子どもが遊んでばかりでやるべきことを先送りにしていると、親はついついガミガミとうるさく注意していまいがち。いったいどのような声かけが、子どものやる気につながるのでしょうか。教育家・見守る子育て研究所(R)所長の小川大介先生に伺いました。
【Q】やる気がないからサポートしても結局空回り
小学生3年の子どもの母です。見通しを立てるのが苦手で、嫌なことを先送りにしてしまうタイプの子がいます。
宿題や、歯磨き・お風呂などの基本的な生活の取り組みについて、やるべきことを見える化して表にしてみたり、タイマーをかけてみたりと、いろいろと見通しを持てて、安心して次の一歩が踏み出せるようにサポートしているつもりですが、うまくいきません。
結局、私がやらせているだけで、本人にやる気がないため続かないのかなと思っています。先送りの堂々めぐりでどうしたら良いかわかりません。
「計画を立てれば動くはず」は間違った思い込み
生活を「取り組み」と捉え、予定を見える化し、タイマーも使ってスケジュールをしっかり管理されているとのこと。相談者様は「見通しを立てて安心したい」と思っているのかもしれません。もしかすると、ご自身が決めた予定をいかにお子さんに実行させるかという思考に陥ってしまっているのではないでしょうか。
きっと毎日とてもお忙しいのだと思いますが、「お子さんを見ること」を忘れてしまっている可能性も。今一度、お子さんがどんなときに気分が乗り、どんなときに楽しく動くのか、観察をしていただきたいなと思います。
そのためにもまず、「計画を立てれば動くはず」という決めつけや押しつけはやめましょう。私たち大人は、日々限られた時間のなかで計画を立ててタスクを実行するというプロセスを繰り返すなかで、だんだんと、計画を立てれば動ける習慣が身についてきます(全員ではありませんが)。なかでも日頃からハードにお仕事をされている方は、「人は計画を立てれば動くはず」という思考に陥りがちです。
しかし、成長過渡期において、計画は人を動かしません。ご相談者様のお子さんは小学3年生とのことですが、本来、このくらいの年齢の子どもが見通しを立てるのは難しいのです。計画を立てるのではなく、まずは動かしてあげるサポートが大切になります。
動くことがやる気のスイッチに 脳科学でも明らかに
ドイツの心理学者、エミール・クレペリンが提唱した「作業興奮」という概念をご存じでしょうか。「やる気」は動き始めてから生まれてくるというもので、これは脳科学的にも明らかになっています。
5分くらい動くと前頭前野の側坐核が刺激され、やる気をつかさどる神経伝達物質のドーパミンが分泌されるといいます。つまり、とりあえず動くことがやる気のスイッチになるので、脳を活性化させるために何事もまずはやらせてあげることが重要になります。
大人も同じです。急に上司から命じられたタスクは嫌なものですが、やってみたら意外とサクッと終わったりしますよね。子どもはもっとその傾向が強いのです。計画や予定、タスクというものをただ突きつけられるのは、子どものやる気を削ぐので、いかに一歩目をスムーズに踏み出せるかを意識して声を掛けてあげましょう。
例えば宿題なら、まず「机の上にプリントを置いて鉛筆を持ってみようか」「今日の日付と時間を書くところからやろうか」「教科書とノートを開いて、今日習ったことを声に出して読んでみたらどうかな」など、きっかけをつくってあげるような声かけをしてあげるといいと思います。
歯磨きも「しなさい」ではなく、まずは「立とうか」「洗面所に行こうか」と語りかけてみる。「ママも歯磨きするから、あなたもどうぞ」と歯ブラシを渡してみる、なんていうのもいいですね。すると子どもは、「えー」と文句を言いながらも歯を磨き始めます。
一歩目が踏み出せたら、「できたね」と安心させてあげてください。「宿題が終わったね」「歯を磨けたね」と、できたことをその都度言葉にしてあげましょう。その「できた」体験が積み重なると、お子さんのなかでだんだん「宿題=終わらせられる」「歯磨き=できる」という感覚が育っていきます。
こんなふうに脳の働きとして理にかなっているサポートをしてあげれば、堂々めぐりに思える今の状況はきっと変わっていくでしょう。
PROFILE 小川大介さん
取材・構成/佐藤ちひろ