子どものケガや鼻血などによる血液のシミ。思わぬ出血に慌てるばかりか、衣服についたシミへの対処にも悩みがつきません。落ちにくいイメージのある血液のシミも、「ポイントさえ押さえれば、落とすことができる」と話すのは、洗濯家・中村祐一さん。家庭でシミ抜きをする際の注意点を教えてもらいました。
血液汚れはお湯洗いが絶対ダメな理由
フライパンやお皿に残った油汚れや、身体から出る皮脂汚れは、熱いお湯で洗うと洗浄効果が高まりますが、これが血液のシミには通用しません。
血液の主成分はタンパク質。熱いお湯で洗うと落ちにくくなってしまうので、注意が必要です。
たとえば、卵の白身をイメージすると分かりやすいかと思いますが、熱を加えると固まりますよね。血液も同じ原理で、水温が高くなるにつれて凝固してしまいます。水もしくは40度以下のぬるま湯で洗ってください。
さらに、血液中のタンパク質は、 時間が経つことでも硬くなり、落ちにくくなります。ついてすぐ、その瞬間に落とさないといけないわけではないので、過剰に焦る必要はありません。ですが、早めの処置のほうが落ちやすくなります。
血液のシミの落とし方 3つのポイント
血液のシミは、すぐに漂白剤を使って「シミ抜き」をしようと考えがちな人も多いですが、まずは「基本の洗濯」を徹底していきましょう。
1.素材と洗濯表示を確認する。
血液はタンパク質の要素が強い汚れなので、「アルカリ剤」や「酵素」が入った洗剤が有効です。
しかし、タンパク質で出来た「ウール」や「シルク」などの動物性の素材は、血液のシミを落とそうとすると繊維も傷んでしまうので、プロに任せたほうがよいでしょう。
また、アルカリは色素も落としやすくするので、家庭洗濯が出来ないという表示になっているものや、色柄もののアイテムは色落ちしやすくなってしまいます。必ず素材と洗濯表示を確認しましょう。
外出先の応急処置としては、まずは乾いたティッシュなどでおさえ血液を吸い取れるだけ吸い取ります。そのあと濡らしたティッシュなどで軽くおさえます。
濡れた状態で擦ると、繊維は痛みやすいので、絶対に擦らないように。また、家庭洗濯の出来ない表示のアイテムの場合は、何もせずにクリーニング店に相談することをおすすめします。
2.基本を押さえて洗濯をする
血液のシミの場合も、まずは「基本の洗濯」を行います。
「どうして、はじめから漂白剤を使わないの?」と思う方もいるかもしれませんが、これにはきちんとした理由があります。
たとえば、血液の色素を落とすという目的だけ考えると、漂白剤を使用したり、家庭にある消毒用のオキシドール(過酸化水素)を使って落としたりすることもできます。
しかし、部分的に漂白剤を使うのは、色抜けや変色などのトラブルを起こすことも多いですし、最初から漂白剤を使うと色素以外の汚れにジャマされて漂白の効率が落ちるので、おすすめできません。
「基本の洗濯」だけでも血液のシミはじゅうぶんに落ちるので、漂白剤は最終手段と考えましょう。
洗濯機で洗う際は、洗濯物・水・洗剤の量にも気をつけましょう。特に、洗濯物に対して水の量が少な過ぎると汚れは落ちにくいので注意が必要です。
白いアイテムには、粉末洗剤を使うとアルカリ度が高いために血液汚れが溶けやすくなります。
また、すすぎは、洗剤で包み込んだ汚れをしっかり流し出すための大切な工程です。洗剤のなかには「すすぎ1回でOK」のものもありますが、汚れを落としきるためには最低でも2回以上は必要です。
3.それでも落ちない時こそ漂白を
洗濯を繰り返しても、まだ色素が残っている…。ここでようやく漂白剤の出番ですね。
血液のシミをしっかり落とすには、粉末の酸素系漂白剤を使うのがおすすめです。
粉末の酸素系漂白剤の主成分は、弱アルカリ性の過炭酸ナトリウム。アルカリに弱い血液(タンパク質)汚れを落とすのに好都合な上、色柄ものにも使いやすい漂白剤です。
40度のお湯を張った洗い桶に、大さじ1〜2ほどの酸素系漂白剤を溶かして30分〜2時間ほどつけ置きすると、効率よくシミを落とすことができます。
血液汚れの特性を踏まえ、基本に忠実に洗う
普段の洗濯で落ちにくそうな血液汚れも、洗濯の基本を忠実に守れば、家庭で落とすことは難しくありません。
慌ててすぐに漂白したり、血相を変えてクリーニング店にかけこんだりするのではなく、まずは落ち着いて洗濯の基本を再確認してみて下さい。
一番覚えておいて欲しいのは「汚れ」ではなく、「素材」を優先するということ。あとは、上記にあげた3つのポイントを守れば、効果的に汚れが落ち、衣服を傷めるリスクも軽減できます。
凝固した血液汚れには、タンパク質を分解する酵素の入った洗剤を使うのが有効ですが、繊維に強烈にこびりついたシミはなかなか落とすことが難しい。クリーニング店にお任せするのもひとつの方法です。
PROFILE 中村祐一さん
洗濯家・愛称「洗濯王子」。1984年、長野県伊那市生まれ。洗濯から考える「よりよい暮らし」の提案をはじめ、「衣」文化の革新にも積極的に取り組む。各種メディアにも多数出演。
取材・構成/大熊 智子