世代間ギャップから「若手社員は扱いにくい」と思っていては、組織やチームの成績は下降するばかり。若手を育てるために、上司や年長者には何ができるのか。人事コンサルティング会社の社長を務める曽和利光さんに話を聞きました。 

未来に希望が持てない部下と無責任な上司

—— 3040代からは、「若手や部下にチャレンジ精神が感じられない」と不満を聞くことも多いのですが、若い人たちの真意はどこにあるのでしょうか?

 

曽和さん:

1990年代初頭のバブル崩壊後に生まれた20代の若者は、経済低迷の日本しか知りません。バブルの話は耳にするけれど「本当にあったの?」という感覚です。

 

この30年で平均年収は約100万円減ったといわれており、20代の給料はとても低いのが現状。「車離れ」も「ブランド品離れ」も、お金がないのが原因のひとつでしょう。

 

日本の停滞感、お金に対する不安や諦めといったものが相まって、いまの若者の傾向としてはとても堅実です。

 

結婚も早いけど結婚式はやらない。一部の例外を除いて起業をしたいとも思わない。「年収1000万円を目指す!」ような思いもなく、すべてにおいて諦めてしまっているんです。

 

幼い頃から社会的に明るいニュースがなく、「将来はよくならないんだろうな」と思っています。

 

そんな若者が「どうやって未来に希望を持つか?」という話です。

 

これでは、チャレンジをさせてもらっていた3040代の上司が「若いんだから、どんどん挑戦すればいいのに」と、無責任に言っているだけです。

 

—— 不遇な時代背景というものが、若者の考え方に大きく影響しているように思います。そうした若手を育てるには、どんな方法がありますか?

 

曽和さん:

目指すものや、やりたいことが見つからない彼らに対して、上司や年長者がやるべきことは「型にはめてあげること」です。

 

「私(上司)はこう思うから、とりあえず意見がないんだったら私の言う通りに一度やってよ」と、方向性を示してあげる行為です。

 

上司の言われた通りに実際にやってみると、「あれ、自分が思っていることと何か違う」と、そこで初めて違和感を感じたりします。

 

つまり、部下に反発する気持ちや抵抗感が生まれ、自我の確立につながっていくというわけです。

 

上司が型にはめようとすると、20代からは古臭い人間に映るかもしれないし、嫌われる可能性もあります。

 

でも、勇気を持って「型にはめる」こと。これは、とくに新入社員が最初に経験すべき大切なことなんです。

 

そうしていかなければ、若手社員のなかに本当の自発性や自主性、あるいはオリジナルな価値観はできてこないと思います。

 

それができてこないと、いつまで経っても目指すものが見つからず、漠然とした不安感から逃れることができません。ふわふわした生き方をしていくことになってしまいます。

型にはめてこそ部下の自己主張を引き出せる

—— 自由を制限されることで反発する気持ちが生まれ、やりたいことの発見につながっていくメカニズムですね。

 

曽和さん:

その通りです。こちらが型にはめてあげると、「私は、曽和さんの意見は違うと思います」と返ってきたりします。

 

いわゆる心理的リアクタンスというもので、自由を回復しようとする反発作用です。

 

これは立派な部下のオリジナルな価値観です。何かをやってみて、それに対して反応が出て、「これはおかしい」「こっちがいいかも」と新たな発見ができる。

 

本当の多様性を享受するのはこういうことだと思っていて、「自分はこう思う」と、徐々に強い意思を示すようになっていくステップだと思うんですよね。

 

30代以上の世代はすでに、リベラルな考え方を持つ人が一定数いると考えられるので、「型にはめること自体が悪なんじゃないか?」と尻込みする人がいると思います。

 

でも、そうではありません。一方的な命令口調で部下に伝えるのではなく、「私はこう思うんだけど」と、伝え方のニュアンスに気をつけるだけで、きっと部下にも思いは伝わります!

 

PROFILE 曽和利光さん

大学卒業後、リクルートなどで採用や人事の責任者を務めた後、人事コンサルティング会社を設立。組織に向けて、人事や採用のコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行う。最新刊は『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)。

取材・文/高田愛子