重症化しやすくなる理由

タバコの煙は全身の免疫力を下げることも明らかに。なかでも、肺の免疫機能が大きく影響を受けます。

 

肺には、細菌やウイルスを掃除する「肺胞マクロファージ」と呼ばれる白血球がいます。タバコの煙はこの肺胞マクロファージの機能を低下させるため、新型コロナウイルスや肺結核、肺炎などに感染しやすくなるのです。

 

肺胞マクロファージの機能が低下した状態で肺の中にガンができると、進行を防げずそのまま大きくなってしまうことがあります。喫煙は新型コロナウイルスだけではなく、あらゆる大病にかかるリスクが高まる習慣です。

 

喫煙者本人だけでなく、受動喫煙した周りの家族や友人にも悪影響を及ぼします。喫煙していなくてもタバコの煙を吸ってしまえば、喫煙者と同じく免疫機能が低下する恐れがあるのです。

変化する禁煙への意識

ここ数年のコロナ禍で重症化リスクの知識が広まっているため、「重症化が怖いから禁煙しよう」と思った人は増えていると言われています。

 

加えて、密閉・密集・密接の“3密”になりやすい喫煙スペースが各地で閉鎖されていることも、外出先で喫煙しにくい状況をつくっていますよね。

 

もし“タバコ肺”になってしまった場合、進行を止める薬はありません。これ以上肺をいじめないためには禁煙がいちばんの薬です。

 

タバコをやめれば、新型コロナウイルスの重症化リスクを低下させ、本来体が持つ免疫力をキープできるでしょう。将来的には、自分や周囲の大切な人々が肺がんや肺炎のような病気にならないための予防にもつながります。

 

コロナ禍で自分の健康と向き合う機会も増えたと思います。未知の病気と闘うことを禁煙のきっかけにしてみてはいかがでしょうか。


PROFILE 川井治之さん

川井治之先生
禁煙専門医、岡山済生会総合病院がん化学療法センター長、内科診療部長。肺がん患者と30年以上向き合う中で、禁煙の大切さに気付く。以降、禁煙外来をしながら、「禁煙センセイ」としてのSNS活動や講演、書籍の執筆など啓発に力を入れている。

取材・文/廣瀬茉理