やり直せる社会 スライダー用画像

妊娠や出産、育児、介護などのライフイベントによって、思うように復職できず悩む女性が多くいます。もう一度チャレンジしようという「やり直せる社会」をかなえるためには、どんな心構えが必要でしょうか。

 

自身も3児の母であり、働く女性を支援する「ウェルネスライフサポート研究所」の代表・加倉井さおりさんにお話を聞きました。

働くママの8割以上が「心身の不調を感じている」

── 産休・育休や時短勤務で、キャリアアップをあきらめたり、仕事のモチベーションが下がってしまったりする女性も多いと聞きます。実態はどうでしょうか?

 

加倉井さん:

私が実施した「働く母1000人の実態調査」(※)では、「妊娠・復帰後・現在と仕事をする上で心身の不調を感じている母」は8割以上、「罪悪感・不安感を抱えながら働く母」は6割以上という結果が出ています。そして7割以上のお母さんが「仕事を辞めたい・働き方を変えたい」と悩んでいました。

(※)WOMANウェルネスプロジェクト「働く母1000人実態調査」(2019年) 

でもね、命懸けで小さな命を産み、育てながら仕事を通じて社会貢献をしている自分に、もっと誇りを持ってほしいです。素晴らしいですよ、お母さんたち!罪悪感なんて1ミリも感じる必要はありません。健康あっての子育てであり、健康あってのキャリアですから。

 

── 働くママたちの復職や再就職の現状については、どういった印象をお持ちですか?

 

加倉井さん:

何かしら資格を持っている女性は、復職や転職がスムーズにいく印象はあります。有資格者の方々は、自身の専門性ややりたい仕事がはっきりしているので、迷いが少なく、得意分野を生かせるという点で選ぶ方も多いからでしょう。

 

また、会社員でも「自分はこれができる」というものを持っている方のほうが強みはあります。なかには、会社員を辞めてフリーランスで起業する方もいますね。

 

── 得意なことがある人は、自信にも繋がりそうですね。一方、資格や特技がないと、「私の代わりはいくらでもいる」と考えてしまう人も多いかもしれません。

 

加倉井さん:

そうですね。コロナの影響で、誰も予想していなかった社会になりました。何が起きるかわからない時代をいま私たちはこうやって生きていて、この先も正直どうなるかわからないですよね。だからこそ、いまの職場を離れたとしても、自分で生きていけるような術を身につけておくといいと思います。

 

資格を取ることも素晴らしいですが、もっと身近なことからできることはあります。たとえば「電話対応だったら誰にも負けない」とか、「表計算は得意で人に教えられる」とか、「経理を長くやっていて労務管理はできる…」など。

 

資格の有無に関わらず、「自分はこれができます」という強みを、在職中に身につける意識で働くのです。「ポータブルスキル」といいますが、いつ会社を辞めてもどこでも通用する力を身につけられるといいですね。

「キャリア」は仕事場だけで築くものじゃない

── ご著書のなかの「人生(の出来事)は期間限定、子育ても期間限定」という一節が印象的でした。この先の人生をちょっと長い目で見てもいいのかもしれませんね。

 

加倉井さん:

そう思います。家庭によって金銭的な事情もあると思いますが、休める環境があれば、「子育ては期間限定」と考えて子育てを優先し、仕事を中断することも選択肢のひとつです。

 

先日、9年間の専業主婦を経て再就職をしたいという女性から相談がありました。ご本人はブランクに悩んでいましたが、9年間子育てをしたという経験は素晴らしいこと。子育て中は誰かの協力を得なきゃいけないときもあるし、緊急事態も発生します。子育てほど思い通りにならないことはないですから。

 

だから私はその方に「子育てを通じて、マネジメント能力を身につける研修期間だったと思いましょう」と伝えました。リーダーシップを発揮する上でも役立ちますし、子どもを産み育てながら働く人たちへの理解を深めていく、とても大事な経験をした9年間です。

育児でタスク管理を身につけた女性

── そういうふうに考え方を切り替えられると、復職への心構えも変わりそうですね。

 

加倉井さん:

キャリアやキャリアアップという言葉は、単に仕事上の肩書きやポジションを指すものではありません。働くことで身につく技術や知識や経験に加えて、人間性を磨いていくことが「キャリアアップ」だと思うんですよね。

 

人生のなかで起こるライフイベントはすべてプラスのキャリアになります。子育ても、介護の経験も、うつやがんの治療・療養も。いまは多様性社会と言われる時代。困難に感じるライフイベントを経験している人こそが、同じようなことでつまずく人たちを理解したりサポートしたりできるはずです。

 

どんな経験でも、それが必ずキャリアになると自信をもってください。「小さくても歩みをとめない」ことは、あとになって大きな喜びにつながることもありますから。

いま悩んでいることは、いつか学びや恵みになる

── キャリアが断絶されたと感じて悩んでいる女性にどんな言葉をかけたいですか。

 

加倉井さん:

「失敗」という考え方のない世界を生きていきましょう。私たちは、失敗をネガティブに捉えますよね。でもそれは二度と間違えないための経験だったり、うまくいかない人の気持ちがわかる体験だったり…。自分が成長するために必要な学びだったと考えてみてください。

 

人生には辛いことや苦しいこともあるけれど、その日常こそが学びで、その過去が何ひとつ欠けても今日のあなたはいません。これから自分がどう生きていきたいのかというビジョンさえあれば、過去にどんなことがあったとしても大丈夫。一個人にも、企業側の人にも、そういう考え方を持ってもらいたいなと思います。

 

いま悩んでいることがあっても、悩みは必ず恵みになりますよ。まずは自分の心とからだを健康に保って、そして目の前にいる人を大切にすることを第一優先に。「愛して、学んで、仕事をする」という優先順位で、新しいことにぜひチャレンジしてみてください。

 

PROFILE 加倉井さおりさん

加倉井さおりさん
かくらい・さおり/「ウェルネスライフサポート研究所」代表取締役。財団法人で18年間保健師・心理相談員として勤めた後、子育てと介護と仕事の両立に悩み退職。2010年に独立。働く女性の健康、メンタルヘルス、キャリアビジョンなどをテーマに研修や講演を行う。著書に『マンガで楽しく読めるハッピーママ入門』(かんき出版)など。

取材・文/大野麻里 イラスト/えなみかなお