若手の反応が淡泊、言われたことしかやらないなんで気づかったり、周囲に協力しないんだろう?と、部下の行動が理解不能。その原因は、部下でなく上司や年長者側にあることが。人事コンサルティングのプロ・曽和利光さんに、動かない部下の原因と対策を聞きました。

部下が「言われたこと以外」やらない訳

—— 20代の部下を持つ上司世代から、「報連相などの反応が淡泊」「お願いしたこと以外は手伝わない」人が増えているという声を聞きます。どう思われますか?

 

曽和さん:

部下のリアクションが薄いのは、「組織市民行動」をしていないことだと思います。「組織市民行動」とは、組織や仲間の役に立つような役割外行動のことです。

 

社会でいうとボランティアなんですが、そういった行動を組織や仲間に取っていないんですね。

 

「言われたことしかやらない」のではなく、「なんで言われたこと以外のことをやらなければならないのか」と思っています。忠誠心や帰属意識を指す「組織コミットメント」が低い状態です。

 

同じ職場で働く同僚、上司へのリスペクトなどが合わさったものが「組織コミットメント」だと思うのですが、「組織市民行動」を促すには、この組織コミットメントが高くないと出てこないんですね。

 

「社内の人間に恩義も感じていないのに、役割外の行動をする理由があるの?」という極めてシンプルな人間の考え方だと思います。

 

ですので、反応が淡泊な部下に「自発的にやって」「周囲をサポートして」と一方的に話してもムダです。

 

「会社が好きだ、上司は尊敬に値する、仲間のことが好きだ」という状況をつくり出さない限りは、解決しないでしょう。

 

—— 能力の問題ではないということですね。「やってあげる義理なんかない」と思っている部下を、どうすれば変えることができますか?

 

曽和さん:

こういうのはすべて「Give & Take」です。「組織コミットメント」は、どうすれば生まれるか?「恩があるから恩返し」をしたくなるわけですよね。

 

「好意の返報性」といって、相手が好意を向けてくれるから自分も好意を抱く心理のメカニズムです。上司が率先して部下に対して、これをしてあげるしかないと思います。

 

「部下が役割外行動を取らない」と嘆いている上司は、部下を愛していますか?部下のことをどれだけ知っていますか?部下の趣味って何かわかりますか?

 

そもそもどこで生まれてどんな人生を歩み、どうしてこの会社に入ったかわかりますか?何を楽しみに仕事をしているか知っていますか?

 

これらの問いに、本当に答えられる上司って、すごく少ないんです。

部下の気持ちを知ろうとする努力が上司には必要

—— 「部下のことを知らない」のは落とし穴でした。プライベートに立ち入らない今の社会的な背景もあって、接し方に難しさを感じます。

 

曽和さん:

たしかに上司が「休日、何やっているの?」と聞くと、「うざい、関係ないでしょ」と部下に煙たがられることもあると思います。

 

最初は部下がどういう人間かよくわからないと思うので、積極的に雑談で話を引き出していくのがいいと思います。

 

よくいるのが、聞くふりをして、自分の話ばかりする上司で、これでは意味がありません。

 

部下のほうも、自分のことを知ってもらいたい思いは、根底にはあると思うんですよね。だからこそ、聞く力や知る力が大事で、それによって部下の存在を認めてあげます。

 

続けていくと、「好意の返報性」で役割外行動が生まれます。「役割外行動=自発性」ですよね。私はそういう流れだと思っています。

 

「正しくわかりやすい指導をしたから、部下はこっちを向いてくれるだろう」というのは間違い。

 

うまくいかないのは、本当の原理を分かっていないからです。上司が部下へのコミュニケーションを諦めないことが組織を活性化する第一歩なのです。

 

PROFILE 曽和利光さん

大学卒業後、リクルートなどで採用や人事の責任者を務めた後、人事コンサルティング会社を設立。組織に向けて、人事や採用のコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行う。最新刊は『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)。

取材・文/高田愛子