地産地消を地でいく「ご当地アイドル」NegiccoのNao☆さんと、定収入のために始めたごみ清掃員の視点からごみ問題について発信している芸人のマシンガンズ・滝沢さん。
食品ロス解消のために個人が社会に向けて出来ること、さらには芸能界で「ロス」されずにどうサバイブしていくか…ディープな部分にまでお話は膨らみました。
一人だけ意識が高くてもダメ
── ずばり家庭から食品ロスを出さないために、大事なことってなんでしょう?
滝沢さん:
家族のコミュニケーションですかね。
食品ロス問題を含め、家庭ごみへの取り組みって、家族の一人だけ意識が高くても成立しにくいんですよ。
在庫を考えずに買ってきた家族に対して、そうならないよう自分がすべて管理しようなんて考えたら、際限がなくなる。
たとえばうちのコンポストだって、何でもかんでもそこに入れられてしまえば、僕が取り出さなきゃならない場面も出てくる。そうするとストレスが生じてくると思うんです。
なので、家庭の中で「自分はこうしたいんだけど、どう思う?」と話し合える関係を築くのが、まずは第一。食品ロス解消は、そこから始まる気がしています。
── 家族の足並みが揃わないとごみが減らないのは痛感します。先日滝沢さんが出演されていた『しくじり先生』(テレビ朝日系)を見ましたが、子ども達が急にごみの分別を意識しだして驚きました。それまでは親任せだったので。
滝沢さん:
良かったです(笑)。子どもは親に言われると、大人はパートナーに言われると腹が立ちますからね。
相手の言うことが正論であればあるほど、受け手はしんどいというか。
Nao☆さん:
そういうものなんですね…。
滝沢さん:
だと思いますよ。第三者に言われて、本心から「そうだなあ」と意識が変わっていくのが、いちばん効き目があるんだと思います。
個人の発信が社会を変えていく
── ごみを減らすために、他にはどんなことが出来るでしょうか?
滝沢さん:
発信していくことだと思います。些細なことでいいんです。
たとえばコンビニなどが「鍋を持参すると数十円値引きする」というキャンペーンをしていたら、SNSでそれを「いいね」するだけでも変わっていく。
企業は民意を反映しますから、評判が良ければそれが続く。「ごみが出ないと嬉しい」とみんなが言い続けていくことで、プラスチック包装をしないという企業も出てくる。
Nao☆さん:
真剣に議論しなければいけない難しい話もありますが、そういったところからでもいいんですね。
滝沢さん:
難しい話って聞きたくないですよね(笑)。
Nao☆さん:
確かに滝沢さんのTwitterなどは身近でわかりやすいです。
滝沢さん:
周囲の反応からも、発信することの大切さは感じています。
僕のTwitterを見て、僕の周りの芸人が、ごみを分別して捨てるようになってくれたんです。それは「滝沢がごみ回収で苦労していた、もしかしたら滝沢が回収するかもしれない」と思うようになったからなんだそうですよ。
たくさんのファンがいて、影響力のあるNao☆さんがそういうことを発信してくれたら、すごく効果があると思います。
「ムカつく人とケンカ」より大事なものがある
── 滝沢さんは、今や芸能界では右に出る者がいないほどの「ごみ問題の識者」。長い芸能活動の中で、今の状況をどう感じていらっしゃいますか。
滝沢さん:
僕が『ゴミ清掃員の日常』(講談社)を出版したのって、たった3年前なんです。
ごみ清掃員の仕事を始めたのは10年以上前。
今でこそお笑い以外の活動をする芸人も増えていますが、当時は「芸人ならお笑い一本でやっていけ」という圧力は強かった。「笑かしていない芸人が何をやっているんだ」とTwitterで攻撃されたこともありますし、ライブに行けば、後輩から陰で「ごみ兄さん」と言われているのも耳にしました。
「みんな俺のことをそんな風に思っているんだな」と、心が折れたことは数え切れません。
── でも今は、「ごみ問題に詳しい芸人」という新しいジャンルのパイオニアになられました。
滝沢さん:
僕のやっていることがたまたま誰もやっていないことだったから注目を浴びたんでしょうね。
ただ僕も仏ではないので、わかってもらえないときは怒ってますよ。「昨日喋った、あの政治家だけは一生許さねえ!」と思うこともあります。だけど、僕がやりたいのは「日本のごみを減らす」こと。ムカつく人とケンカをすることではないので、そういう気持ちは抑えるほうが得策だと考えるようになりましたね。
Nao☆さん:
滝沢さんのお話を伺っていると、これから仕事も生活も変わっていこうとしている自分にとって、いろいろと活かせることがありそうで、勇気づけられます。
滝沢さん:
いや、僕もまだまだ模索中です。誰でもそうじゃないかな。
Nao☆さんだって今後は、ママでアイドルと言う唯一無二なジャンルのパイオニアになりますよね。そんなNao☆さんの姿を見て、「自分もいろんなことに挑戦してもいいんだ」と思う人が出てきたり、互いが互いを認め合えるようになったらすごくいいですよね。
── Nao☆さんも、芸能界のお仕事は長いんですよね。
Nao☆さん:
今年の7月で結成19周年になります。
滝沢さん:
すごいなあ!そんなに長いんですね。
Nao☆さん:
滝沢さんと同じで、嫌なこともありました。
新潟を背負う気持ちで頑張ってきたつもりだったのに、テレビで「地方アイドルとかもういいよ」と言われたときは、すごく悔しかったり。そんなときは、なにくそ根性と言いますか、「見てなさいよ!」みたいな思いで自分を奮い立たせていましたね。
滝沢さん:
のんびりふんわりした雰囲気なのに!そんな感じ全然しません(笑)。今は見返せましたか?
Nao☆さん:
どうなんでしょう。でも、自分たちが今でも活動出来ているのは、たくさんの人の縁があったからだし、今の気持ちは安定していますね。
滝沢さん:
いいですね。攻撃してきたり馬鹿にしてきた人たちには、自分の安定した姿を見せるのがいちばんいいと思います。パイオニアになるには不安も苦労もありますが、大切なのは自分のやりたいことを見失わないことかと。
Nao☆さん:
ありがとうございます。これからも、自分の考えや視点は変わっていくと思うので、その時には滝沢さんの発信されるものを色々チェックして、日々意識を更新していきたいと思います!
PROFILE Negicco・Nao☆さん
1988年新潟県出身。2003年、地元産ネギのPRのために結成されたご当地アイドルの先駆者「Negicco」メンバー。大手事務所に所属せず、地域に根差した活動で熱いファンの支持を獲得し、「にいがた観光特使」も務める。
PROFILE マシンガンズ・滝沢秀一さん
1976年東京都出身。1998年、西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。2012年、子どもが生まれるのを機に定収入を得るため、芸人を続けながらごみ収集会社に就職。2018年にエッセイ『このごみは収集できません』(白夜書房刊)を出版、ベストセラーとなる。現在は主に、その独自の視点から「ごみ学」を語る活動を展開中。
取材・文/井上佳子 画像提供/Negicco・Nao☆、マシンガンズ・滝沢秀一