マカロン

ケーキや焼き菓子に比べてもサイズがひときわ小さいマカロン。それなのにお値段は高め。美味しいとはいえ、いくつも買うのはためらいますよね。でも、なぜこんなに高いの?高級スイーツ激戦区・芦屋で洋菓子店を営むパティシエの伊東福子さんに聞きました。

美しく作るのに高い技術が必要な洋菓子

—— なぜマカロンは値段が高いのでしょうか?大好きなのに高いからたくさん買えなくて。

 

伊東さん:

作るのに高い技術が必要なこと、時間がかかることや材料費がかさむことが大きな要因だと思います。

 

技術的なことをいえば、「ピエ」を出すことがとても難しいのです。「ピエ」とは、マカロン生地を焼成(オーブンで焼く)する際に、板に接地して焼かれる面(円状の部分)にできるギザギザの膨らみのこと。

 

焼き上げる過程で、「ピエ」は膨らもうとする空気が上に出られずに下からはみだすことで生まれ、上手なマカロンの目安とされています。

 

「ピエ」を作るには、マカロナージュという作業が決め手になります。アーモンドプードルと粉糖をメレンゲ(卵白とグラニュー糖)に加えて、その後、ゴムベラやカードで気泡を潰すことをいいます。

 

“泡を殺すと言いますが、その技術によって焼き広がり方も変わります。

 

生地が膨らむもととなる気泡を均一にした状態で乾燥をさせると、表面に膜ができ、焼いたときにマカロン特有のつるっとした質感になります。

 

マカロナージュをやりすぎると、生地の膨らむ力が弱く液体化して「ピエ」ができません。逆に足りないと、焼くときに生地が破れたり、「ピエ」もできなくなります。

 

—— マカロナージュのスキルですか!他にも技術的に難しい点はあるのしょうか?

 

伊東さん:

焼成も大事です。焼いているときに「ピエ」が出てきた時点で温度を下げないと、焼き色を美しく保てなくなります。

 

焼きすぎてしまうと表面に焼き色が入ってしまうので、色粉(食用着色料)で着色しているのに、焼き色がそこに加わると鮮やかな色になりません。

 

使うオーブンの特性にもよるので、焼成にも技術が必要です。

 

フランスのパティシエにとっては、マカロンが作れれば一人前と言われるくらいです。

 

—— 生地も焼くのも手間がかかるんですね。ほかにも、作る際に大変なことはありますか?

 

伊東さん:

製造過程においては、マカロナージュを含めた生地作りの時間と、生地を焼く板に絞ってから、表面が乾燥するまでオーブンラックにさしておく時間が1時間以上はかかります。

 

焼成時間も入れてクリームも作るとなると、手早くやっても2時間半はかかるでしょう。

 

仕込む量にもよりますが、フィナンシェだと約1時間、絞り出しクッキーだと約3040分なので、作業時間も違いますよね。

美味しいマカロンは噛んだときにわかる

—— なるほど。ところで、美味しいマカロンって何か特徴があるんですか?

 

伊東さん:

美味しいマカロンの特徴は、噛んだときに歯にくっつかないことですね。

 

表面が乾いた時点で焼成したものは、生地の周りがサクッとしていて、中がバタークリームだったり、ふわっと口いっぱいにジューシーさが広がる感じ。

 

噛んだときに、ネチッとして歯にくっつくのは、うまくできてない証拠です。

 

—— 技術的なことや時間がかかることはわかりましたが、卵白、グラニュー糖やアーモンドプードルなどで、材料費はかかってなさそうなイメージです。

 

伊東さん:

こだわりがあるお店だと、ふだん使いするアメリカのアーモンドプードルではなくて、スペインのマルコナッシュという値段が高いものを使います。これはアーモンドの油分や香りが全然違います。

 

クリームに関しても価格が高いバタークリームを使ったり、バタークリームに風味づけするためのコンフィチュールを入れたり、ペーストを練り込んだりするお店もあるので、工夫するお店ほど材料費は高くなります。

 

果物と砂糖を煮詰めて作るマカロンのコンフィチュールは味を凝縮させるために、かなりの量の果物を使います。

 

“コンサントレ”といって、フルーツ本来の色や香りを損なわないよう濃縮して作られています。濃縮具合が足りず水分量が多いと味がぼやけるし、マカロンもふにゃふにゃに。

 

だから、仮に1キロの材料を使ったとしても、実際にマカロンに使えるのは濃縮された200グラム程度と、全体の5分の1程度。大量にフルーツを使わないといけないんです。

 

それと、通常、洋菓子店に行くとマカロンは数種類で売っていますよね。

 

複数の味(フルーツなど)を用意する必要もあり、小さくてもそれなりの価格にしないと採算がとれないんです。

どら焼きサイズのマカロンが存在しない訳

—— お値段がはるのはよくわかりました!でも、1個を大きくしてほしいです。どら焼きサイズで食べたいんですけど、なんで大きいマカロンが売ってないんですか?

 

伊東さん:

サイズを大きくすると、乾燥により時間がかかってしまいます。そうすると中と外のバランスが悪くなり、割れるリスクにつながりやすいんですよね。

 

生菓子の生地の土台として、大きく焼かれているマカロンはあると思うんですが、そういった場合はきちんとマカロンとして作ったものより仕上がりに違いが出てきます。

 

あとは焼き時間もかかるので、そのぶんオーブンに入れたときに爆発しやすいこともありますね。

 

—— マカロンは想像以上に繊細なんですね。ちなみに日持ちはどれくらいしますか?

 

伊東さん:

保存が効かないイメージがあるかもしれませんが、冷凍保存すれば、クリームをサンドしたものでも2週間程度は風味が落ちません。

 

急速冷凍かけたマカロンなら製造して12か月の間に、売れるごとに店頭に出すお店もあると思います。

 

じつはマカロンはクリームをサンドしたてよりも、サンドして3〜4日程度経ったほうが味のなじみが良かったりします。

 

1回サンドして冷凍にかけて解凍したほうが、味のまとまりがいいんですよ。

 

—— わかりました!マカロンは技術の賜物で作られる贅沢な一品だからこそ、高級だったんですね。明日からは心していただきます。

 

PROFILE 伊東福子さん

鮮度にこだわった繊細な洋菓子が定評の「ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋」(2009年開業)のオーナーパティシエール

取材・文/CHANTO WEB NEWS