人は誰しも嫌われたくないもの。できれば「いい人」と思われたいものです。ただ、それが高じると、「断れない人」になってしまい、何でもかんでも押しつけられる恐れもあります。八方美人と揶揄されることもありそうです。

近所からのもらいものを受け入れてグチる妻

結婚16年、中学生と小学生の子をもつマサトさん(46歳・仮名=以下同)は、妻を「ノーと言えずにあとで困り果てている人」と称します。今の場所に越してきて5年たつのですが、近所に住む老夫婦から「もらいもの」ばかりしているそう。

 

「それも腐りかけのような野菜だったり、もらいものの惣菜だったり。近所の人の噂では、みんなその家からは受け取らないようにしているみたい。露骨に嫌がる人もいるようで。妻は噂を知りながら、断り切れずにもらってしまうんです」

 

とはいえ、近所からあまり好かれていない老夫婦に同情して受け取っているわけではないそうです。その証拠に、もらったものを前に妻はひたすら愚痴っているといいます。

 

「『どうしてこんなものを人にあげようと思うのかしら、自分たちが処理するのが嫌だからじゃないかなあ、ねえ、どう思う?』と僕に聞くんです。

 

そう思うなら、今度から断ればと言ったら、『あなたは自分が断るわけじゃないから、そんなこと言うけど』って。

 

じゃあ、オレが断るよと言うと『あなたは会社に行くからいいけど、私はずっと家にいるのよ。断ったら悪いじゃない』と。ただ、実際は悪いと思っているのではなく、自分が嫌な思いをするのを避けたいだけなんです」

 

周りにはいい顔をするので、周囲とは良好か関係を築いています。ただ、本人がそれで疲れ果てているのを見るにつけ、マサトさんは「ムダなことをしているなあ」と思うのだそう。

 

妻の八方美人ぶりは、子どもたちの学校でも発揮されているようです。

家族のためが彼女の行動を左右させてしまう

以前住んでいた場所でも、そして越してきた今の場所でも、妻は地域の町会役員やPTA役員を押しつけられています。

 

「越してきたばかりで、まだ町のこともわかってないのに役員になっている。断れよと言ったのに。『地域になじむためには、必要だから引き受けてください』と言われ、断り切れなかったみたいです。

 

そのころはまだ下の子が幼稚園で、ママ友とのつきあいも大変だったのに。結局、いろいろ引き受けたあげく、何もかも中途半端になるんですよね」

 

でも、マサトさんは妻から助言を求められない限り、あえて口を出さないようにしています。

 

以前、PTA役員を引き受けた妻にあれこれアドバイスをしたら、妻が「ああ、もうダメ」と絶望的な声を出し、そこから鬱々としているように見えたから。

 

このときは役員を辞めさせましたが、妻は「あなたがいろいろなことを言うから、混乱しちゃうのよ」とマサトさんのせいにされたそう。

 

「だからもう口を出さない。できないならできないと言ったほうがいいよとたまに言いますが、ひとりでいっぱいいっぱいになって愚痴っていても、何もいわないのが最善策」

 

一度だけ、「どうしてそんなにいい人に思われたいの?」と聞いたことがあるマサトさん。

 

妻はいい人に思われたいわけでなく、自分が周囲から嫌われてしまうと、子どもや夫が生活しづらくなる影響を気にしていることがわかったそうです。

 

「もうちょっと自分の思うように生きればいいのに、といつも思います。妻は子どもができてから仕事を辞めたんですが、それも『子どもは母親が育てるもの』という自分自身のルールがあったから。

 

僕はどちらでもいいと思っていたけど、本当は働きたかったんじゃないでしょうか。でも子どもを預けて働く母親と周りから思われたくなかったんだ、とも思います」

 

周りの顔色を気にして生きていると、いつか「自分の本当の欲求や意志」がわからなくなるのではないか。マサトさんはそんな心配をしています。

文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。