「自身の体と向き合い、もっと大切にしてほしい。セクシャルウェルネスをないがしろにしないでほしい」
そんな思いで、日本でのフェムテック市場のプラットフォームづくりに奔走する女性たちがいます。
WHO(世界保健機関)によると、セクシュアルウェルネスとは “セクシュアリティに対して身体的、感情的、精神的、社会的にも健康な状態であること”。女性にとってごく自然で大事なことなのに、まだまだオープンに語られない現状をどう変えていくべきなのでしょうか。
世界初のフェムテック専門オンラインストア「fermata store」の運営をはじめ、消費者や企業に向けたフェムテック関連の製品の販売・サービスを行うfermata(フェルマータ)株式会社(以下fermata)を立ち上げた中村寛子さんにお話を伺いました。
自身の生理痛の悩みをきっかけに日本で起業
fermataは、2019年に中村さんとビジネスパートナーであるAminaさんが創業。中村さんが起業を決意するきっかけとなったのは、自身の生理痛だったと言います。
「動けなくなるほど生理痛がひどかったのですが、スコットランド留学中にピルと出会い、人生が変わりました」
ピルを使い、「生理周期を調整したり、生理痛を軽減する」という選択肢があることに衝撃を受けた中村さんは、帰国後、低用量ピルをネット販売する事業を考え始めます。
2017年にフェムテック産業の存在を知り、同じ志をもつAminaさんと出会いました。「自分たちがまずするべきことは、“市場”をつくることだ」と考えたふたりは、国内外の多様なフェムテック関連の情報や製品を届けるべく、fermataを立ち上げます。
手応えを感じたのは、創業前に初めて「Femtech Fes!(フェムテック フェス)」を開催したとき。個人のSNSだけで告知したにも関わらず、予想以上に多くの人が集まりました。
「わざわざ足を運んでくれた方々のフェムテックに対する熱量を感じて、私たちがやりたいことは間違っていない、と確信しました」と中村さん。満を持してfermataを立ち上げてからはますます活躍の場を広げ、ECサイト運営のみならず、さまざまなフェムテック関連イベントを定期的に行いながら、企業へのコンサルティング活動も展開しています。
吸水ショーツに1億円の投資が集まり「時代が変わりつつあると感じた」
その後、デリケートゾーンケアの製品や吸水ショーツなど、さまざまなアイテムが市場に出始めましたが、中村さんが、大きな流れを実感したのは2020年。
「吸水ショーツを手がけるメーカー『ベア』が、なんとクラウドファンディングで1億円を集めたんです。これには驚きましたね」
このことをきっかけに吸水ショーツを手がけるメーカーがふえ始め、「フェムテック」という言葉の認知度も徐々にアップしていきました。
「吸水ショーツはかなり知られるようになりましたが、セクシャルウェルネスを含め、多くのジャンルはまだまだタブーとされています。タブー視されている性や体の悩みに対して、もっと掘り下げて考える機会を増やさなければと感じています。
それは、私たちのチーム全員にも言えること。セクシャルウェルネスについて、“いかがわしいもの”として恥じらったり、嘲笑したりすることはしたくないんです。多くの人に“当たり前のもの”として受け入れてもらうためには、私たち自身の意識から変えていかないと」
乃木坂にある実店舗「New Stand Tokyo」には、オープンにセクシャルウェルネスアイテムが陳列され、まるでおしゃれな雑貨ショップのよう。関心をもつ人が店内に気軽に入れるように配慮し、安心して商品を見て回れ、ショップスタッフとも心地よいコミュニケーションが取れる場所づくりを意識していると言います。
このところ、とくに関心を集めているのは、「膣トレ」グッズとして知られている「骨盤底筋トレーニング」関連のアイテム。
「お風呂で使えるものなど、さまざまなタイプがあるんですよ。現代病とも言われる尿もれの悩みは、想像以上にたくさんの方が抱えているんだなと実感します。トレーニングを継続することで下腹部がすっきりした、という嬉しい声もいただいています」
「フェムテック」という言葉は知られなくてもいい
生理から更年期の悩みまで、世代を超えたフェムテック市場を牽引しているfermata。フェムテック市場はメディアに取り上げられることも増え、その輪は確実に広がっている印象を受けます。
「フェムテック市場が盛り上がるのはもちろん嬉しいことです。でも、フェムテックという言葉がただの流行で終わるのではなくて、フェムテックという言葉が必要でなくなるくらい、当たり前のものとして認識されるようになってほしい」と中村さん。とくに、働き盛りで自分のケアを後回しにしがちな30代にはもっとフェムテックを賢く活用してほしい、と話します。
「みなさん、自分のなかの当たり前を疑うことを知らないというか、こんなものだとあきらめている人が多いんですよね。もっと広い視野をもって、自分の体と向き合ってほしい。
広めたいのは『フェムテック』という言葉ではなくて、自身の内なる声や悩みに耳を傾けてほしいという思いと、解決方法はひとつじゃない、ということ。ようやく『フェムテック』という言葉が認知されてきたなかで、今後どのようにより多くの方々にフェムテックを届けていくのか、もっと模索が必要だと思っています」
PROFILE 中村寛子さん
fermata共同創業者/CCO。Edinburgh Napier University(英)卒。2015年にmash-inc.設立。女性エンパワメントを軸にジェンダー、年齢、働き方、健康の問題などまわりにある見えない障壁を多彩なセッションやワークショップを通じて解き明かすダイバーシティ推進のビジネスカンファレンス「MASHING UP」を企画・プロデュース。
取材・文/久保直子 画像提供/fermata