相談されたり、悩みを打ち明けられたりする人のなかには、話を聞き終わったあとに、ぐったりと疲れてしまう…そんな悩みを抱える方もいるのではないでしょうか。
産業医・精神科医として1万人超の話を聞いてきた井上智介先生に、自分の心を疲弊させない話の聞き方を教えてもらいました。
疲れる原因は自分自身にある!?
なぜ、他人の話を聞いて疲れてしまうのでしょう。
それは、相手の悩みや愚痴を聞いて、「なんとかしてあげたい」と思ったり、「自分にできることはないか」と一生懸命考えたりしていることが大きく関係しています。
悩んでいる相手にどんな言葉をかけようか、その答えを探している間、頭の中は、これまで経験した出来事や見聞きしたことを、必死に思い出している状態です。
常に思考をフル回転させているので、どっと疲れてしまうことがあります。
一方で、共感力が高い人も、疲れてしまうことがあります。なぜなら、相手が話す悩みやつらい出来事を、自分事化しながら想像して話を聞くと、つらい出来事を擬似体験していることになるからです。
自分の心に余裕があればいいですが、受け止めきれなくなると疲弊しかねません。まずは、原理を知り、客観的に受け止められるようにしましょう。
心が疲れない話の聞き方
自分の心を疲れさせずに相手の話を聞くには、いくつかのマインドチェンジとコツがあります。ここでは3つの方法をお伝えするので、取り入れやすいものから、ぜひ実践してみてください。
自分の無力さを認識する
相手の話に対して、何かうまいアドバイスを言わなくては…と思ってしまう人の深層心理には、せっかく相談してくれたんだから、役に立とうとしなきゃいけない、と気負いすぎてしまう傾向があります。
でも、人間は他人に対して、そこまで大きな影響力はありませんし、解決策を必ず伝えられるわけではありません。
実は、わたし自身も若い頃は同じ思いを抱えていました。
医者たるもの患者さんを助けて当たり前。勇気を出して精神科を訪ねて、自分を頼ってきてくれているのだから、なんとかしてあげたいし、なんとかできなきゃいけないと思っていたんです。
でも、医療はもちろん、行政や教育、司法が関わって一生懸命やったとしても限界があり、救えないことも当然あります。
そんな経験をたくさん重ねてわかったのは、自分が今できることは「目の前にいる患者さんの話を聞くこと」。「”何とかできる”と思っていること自体が、自分のエゴかな」というスタンスで向き合うことができています。
まずは、自分の無力さを認識する。そう思うことが、自分の心を守る第一歩にもなるのです。
相手の話を評価しない
相手の話の内容を評価しないことも、疲れない話の聞き方のひとつの方法です。ポイントは、できるだけ相手の話している内容に対して、肯定も否定もしないようにすること。
自分が悩みを誰かに打ち明けるシーンを想像してみてください。おそらく、相手に解決して欲しいから話すと言うよりは、ただただ話を聞いて欲しいという思いが強くはないでしょうか。
意外と相手も、アドバイスは求めていなかったり、聞いてもらうだけでスッキリしているもの。
それでも一転して聞く側にまわると、「なにかしなくちゃ」と思ってしまいがちですが、話し手と聞き手、双方で求めているものが違うことに気づけば、相手の話に必ずしも何か意見する必要はないと思えるものです。
共感し、頷くだけでいい
相手の話を聞くうえでいちばん大切なのは、相手の話に共感しながら、ただ話を聞くこと。シンプルにこれだけなのです。
実は冒頭で触れた「なんとかしてあげたい」と考えている状態は、頭では最高のアドバイスを思案しているので、相手の話を聞いていないことにもなりかねません。
ですから、客観的に頭の中がフラットな状態で「そんな大変なことがあったんだね」のように相手の気持ちに共感しながら話を聞く。
言葉を伝えなくても、黙ってうなずくだけでも、しっかりと話を聞いている姿勢が伝わり、相手に安心感を与えることができるのです。
聞くことしかできない自分に、罪悪感を抱く必要はありません。
どんな自分もまるごと受け止めよう
他人の話を聞いて疲れるということは、それだけ相手のことを親身になって考えているということ。まずは、そんな自分の気持ちと、自分そのものを受け止め、大切にしてください。
そして、反対に今の自分にしんどさや生き辛さを感じたときは、ひとりで抱え込まずにぜひ周りの人や私たち医師を頼ってほしいと思います。
こんな些細なことで悩んでいる…と思う必要はまったくありません。必ず、状況を改善する方法があります。どうか、あなたが少しでも気楽に、笑って毎日を過ごせますように!
PROFILE 井上智介
取材・構成/水谷映美