恵方巻き

食べられる食品を、さまざまな理由で捨ててしまう「食品ロス」。その象徴ともいえるのが、毎年2月に話題になる恵方巻の大量廃棄です。

 

食品ロスの削減に取り組むジャーナリストの井出留美さんに、問題の背景と解決策をインタビュー。「消費者にも責任の一端がある」というその真意を探ります。

「欠品は許されない」事業者側の事情

── 節分になると、業者によって大量に捨てられた恵方巻の写真がSNSに上がるなどして話題になります。なぜこんなことが起きるのでしょうか。

 

井出さん:

まず、販売店側の「販売チャンス(=売上)を失いたくない」という思いが非常に強いことが大きいです。お客さまが来ているときに売り切れが起きないよう、メーカーに多めに作らせ、仕入れています。

 

さらに、そうした「欠品は許さない」という店側の要求に、立場の弱いメーカーや卸業者側は従うしかないという事情もあります。

 

要求された量を用意できなかった場合、取引停止を言い渡されたり、罰金を払わされたりといった例さえあります。

 

恵方巻きを作る現場を見たことがありますが、海苔と、酢飯と、具材、すべての材料をスタンバイしておいて、発注がかかったらすぐに作り始められるようにしています。そういう工場では、家庭と違って、ご飯を1回炊く量も桁違いです。微調整ができないので、どうしても大量に作らざるを得ない。

 

品切れを恐れるあまり、販売店もメーカーも恵方巻を大量に余らせざるを得ない、そういう構造になっています。

 

── 恵方巻の売れ残りが話題になったのが2016年ごろ。それから5年が経ちますが、事態は変わっていないのでしょうか。

 

井出さん:

少しずつですが改善されています。

 

私は毎年、節分の日にデパ地下などをまわって閉店間際の売れ残り本数を調べています。2019年までは、閉店5分前でも272本が残っているデパ地下など、大量の売れ残りを抱えた店舗が目立っていました。

 

しかしその後、食品ロス削減推進法ができ、2020年になってからは、閉店までに完売する店舗が増えています。2021年も120店舗ぐらい調べたのですが、予約販売が増え、コロナ禍で営業時間も短縮していたので、夕方の早い時間に売り切れる店舗が多かったですね。

 

廃棄食品を扱っている工場のデータからも、徐々に改善していることがわかっています。

 

ただ、今年は2021年より増えている印象でした。ちょうどよい量を準備して売り切っているスーパーやコンビニがある一方、22時になっても200本近く余っているスーパー、70本近くが陳列されているコンビニもありました。

 

食品業界では、消費期限の手前に販売期限がありますから、もうあと数時間しか販売できない状況で、その在庫量です。これでは完売できないでしょう。残念ながら、また元に戻ってしまったように感じました。

季節商品の「売り切れ」を許容する社会に

井出さん:

恵方巻に限らず、「この日だけ食べる」季節商品は他にもいろいろあります。ハロウィン、クリスマス、バレンタイン…。食に困った人に分けるための「フードバンク」には、いまだにそういう季節商品の売れ残りがたくさん回ってきます。

 

食べ物は、動物や植物の命を犠牲にしてできあがっているものですから、適量を作ったらあとは「売り切れごめん」が当たり前、というのが理想です。

 

それには、消費者側も季節商品に対する考え方を変えていく必要があります。

 

恵方巻に関しては、廃棄されている画像が出回ったインパクトもあり、「売り切れていたら仕方がない」という考えが少しずつ広がってきています。2021年にSNSでチェックしたところ、買いそこねた人は自分で手巻きずしを作ったり、家にあるもので乾杯したりして、できる範囲で楽しんでいました。

手巻き寿司を作る親子

ないならないで済むものなのですから、すべての季節商品で「売り切れごめん」を受け入れていきましょう。

食品の見た目にこだわる日本人

── 季節商品以外にも問題はいろいろありそうですね。

 

井出さん:

日本は1人あたりの食品ロスが世界6位と多いほうです。理由のひとつとして、日本は他の国と比べて、食品の安全性や品質、さらには見た目に対するこだわりが強いことがあげられます。それが店の品ぞろえを左右しています。

 

たとえば米国のスーパーでは、缶詰の外側が少しへこんでいても普通に商品棚に並んでいますが、日本ではそれは許されません。食品の容器そのものはもちろんですし、運搬する際に使うダンボール箱が少しでも破れていると、店側が受け取りを拒否することも。中の商品が無事であっても、です。

 

野菜などに関しても、大きい、小さい、曲がっているといった理由で棚に並べてもらえない。

 

賞味期限における商習慣の「3分の1ルール」も問題です。たとえば、賞味期間が6か月の商品だと、製造日から数えて賞味期間の「3分の1」、2か月以内に店に納品しなければならないというものです。それよりも遅れた商品はメーカーに返品されてしまいます。

 

そうした食品の多くが結果的に捨てられているわけです。

 

── お店を変えるには、買い手も行動を変えなくてはなりませんね。

 

井出さん:

まずは買い物のときに「手前取り(てまえどり)」から実践できるといいですね。つい賞味期限が先のものを求めて棚の奥のものを取りがちですが、食べきれそうなときは棚の手前にある商品から取ってほしい。

 

商品の見た目も、味や品質に関係ない部分はおおらかに受け止めたいところです。

 

賞味期限や見た目にこだわりすぎることは、自分の首を絞めることにつながります。売れ残りが増えれば、お店やメーカーのコストを圧迫して価格に跳ね返りますし、捨てられれば市区町村に納めた税金を使って焼却処分することになりますから。

 

食品を燃やすために税金を使うよりは、福祉や教育、医療などに使ってほしいですよね。

メニュー変更などで食品ロスを防ぐ企業の取り組み

── 食品ロス削減のために頑張っている、新しいことにチャレンジしている企業はありますか。

 

井出さん:

北海道を中心に展開しているコンビニのセイコーマートは、臨機応変な対応がいいですね。2018年に北海道で地震があったとき、大手コンビニでは「幕の内弁当の中の漬物だけがないから全部廃棄」という例がありました。

 

一方、セイコーマートはカツ丼などにする予定だったご飯を塩むすびにして販売していました。平常時の商品開発でも、規格外のメロンをソフトクリームなどに使うといった工夫もされています。

 

スーパーマーケット・オーケーの「オネストカード」もいい取り組みです。天候不順で品薄だったり品質が悪いとき、その理由をきちんと表示して、かわりの方法を提案したりしています。

 

こうした取り組みを、多くの食品小売に見習ってほしいですね。チャレンジしている企業を応援することも、消費者にできる行動のひとつです。

 

 

食品ロスを生み出す「品切れNG」「品質にシビア」といった企業の体質。しかしそれは消費者の行動と表裏一体とも言えます。

 

食品ロスを減らしていくため、私たちも意識を変えていく必要がありそうです。

 

PROFILE 井出留美(いで・るみ)

井出留美
食品ロス問題ジャーナリスト。株式会社office 3.11 代表取締役。3.11の食料支援で廃棄に衝撃を受け、office3.11を設立。食品ロス削減推進法成立に協力。著書に『捨てられる食べものたち』『食品ロスをなくしたら1か月5,000円の得!』『賞味期限のウソ』など多数。
取材・文/鷺島鈴香 イラスト/えなみかなお 参考/食品ロスの現状を知る|農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2010/spe1_01.html 食品ロスとは|農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/161227_4.html