老若男女を問わず、ゲーム好きは多いようです。一度はまると、なかなか抜け出せず、仕事以外はゲームばかりしている人も少なくありません。 

「ただいま」もなく自室に直行する夫

夫が帰宅後、リビングにいる家族の顔を見ずに自室に向かうのは、子どもたちの教育上もよろしくないのではとヤキモキするのは、東京郊外の一軒家に住むノゾミさん(42歳・仮名=以下同)です。

 

結婚して13年。2歳年上の夫との間に11歳と8歳の女の子がいます。

 

「うちは玄関を開けるとすぐ階段があって、リビングを通らずに2階へ行けます。以前だったら、夫はリビングのドアを開けて『ただいま』と言い、手洗いをして2階へ行っていた。

 

でも、この1年くらいは帰宅するとそのまま階段を上っていく。私がキッチンにいて料理などをしていると、帰って来たことに気づかないときさえあります」

 

そんなに急いで2階へ行くのは、着替えや持ち帰り残業があるためではなく、書斎と称した小部屋にこもるため。そしてこの小部屋で夫はゲームをするのです。

 

「夕飯の時間になっても降りてこない。声はかけるけど返事もない。前はみんなで夕食をとりながら、子どもたちの学校での話などを聞いていたんですが、最近はめっきり減りました」

 

最初のうちは、「どうして家族と一緒に食事をしないの?」「どうしてひとりでゲームばかりやっているの?」と責め立てたノゾミさんですが、何を言っても夫はどこ吹く風。

 

機嫌が悪いわけでもなく、「今、大事なところだから」とか「(ゲーム内の)イベントに顔を出さないわけにはいかなくてさ」などと、あたかも仕事をしているかのような物言い。 

「休日は子どもと遊んでお役御免」なんておかしくない?

ゲームがひと段落すれば降りてきて食事をし、後片づけもします。それが終われば、またすぐ自室にこもることが多いようです。

 

「ただ、土日はなるべく子どもと接しようと思っているらしい。長女は地元チームで野球をやっているんですが、練習も試合もよく足を運んでいますね。

 

次女は水泳が大好きだから、プールに連れていくこともある。まあ、そんなときでもちょっと待ち時間があると、ゲームをしているようですが…」

 

土日は家族で食事をとることもあるものの、昼間、子どもと遊んだ夫は「これで役目を果たした」とばかりに、夕方以降は部屋にこもりきり。

ただ一緒に過ごしたいだけなのに…

「いちばん夫と接していないのは私かも。前はときどきふたりでワインを飲みながら夜は映画を観たりしたのに、そういう時間がまったくない。

 

『ねえ、映画観ない?』と声をかけても、『今日はムリ』と言われることが続いて、誘うのをやめました。家族がバラバラで、食後の団らんもなくなり、私自身、夫に愛されている気がしないんです」

 

娘たちと女同士で盛り上がろうと思っても、さすがにまだ娘とは女同士の話はできません。姉妹は仲がよく、子ども部屋でふたりで楽しんでいることが多いそう。

 

「夫の性格が変わってしまったわけではないし、家庭が壊れたわけでもない。だけど夫に無視されている感覚を覚えます。

 

そもそも家族の顔を見ずに2階にさっさと上がっていくのって、一緒に住んでいる者に対して失礼じゃないですか」

 

早くゲームをしたい一心で夫は帰ってきているのでしょう。でも妻には、そんな夫の気持ちが理解できないのです。家族と一緒にいるのが嫌だからゲームに逃げているの?妻にはそんなふうにさえ思えてなりません。

 

「友人に相談したら、『そのうち飽きるから大丈夫よ』って。ゲームに飽きるのを待つしかないんですかね。

 

待っていたら子どもたちがあっという間に大きくなってしまう。今しかできない家族での会話をもっと楽しみたいのに…」

 

とはいえ強制するわけにもいきません。「期待しなければいいんでしょうけど、今まで本当に家族のほうを見ていてくれた夫だから、その変貌ぶりがさみしいんです」と、ノゾミさんは切ない表情で言いました。

 文/亀山早苗 イラスト/前山三都里
※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。