「お客様に寄り添ってニーズを聞こう!」と言われて、うなずく30代や40代に、ポカーンとする20代。なぜ同じ言葉を聞いて認識がズレてしまうのか?(株)人材研究所代表の曽和利光さんに、世代間ギャップがあるなかで、ビジネスにおける言語コミュニケーションの取り方について聞きました。

インスタやLINEを駆使する若手の言語感覚

—— リモートワークの導入もあり、上司と部下の言葉のズレが顕在化しているように思います。

 

曽和さん:

3040代の人たちのコミュニケーション方法は、主に「あうんの呼吸」です。そこがLINETwitterなどのテキストチャットを駆使する、デジタル、ソーシャルネイティブの20代前半の部下との決定的な違い。

 

Twitterって、昔でいう和歌のように、意思をやりとりするものだと思うんですね。

 

Instagramのように写真1枚で何かを表現するといった方法もあります。視覚に訴える自己表現ですね。投稿した写真に対してハッシュタグをつけて、テキストで説明書きを加えますよね。

 

いずれも抽象的な表現ではなく、はっきり「言語化」しています。若い人の表現は具体的なのです。

 

それに対して、3040代の特徴である「あうんの呼吸」というのは、はっきり表現しません。つまりこの世代は「言語化することが苦手」なのです。

 

—— コミュニケーションのうえで、はっきり伝えるのが20代ということですね。3040代の「言語化することが苦手」というのは、どういう特徴がありますか?

 

曽和さん:

「あうんの呼吸」が主流のコミュニケーションだった30代以上は、「空気が読める・読めない」が、コミュニケーション能力を判断するときによく多用される世代だったわけです。

 

表現していないものを文脈から読み取って、「こうですよね?」「そうそう、あなたよくわかっているわね」というやり取りが、いいコミュニケーションといわれていました。

 

これに対して20代の人たちは、「テレパシーを使えないんだから、言葉にしていないことが伝わるわけないじゃん」と思っています。

 

SNSを使って言語化することが当たり前の状況になり、さらにはリモートワークが浸透し、上の世代も、具体的に表現しないことにはマネージメントできない時代になっているといえます。

 

だから今、言語化能力が低い上司は苦労しているんですね。

「お客様に寄り添おう!」が20代には意味不明

—— 「言語化」と「あうんの呼吸」では、噛み合わないのは当然ですね。真逆とも取れるその違いを埋めるための方法はあるのでしょうか?

 

曽和さん:

3040代に求められたコミュニケーション能力(=あうんの呼吸)と、20代に求められたコミュニケーション能力(=言語化)の違い。

 

これを埋めるための方法は、「話せばわかる」ということです。

 

20代は言語を中心とした表現力に長けています。裏を返せば「言われていないことに対する推測力」は足りていません。20代は、表現されたものを通じて知るのです。

 

「あうんの呼吸」に慣れすぎている管理職層に向けたコミュニケーショントレーニングなども開催したりするのですが、みなさんすごく話が曖昧なんですよね。

 

形容詞は多いし、数字は少ないし、話に具体性がありません。「お客様に寄り添ってニーズを聞け」などと言ったりする人もいますが、それは比喩ですよね。

 

それでは伝わらないです。「おもんぱかる」「忖度する」ではなく、具体的に相手がイメージできるように話をすることが、3040代には必要です。

 

「なぜそれが必要で、なぜこの方法がいいのか、その後どうなるのか」などと、明確に説明すれば、部下たちは納得して、まじめに型にはまって、ルーティンワークをガンガンやり始めたりします。

 

今の上司と部下は、コミュニケーション方法が違うだけなので、伝わりさえすれば、わかり合える。上司や30〜40代の方は一度試しで、若手に歩み寄ってみてください。

 

PROFILE 曽和利光さん

大学卒業後、リクルートなどで採用や人事の責任者を務めた後、人事コンサルティング会社を設立。組織に向けて、人事や採用のコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行う。最新刊は『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)。

取材・文/高田愛子