セーターやカーディガンなど、冬を快適に過ごすために欠かせない「ニット」。シャツやブラウスと比べ、洗濯の頻度は少ないけれど、だからこそ「洗い方の正解がわからない…」と思っている方も多いのではないでしょうか。とはいえ、普段着は自宅で洗いたい!そんなお悩みを解決すべく、洗濯家の中村祐一さんに洗い方のコツを教えてもらいました。
「素材」によって洗い方が変わる
まずは、どんなアイテムなのか??洗濯タグで絵表示だけでなく「素材」を確認しましょう。
ポリエステルやアクリルなどの化学繊維のニットなら、伸びとスレを防止するためにネットに入れれば、ほとんどのものが洗濯機で洗うことが可能です。
ただし、ウールやカシミアなど動物の毛から作られた繊維には注意が必要です。
洗濯機で洗える表示があるものなら、ドライコースなど、やさしく洗うコースでもOKですが、手洗い表示の場合は洗い桶などで、押し洗いをする必要があります。
失敗しない「ニットの手洗い」3つのポイント
せっかくひと手間かけて洗ったのに、きちんと汚れが落ちていなかったり、手触りが悪くなってしまったり…。ましてや、縮んで着られなくなってしまったら、とてもショックですよね。
特に、毛素材のニットは、洗濯の際に扱いを間違えると、繊維同士ががっちりと固まり、「フェルト化」してしまいます。1度「フェルト化」すると戻すことはできないので、注意を払いましょう。
1.水温は30℃以下!たっぷりのぬるま湯で洗う
ニットを手洗いする際は、ニットがゆったりと入れられる大きめの洗い桶を用意し、ニットがつかる程度の水を入れます。
その水量に合わせて中性洗剤(毛素材に対応したもの)を入れ、洗濯液を作りましょう。洗い桶がなければ、洗面台を使うのもいいですね。
次に、ニットをそっと入れ、洗濯液を浸透させます。そのまま3分ほど置き、繊維や汚れをしっかりと緩ませてください。
このときのポイントは、水の温度。冷たいお水よりも、30度のぬるま湯で洗うと、繊維や汚れが緩まって汚れが落ちやすくなるんです。
ただし、温度が高すぎると「フェルト化」を助長してしまうので、30度を超えないようにしてくださいね。
2.もみ洗いは厳禁!押し洗い&脱水で汚れを取り除く
3分つけ置きしたら、ゆっくりと両手で押さえるように、押し洗いをしていきます。
なぜ、押し洗いなのかというと、ウールやカシミアなどは水の中で揉まれると縮んでしまうから。
動物の毛でできた繊維の表面はウロコ状になっています。実は、このウロコは、水分を含むと開くのです。これは毛で出来た繊維ならではです。
この性質は、着用時には余分な水分を発散してムレを解消し着心地のよさにつながるので、メリットになります。反面、これが洗う際にはデメリットになってしまうんです。
水の中に入れ、ウロコが開いた状態でもみ洗いをすると、繊維同士が絡んでしまい、縮んだり、目が詰まったりして硬くなる「フェルト化」を起こします。
このとき、シミや汚れがついた部分だけ、こすり洗いするのも厳禁です。
押し洗いを2分ほどしたら、すすぎの前に洗濯機で30秒ほど脱水します。ここで一度脱水をすることで、洗剤液と一緒に汚れをニットから取り除くことができますし、この後のすすぎもしやすくなります。
すすぎも同じように押してすすぎます。何度か水を換えながら泡や濁りがなくなるまで、しっかりとすすぎましょう。
最後に、再び30秒から1分ほど脱水すれば、洗濯完了です。
縦型式の洗濯機はそのまま脱水しても問題ありませんが、ドラム式の場合は、洗濯物が中で大きく動くことがあるため、洗濯ネットを使い、動きを制限して脱水しましょう。
3.「平干し」で重さを分散!ニットの伸びを防ぐ
ニットは、ウールやカシミアなどの天然素材に限らず、「平干し」するのが基本です。水分を含んだ繊維は重くなり、吊るし干しするとその重さで伸びてしまうためです。
干す場所は、平干し専用のアイテムがあればベストですが、テーブルの上や床の上でも構いません。バスタオルなどを敷いて、衣類を寝かせるように置き、ある程度乾いたらひっくり返すといいでしょう。
スペースがないなど、どうしても「平干し」ができない場合は、ハンガーを複数使って重さを分散してあげましょう。
たとえば、セーターの場合、1本だとどうしても肩の部分に大きく負荷がかかり、変な跡がついたり、袖や裾が伸びたりしてしまいます。
それを防ぐためには、ハンガーを3本使って、袖や裾の部分をハンガーに引っかけるように持ち上げると、重さが分散されるのでおすすめです。
失った風合いは戻せない!?大切なニットはクリーニング店に
ポイントを押さえて慎重に手洗いすれば、家庭でのニットの洗濯は可能です。ただし、水で洗う洗濯は、手触りやツヤなどの風合いが、どうしても変わりやすいのです。
元の風合いに戻すことは、洗濯のプロであるクリーニング店の技術でも、簡単なことではありません。
日常的によく着るものは、自分で手洗いし、ビジネスの場や外向けに着るもの、長い間、大切に着たいものはクリーニング店に任せる。そんな風に、洗いわけていきましょう。
「洗えるかどうか」ではなく、「その服をどんなふうに着たいのか」から考えることが、より大切です。
PROFILE 中村祐一さん
洗濯家・愛称「洗濯王子」。1984年、長野県伊那市生まれ。洗濯から考える「よりよい暮らし」の提案をはじめ、「衣」文化の革新にも積極的に取り組む。各種メディアにも多数出演。
取材・構成/大熊 智子