星野リゾートが国内5箇所に展開するリゾートブランド「リゾナーレ」は、地域の魅力を再発見し、アクティビティや体験として発信することで地域おこしにも貢献しています。農業と観光を組み合わせた、日本初の「アグリツーリズモリゾート」に着手し、今春も満室の日が続いているというリゾナーレ那須。施設の立ち上げから携わり、現在総支配人を務める松田さんにお話を伺います。

開墾前の現地調査で見えた方向性

──201911月に開業したリゾナーレ那須のコンセプトはどのように決まったのでしょうか。

 

松田さん:

2017年に代表の星野から「この土地にリゾナーレを作りたいと思う」と声をかけられまして、そこから立ち上げメンバーとして現地の調査を始めました。

開墾前のリゾナーレ那須「アグリガーデン」

 

那須はかつて関東圏から人気のロイヤルリゾートとして盛り上がりましたが、その後は少しずつ落ち着いてきました。

 

そのため、まずはどのようにエリアとしての強みを出していくか、全体をどう活性化していくかを考えました。

 

調査をしていくなかで、とても雄大な自然、日本ならではの里山の風景が観光資源以外の大きな魅力だと感じまして、農業と観光を掛け合わせたアグリツーリズモというイタリアの考え方と、リゾナーレブランドのコンセプトである「大人のためのファミリーリゾート」の両方を採用する「アグリツーリズモリゾート」に取り組もうということになりました。

開墾後のリゾナーレ那須「アグリガーデン」

 

現在の日本のアグリツーリズムやグリーンツーリズムは民泊が主流ですが、それとは違って日本のリゾートホテルが手がけることによる新たな市場や、那須の観光施設以外の魅力を打ち出していこうというものです。

「現場はどうなのか」星野代表の言葉の意図

──星野代表がスタッフに伝えていることは何かあるのでしょうか。

 

松田さん:

全社員向けのメッセージや、月に1度、全国の総支配人が集まる会議があるのですが、星野はいつも「現場はどうなのか」ということを繰り返し言っています。

 

経営戦略や目指す方向はあるのですが、実際にお客様に対峙して触れ合っているのはすべて現場のスタッフ。お客様のリアクションや現場のスタッフの反応はどうなのかというのを折に触れて言っておりますね。

 

私は総支配人という立場で「うちの施設ではこうです」と報告しているのですが、決してトップダウンで決めつけて言うのではなく、私や他のメンバーが自分で考えたことを繋ぎ合わせて物事を決めています。突然、電話が来てびっくりすることもあります(笑)。

松田さん(写真左)とスタッフ、地元農家の方と一緒に

 

──滞在中に楽しめるアクティビティの多さが魅力のリゾナーレですが、アイディアはどのようにして生まれているのでしょうか。

 

松田さん:

毎月それぞれの施設ごとにエリアの魅力を発信していくための魅力会議と、リゾナーレ那須ではお客様へのサービスを話し合うおもてなし会議というものがあります。ここでいろいろなメンバーが集まってアイディアを出したり、実際に動き出すためのプロジェクトチームを作ったりしています。

 

スタッフの多くは施設から車で20分圏内に住んでいるのもあり、休みの日に新しい場所を開拓する機会も多く、そこからアイディアが膨らんでいく形です。何か物事を動かす際には、ひとつの頭よりたくさんの頭で考えようという気風があります。

コロナ禍で見えた「大人も子どもも自然を求めている」

──コロナ禍でスタートした、ピクニックができるサービスが今では定番化しているそうですね。

 

松田さん:

朝食と夕食のビュッフェレストランを、一時期テイクアウトにしていたことから始まりました。今もテイクアウトを選択することができるのですが、朝食をピクニックボックスにして、クッションやシートをお貸し出しして、ひとつの過ごし方として提案しています。

 

今の時期はとても好評で、お部屋の前にあるテラスや田んぼのあぜ道など、思い思いの場所にシートを敷いてお食事を召しあがっていただいております。

 

コロナ禍で誕生したサービスですが、密を避けることができ、広大な敷地の自然を感じることが出来るとあって、ピクニックボックスを好んで選ばれる方が多くいらっしゃいます。

 

コロナ禍で家にいる時間が増えたことで大人も子どもも外に出たい、自然と触れ合いたいという声が増えたように感じています。

野菜やハーブの種まきや収穫を体験できる「ファーマーズレッスン」

「作物が育つ様子を見たい」リピーターが多い農業体験

──農業体験ができるアクティビティにはリピーターも多くいらっしゃるそうですね。

 

松田さん

春先に宿泊した際にカブの種を蒔いたお客様から、数か月後に「カブは今どんな状況ですか」とお問合せをいただきました。収穫時期に合わせてまた予約を取るので、その時期を教えてほしいとのご依頼でした。

 

去年からスタートした「お米の学校」は、種まきから稲刈りまで行い、お米の1年を切り取って体験するものなのですが、そちらにも繰り返し体験にお越しくださるお客様がいらっしゃいます。

全5回の工程で種まきから稲刈りまでを体験できる「お米の学校」

 

毎年56月に、田んぼ沿いのお部屋をご希望されるお客様もいらっしゃいまして、その方はカエルの声が聞きたくてご宿泊されたいというご要望でした。都会ではなかなか聞けないのですが、本当に驚くくらいカエルの大合唱なんです。それを聞くことで季節を感じていらっしゃるようですね。

 

夏野菜の種を植える今の時期には、作物が芽吹いていく様子がわかりますし、毎年ゴールデンウィークの頃には田植えを行なっています。土に触れることで、四季の移り変わりを間近で感じることができますし、農業の営みについては頭ではわかっているけれども、実際にはなかなか体験できないという方に、少しでも感じて楽しんでいただけたらと思っています。

滞在中の体験を通して「日常の活力を得てほしい」

──体験型のアクティビティが多い理由はなんでしょうか。

 

松田さん:

子どもたちには生きていく上での底力を築いていただきたいと思っています。大人も非日常に触れることで童心を取り戻し、リフレッシュすることで、日常に戻った時の活力を得られると思うんです。

 

お子様が主役の旅から、大人もリフレッシュができる滞在を目指しているのですが、日常で時間に追われているとなかなか気づけない、お子様のちょっとした発見や気づきを一緒に共感する時間を楽しんでいただけたらと思っております。

 

PROFILE 松田直子さん

2005年星野リゾート入社後、リゾナーレ八ヶ岳ではアクティビティ・ユニットを担当。リゾナーレ熱海で、手つかずだった森を活かしたツリーハウスプロジェクトを立ち上げる。現在は開業から携わったリゾナーレ那須の総支配人に就任。コロナ禍での厳しい運営でも、アグリツーリズモリゾートとして、日々サービスを進化させている。

取材・文/内橋明日香 写真提供/星野リゾート