うっかり衣服についてしまった、ボールペンやマジック、絵の具などのインク汚れ。落とすのは無理だと諦めていませんか?そもそも、なぜインクの汚れは落ちにくいのでしょうか。洗濯家の中村祐一さんに、厄介なインク汚れの落とし方について教えてもらいました。

目次

インクが落ちにくいのは、樹脂でコーティングされているから

ボールペンやマジックのインクには、油性・水性問わず、色素(染料・顔料)と樹脂が含まれています。

 

たとえば、紙などに書いた後、インクがにじまないのは、水分や溶剤が乾いたあと、色素が樹脂でコーティングされて残るから。もともと落ちにくく作られているものだけに、汚れも落としにくいのです。

 

そのため、インクの汚れを落とすには、まずは樹脂を緩ませることが欠かせません。樹脂が緩んではじめて、色素を取り出すことができるのです。

絵の具や墨汁もインク汚れと同じ?

絵の具についても、考え方はインクと同じです。絵の具の場合は、顔料と樹脂が混ざったものになります。

 

余談ですが、色素は、赤・青・黄の三原色でいえば、青<赤<黄の順に落としにくくなります。色素にも強さがあり、3つのなかで青がもっとも退色しやすい色になります。

お子さんのスモッグなどについた色素の汚れをイメージすると、わかりやすいかもしれません。同じように洗ったはずなのに、特定の色だけ落ちていないということはありませんか?

 

また、黒のTシャツやパンツが経年によってオレンジっぽく変色するのは、三原色すべてが混ざった黒だからこそ。弱い青が一番に色抜けしていくと、残った「赤+黄」によってオレンジ色になります。

 

一方、墨汁はインク汚れとはまた少し性質が違います。

 

墨汁は、主成分である「カーボン」と、膠(にかわ)や合成樹脂で構成されています。ただし、カーボンはごく小さな粒状なので、溶剤で溶かしたり、漂白剤で色素を壊したりすることができません。

 

このような「不溶性の汚れ」は、物理的に粒子を揉み出すしかないのですが、繊維の1本1本の隙間に入り込むととても厄介。プロの技術でも難しく、一般的なシミの中で最も落としにくいといわれています。

 

ちなみに、ポリエステルなどの化学繊維には繊維の表面に隙間がないので、綿や麻といった天然繊維と比べると汚れは落としやすくなります。

 

習字のお稽古など墨がついてしまいそうなときには、汚れてもいい洋服やポリエステルのスモッグを着るなど工夫するといいですね。

インクのシミは、溶剤と洗剤の合わせ技で落とす

特別なものはさておき、プライベートで着る普段着については、自分でお手入れしたい人も多いかと思いますが、インクの汚れを落とす場合も、必ず洗濯表示を確認して下さい。

 

家庭での洗濯がNGなアイテムはもちろん、「ドライクリーニングが不可」という表示の場合にも注意が必要です。

 

インク汚れの乾いた樹脂を緩ませるには、アルコールや溶剤が必要ですが、服の接着剤やプリントなどに使われる樹脂も溶かしてしまうことも少なくありません。

 

ドライクリーニングが不可となっている衣類のなかには、溶剤に弱いものも多くあります。

具体的な落とし方は、まず最初に、洗濯表示の桶のマークの中の数字を確認し、その水温でぬるま湯を用意します。そこに洗剤を溶かして洗剤液をあらかじめ作っておきましょう。

 

次に、インクの汚れの部分にアルコールや溶剤を付けシミを緩ませます。

 

樹脂が溶けた瞬間に色素が広がったり、広がった色素が繊維を逆に染めてしまったりすることもあるため、シミが緩んだ後は洗剤液ですぐに洗い流して下さい。

 

市販のプレケア洗剤のなかにも、樹脂を緩める溶剤(オレンジオイルやリモネンなど)が含まれているものがあるので、それを使ってみるのも良いと思います。

 

ただし、ボールペンで「ちょっと線を書いてしまった」くらいだったらいいですが、一箇所にドボッとついてしまっている場合はインクがかなり広がってしまうので、ご家庭でのシミ抜きはやめたほうがいいでしょう。

リスクのある難しいシミ抜きはプロに依頼を

インクは、日常にできるシミのなかでも、落とそうとすると逆に広がったり奥に入り込んだりしてなかなか落とすのが難しいものです。

 

そのため、がんばって自分で落とすより、最初からプロにお任せするのが安心かもしれません。

 

洗濯は、毎日の生活の中で欠かせない家事の1つであるからこそ、自分でやらないといけないものだと思っていませんか?

 

汚れやシミの特性、衣類の素材によっては、家庭であれこれ手を加えることで、逆に落としにくくなってしまうことさえあります。

 

インターネットで検索すると色々な方法が出てくるかと思いますが、お伝えしたいのはできるだけ服を傷めない安全な方法です。

 

特に長く着続けたいと思う大切な衣類は、無理せずプロに任せてしまいましょう。よりよい状態に保つためにも、クリーニング店をうまく活用していただきたいと思います。

 

PROFILE 中村祐一さん

洗濯家・愛称「洗濯王子」。1984年、長野県伊那市生まれ。洗濯から考える「よりよい暮らし」の提案をはじめ、「衣」文化の革新にも積極的に取り組む。各種メディアにも多数出演。

取材・構成/大熊 智子