先月23日からおよそ2ヶ月の休園期間を経て営業を再開した上野動物園。入場は事前抽選制にするなどの対策をとっていますが、コロナ禍でも人気は衰えていません。先月140周年を迎えた上野動物園の福田豊園長は「時代と共に役割が変わっていく」と話します。これからの動物園の在り方について、福田園長にお話を伺いました。

ジャイアントパンダの観覧は抽選24倍も

──上野動物園は先月23日から再開園しましたが(ジャイアントパンダの観覧は25日から)、来園される方の反応はいかがですか。

 

福田園長:

楽しみにしていた方がたくさんいらっしゃいまして、皆さんの表情を見ますと、とても明るい印象を受けます。暗い話題が多い中で、動物園に来て楽しいひと時を過ごしていただくことで、心なごむ時間を少しでも持っていただけたらいいなと思っています。

生後103日の双子のシャオシャオ(左)とレイレイ(右)2021年10月4日撮影

 

──休園中も動物たちの飼育は続いていたと思いますが、コロナ禍にあってどのような点に注意していたのでしょうか。

 

福田園長:

たくさんの種類の動物を飼っておりますし、コロナの状況に関わらず動物の世話は継続して行わねばなりません。

 

人間側のコロナ感染によって飼育業務が停止することがないよう、スタッフの体調管理などは万全の対策を講じてきました。スタッフひとりひとりが徹底してくれたおかげで動物への影響はありませんでした。

 

ジャイアントパンダは比較的神経質ではないのですが、ゴリラやゾウなどをはじめ、動物によっては担当の飼育係が変わるだけで落ち着かなくなるものもおります。

 

コロナ禍でもなるべく環境が変わらないようにして、担当の飼育係や餌を与える方法についても変えずに、これまでの日常が維持できるようにしてきました。

「時代と共に役割が変わっていく」これからの動物園

──先月、上野動物園は開園140周年を迎えたそうですね。これからの動物園のあり方についての考えをお聞かせください。

 

福田園長:

福沢諭吉が「動物園」という言葉を使い始めて、そこから今に続くわけですが、時代と共に役割が変わってきていると思います。

 

1882年に日本で最初の動物園として開園した上野動物園は、当初、博物館的な要素がありまして、国交を結んだときに先方の国から贈られる珍しい動物を飼育していました。

 

海外になかなか行けない時代は、動物を見て驚かれた方も多かったと思います。特に戦後、まだ日本が荒廃していたときには子どもたちがゾウを見て大変喜んだそうです。なかなか足を運べない方のために移動動物園などにも取り組んできました。

1949年にインドのネール首相から贈られ人気となったアジアゾウのインディラ

 

今はインターネットなどもありますし、動物の情報を得る手段はたくさんあるのですが、生でしか伝わらないことがあると思っています。

 

においですとか触感、あたたかみや空気感も含めて、間近で観察してみないとわからないこともあるので、動物の姿を実際に見ることで何か新しい発見をしていただきたいと思っています。

生後272日の双子のレイレイ(左)とシャオシャオ(中)、母親のシンシン(右)2022年3月22日撮影

 

最近は動物園が蓄積してきた飼育や繁殖技術が、絶滅危惧種を守る仕事にも活かされていますし、環境教育や研究にも役立てられているノウハウもあります。動物を通して、自分とは違う他人や生物の命について考えるきっかけになるためには、皆様にとって動物園が身近な存在でありたいと思っています。

 

親しみを持っていただくことで、地球環境や野生生物を守るという行動にも結びついていただけたらいちばん嬉しいです。

 

取材・文/内橋明日香 写真・動画提供/(公財)東京動物園協会