洗濯機を使う家庭の洗濯と、クリーニング店でのドライクリーニング。実際にどんな風に違うか知っていますか?クリーニング会社の三代目であり、洗濯家として活躍する・中村祐一さんに、ドライクリーニングと家庭洗濯の違いや特徴、クリーニングの上手な活用法について教えてもらいました。

目次

決定的な違いは「何を使って洗うか?」

家庭での洗濯は、洗濯機でも手洗いでも「水」と「洗剤」が欠かせません。しかし、ドライクリーニングでは「水」ではなく、かわりに石油などの揮発性の「油」を使って洗います。

 

水の代わりに「油」を使うと聞いても、なかなかイメージしづらいかもしれません。油で洗う最大のメリットは、本来の色・艶・形を崩さずに洗えること。

 

たとえば、トイレットペーパーでさえも、破れたり千切れたりせずに洗えてしまいます。

 

水とドライクリーニング用の油、それぞれを入れたビーカーの中にトイレットペーパーを入れてよく振ると、水の方はトイレットペーパーがぐちゃぐちゃに溶けてしまうのですが、油のほうはまったく変化がありません。

 

取り出して乾かせば、そのまま使えるほど元の姿を保っています。

中村さんがYouTubeで公開している「トイレットペーパーの実験」動画

ちなみに、ドライクリーニングを行うには専用の設備が必要なので、家庭ではできません。

 

洗濯機のドライコースや、市販のドライ洗い用洗剤などがありますが、これらは「水」を使った優しい洗濯方法なので、「油」を使うドライクリーニングとはまったくの別物です。

ドライクリーニングに適した衣類は?

水を使った洗濯の場合、繊維(糸)が水分を吸収することで形状変化を起こしますが、油を使った洗濯(ドライクリーニング)はそれが起こりません。

 

たとえば、ウールの場合は、水で洗うと、繊維の表面にある髪のキューティクルのように連なるウロコが開いてしまい、その状態で揉まれると「フェルト化」と言って、縮みや風合いの変化が起こります。

 

ですが、油で洗うドライクリーニングではウロコが開かないので、その心配がいらないということになります。

形状や風合いを保ちたいアウターや上質なニットが最適

ドライクリーニングは、繊維の形状を変化させることなく、汚れを落としてくれるため、形はもちろん、色や風合いを保ちたい衣類の洗濯に向いています。

 

冬物であれば、コートやジャンパーなどのアウター、ウールやカシミアのセーターなどは、ドライクリーニングがおすすめ。

 

ウールのニットなども家庭で水洗いできなくはないですが、特にビジネスやフォーマルなシーンで着るなど外向きに着たい服、長く大事に着たい服はクリーニング店にお任せしましょう。

「有機溶剤」は衣類に残らない

油で洗ったあと、衣服に残ったりしないのか、という心配をする方もいるのではないでしょうか。

 

ですが、ドライクリーニングで使う油は、揮発しやすい「有機溶剤」を使います。洗った後は、しっかりと乾燥をさせますし、衣類に残ることはありません。

消毒用のアルコールなどを思い浮かべてみてください。もともとは液体ですが、手につけた後、時間が経つと自然になくなりますよね。それと同じように考えるとわかりやすいのではないでしょうか。

 

もし、クリーニング店から戻ってきた衣類から石油のような気になる匂いがする場合は、それは乾燥不足。

 

しっかり乾ききっていない可能性があるので、クリーニング店に伝えて再度乾燥してもらいましょう。

クリーニングの仕上がりトラブルを防ぐポイント

プリーツがとれかかったスカートをクリーニングに出したら、プリーツ自体が伸ばされてなくなっていた…。他にも、シワ加工のブラウスの風合いが変わっていたり、気になっていたシミが落ちていなかったり…。

 

クリーニングから返ってきた衣類を受け取ったあと、思っていた仕上がりと違う!と残念に思った経験がある方もいるのではないでしょうか。

「どうして欲しいか」要望をしっかり伝える

そうならないためには、どう洗うかではなく「どうして欲しいのか」をしっかり伝えることが重要です。

 

クリーニング店は、多くの衣類を扱うため、ここがしっかり伝えきれていないと、トラブルの元になりかねません。

「このシミをとってほしい」「シワが気になる」「襟がきちんと立つようにしてほしい」など些細なことでも具体的に要望を伝えましょう。

 

たとえば、美容室でカットする際、「髪の毛を切ってください」とだけ伝えることはありませんよね?

 

どれくらいの長さがいいとか、手入れが簡単な方がいいとか、自分なりのこだわりや要望を伝えることで、希望の仕上がりに近づくはず。クリーニングもそれと同じなんです。

 

困っていることは何か、どんな仕上がりにして欲しいかをしっかり伝えましょう。

ニーズに合ったお店選びも重要

もうひとつ大切なのは、ニーズに合わせてお店をしっかり選ぶという点です。クリーニング店も、利便性が売りのチェーン店から、町の個人店、さらにこだわりの専門店まで多種多様にあります。

 

みなさん、どのクリーニング店も同じ、と思っている方が多いように感じますが、どのお店もそれぞれに利点や特徴があり、それぞれ得意なことや不得意なことも当然違います。

 

ファミレスで手の込んだ高級フレンチが出ないのは当たり前ですが、これはクリーニング店においても同じ。早くて安いのが取り柄のお店で、丁寧で細やかなサービスや高度な技術を期待することは難しいですよね。

 

目的をはっきりさせておくと、お願いするお店も変わってきますし、満足のいく仕上がりが手に入るはずです。

クリーニングを上手に活用しよう

クリーニング店の役目は、ただ洗うだけではありません。衣生活にストレスがなく暮らせるようサポートしたり、その衣服の良さが活きる着方ができるようにお手入れするプロです。

 

要望はもちろん、気になることや疑問に思うことなどあれば、ぜひ伝えてみてください。

 

コミュニケーションを重ねながら、クリーニング店と上手にお付き合いをしていきましょう。意外と身近にいいクリーニング店が見つかることだってあります。

 

PROFILE 中村祐一

洗濯家・愛称「洗濯王子」。1984年、長野県伊那市生まれ。洗濯から考える「よりよい暮らし」の提案をはじめ、「衣」文化の革新にも積極的に取り組む。各種メディアにも多数出演。

取材・構成/大熊 智子