家事分担で夫とバトルになっている妻たちは多いようです。共働きなのに妻に多くの負担がかかり、心身をすり減らして余裕がなくなる。そんな状況が多いなか、意外な形で夫が料理に目覚めたケースがあります。

弁当をねだった夫に妻がこぼした本音が奇跡を生む

「娘を3年保育で幼稚園に通わせたんですが、うっかりしていたのがお弁当の存在。私は弁当作りが苦手で。それでも娘が食べられる量と栄養だけ考えて作っていました」

 

そう話すのは、同い年の夫との間にひとり娘がいるリョウコさん(39歳・仮名=以下同)です。

 

 「あるとき夫が朝、チラッとお弁当を見て、『お、いいなあ。オレも弁当持っていきたいなあ。キャラ弁とか作らないの?』とのんきなことを言うんです」

 

『できないもん。せめてもうちょっと彩りをよくしたいけど、栄養面を考えると、どうしてもきれいにできなくて』とため息をつきました」

 

すると何が刺激されたのか、ふだんは料理もしないうえ、家事分担でいつも文句を言う夫が『オレが作ってみようかな』と言い出したといいます。

 

「ここでおだてるのもいいかもと思って、『そうね、あなたは手先が器用だからキャラ弁作り、向いているかも!』と言ってみたんです。

 

そうしたらすっかりその気に。ついでに私の分もお願い、と言っておきました」

 

翌日から、夫は早起きして弁当作りにチャレンジ。すぐに音を上げるかと思いきや、徐々に腕を上げていきます。娘の大好きなアンパンマンもお弁当に出現!

 

「工作をしているようで面白いって、夫もノリノリ。娘も毎日、『今日のパパ弁はなにかなあ』と楽しそうでしたね」

褒められた夫はがぜんやる気に火がついて

妻子にお弁当を絶賛され続けた夫は、勢いがついたのか他の料理にもチャレンジするように。

 

「お弁当のときは薄味だったんですが、洋風料理は味が濃かったですね。でも何度か作るうちにどんどん進化していくんです。

 

レシピのままだと濃いから、塩は3割くらい引いたほうがうち好みだな、なんてぶつぶつ言いながら作っています。しかも『料理しながら片づけもするのがプロなんだよ~』と手早くあと片づけもするように」

 

リョウコさんと娘さんは、『パパ、すごーい!』と声を限りに盛り上げています。

 

「そうするとますます張りきって。単純な人でよかったと思います(笑)。最近はコロナの影響で飲み歩くこともなく、定時で帰って夕食作りをすることも。夫にはいい気分転換になっているそうです」

 

それにしても、ゴミ出しと風呂掃除くらいしかしなかった夫が、お弁当作りに興味を示したと思ったら、ふだんの食事まで作るようになるとは。人間、興味のあることには、どんどんハマっていくのかもしれません。

 

「スマホでしょっちゅうレシピを見ています。娘に『今度、何が食べたい?』とよく聞いたり。娘も今は小学生。最近はパパと一緒に料理を作ると言い出しています。

 

私は料理からかなり解放されて、とても気がラクになりました。家事の中でいちばん料理が好きじゃなかったから」

 

そうなると「労力として、夫と家事分担が半々になっているのか」などと考えなくなったとリョウコさんは言います。できることをできる人がすればいい、と鷹揚に構えることができるそう。

 

「苦手なことをやらされているから、不満がたまるのかもしれませんね。私は掃除なんて3日に1度くらいしかしません。

 

洗濯は好きだから、洗うものを見つけてまで毎日するんですけどね」

 

こうしてすっかり丸くなったリョウコさん、今では娘とともに「今度はパパの作った、正統派の純和食料理が食べたーい」と、リクエストしているそうです。

文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。