子ども向けの法律書『こども六法』の著者である山崎聡一郎さんは、「法教育とは、人生を選ぶ力につながるものだ」と話します。
果たしてわが子は、人生を自分で選ぶ大人になれるのか ──?
2022年度から成年年齢が18歳になり、これまでより2年早く大人になる子どもたち。保護者が心がけたいことについて「法教育」の観点からお話を伺いました。
成年には人生を選ぶ権利がある
── 2022年度から成年年齢が18歳に引き下げられました。まずは引き下げの経緯を教えてください。
山崎さん:
海外では、多くの国が18歳を大人(成年)としています。成年年齢引き下げは、国際基準や、若者の成熟の早さを理由に、以前から進められてきた議論です。
その一環として、日本でも2016年に選挙権の年齢が18歳に引き下げられました。
── 「18歳で大人(成年)になる」ということを、私たちはどう捉えればいいのでしょうか。
山崎さん:
法的に、人生を選ぶ権利が得られると考えればわかりやすいと思います。
同時に磨かなければならないのは、権利を行使する力です。僕は、大人になるということは、自分の人生を自分で選択し、その結果に責任を負うことだと思っていますが、意外とできていない人が多いですよね。
── 手痛い指摘ですね。
山崎さん:
30歳、40歳になっても自分の人生に迷っている大人はたくさんいます。18歳ならなおさらです。制度上、大人になったからといって、人生を選ぶ力が急に身につくわけではありません。保護者はそのことを念頭において、子どもをサポートしてあげてほしいと思います。
「自分の人生を選べる大人」の条件
── わが子を「自分の人生を自分で選べる大人」にするためにはどうすればいいでしょう。
山崎さん:
思考力を養うことだと思います。
そこで有効打となり得る教育が「法教育」です。現在では学習指導要領にも盛り込まれ、さまざまな教科を通じて実施することが求められています。
日本国憲法はみなさん学校で習ったと思いますが、それは条文を暗記するような学習でしたよね。でも実生活で必要なのは、どんな法律を覚えているかよりも、法律をいかに解釈し、活用するか。
「法教育」は、これまでのような暗記ではなく、法的に物事を捉え、考える力を磨くことを重視しています。法教育の視点も踏まえて新たに導入された「公共」という科目では、「意図せず高級商品の契約をさせられたらどうするか」などの事例をベースに生徒同士で思考するような授業も想定されています。
法律に対して「なぜ?」と考える訓練をすることで、「権利を行使する力、ひいては人生を選ぶ」力が身につきます。
物事を主体的に考える力は、もともと大事な力ですが、今後はより求められることになるでしょう。
── 保護者にとっては未知の学問ですね。
山崎さん:
私の著書である子ども向けの法律書『こども六法』は、子どもだけでなく、大人からの反響も大きかったんです。法律の理解に不安を感じている大人は多いのだと感じましたね。
大人は法教育を受けてきていません。だからこそ、保護者は子どもと一緒に法教育に触れていくべきだと思っています。
「自分で決める訓練」でトラブル回避
── 金銭に関わる契約も、これからは18歳であればひとりで結べるということですよね。
山崎さん:
そうです。保護者の同意なしでクレジットカードの作成や賃貸物件の契約ができるようになります。ただ、18歳というと高校を卒業したばかりです。場合によっては不利な条件の契約を結ばされるなど、搾取の対象になってしまうことは否定できません。
── 18歳になった途端、独断で契約してしまう可能性がある訳ですが、成年なので子ども扱いするわけにもいきません。保護者はどう関わっていけばいいでしょうか。
山崎さん:
もちろん、最終的な決定権と責任は子ども本人になります。
ただ、それは制度上の問題。保護者はやはり心配ですよね。最終的な決定権と責任の所在は本人にあるという前提は持ちつつ、「あなたの意見はわかるけど、その契約はこういう理由で危険だよ」と客観的にアドバイスするのが理想だと思います。
── 逆に、18歳になっても保護者に頼りきりの子どもは、どう手を離していけばいいでしょう。
山崎さん:
個人的にはそういった子のほうが、自分で思考する機会が少ないという意味で、独断で決めてしまう子より危うい気がします。
保護者がすべて決めるのではなく、意見を聞きながらアドバイスをしてあげればいいのではないでしょうか。
物事を判断するのには訓練が必要です。18歳を待つのではなく、小さいうちから、「自分で決める」訓練をしておくことが大切だと思います。
── というと?
山崎さん:
人生を選び取るための思考力は、周囲に意思と権利を尊重して接してもらい、自分で考えることで伸びます。
「法教育」はその思考力を伸ばすうってつけの方法と言えますが、実は普段の生活からでもできることです。
小さいうちから、「自分はどうしたいのか」を考えさせて、自分で「選ぶ・考える・決める」習慣をつけておく。そうした選択・思考・判断の繰り返しが、自分の人生に責任を持つという自覚につながっていきます。
そうした覚悟がある人は、社会で困難にぶつかっても人のせいにせず、自分の人生を満喫できるのではないでしょうか。
PROFILE 山崎聡一郎さん
取材・文/服部椿 イラスト/加納徳博