大人が抱えやすい対人関係の解決策について、臨床心理士の八木経弥(えみ)さんにお話を伺います。今回は、PTAの役員決めをめぐって、周囲の態度にうんざりしてしまった、という方のお悩みです。

【Q】気が重いPTA役員決め張り詰める空気が苦手

 小学生の子どもを持つワーキングマザーです。毎年、PTAの役員決めの時期が近くなると気が重くなります。6年間に一人一役は担当してほしい、と言われていますが、実際のところ、立候補する人があまりおらず、なかなか決まりません。

 

「引っ越すかもしれないから」「仕事が忙しくなるから」と言って毎年のらりくらりとかわしている保護者もいますが、「結局やりたくないだけでは?」と疑ってしまいます。ピリピリとした空気感の中、徐々に追い詰められた気分になり、「立候補してみてもいいかも」という気持ちになるのですが、「目立ちたがり屋」と思われそうで、結局、手を挙げられません。このような場をうまくやり過ごす方法はありますか?

自分を俯瞰して一歩引いてみる

 PTAの役員決めって独特の緊張感があって、気が滅入りますよね。この場が苦手という方は少なくないと思います。なかなか役員が決まらない、毎年同じ人が役員をしているという話もよく聞きます。

 

そもそも多くのパパやママが、仕事や介護、育児をしながら、忙しい合間を縫ってPTA活動をすることになるはずです。「引っ越すかもしれないから」「仕事が忙しくなるから」と言いたくなる気持ちもわからないではありません。

PTA

こうした理由に対して、質問者の方は「結局やりたくないだけでは?」と疑ってしまう。負の感情が湧いてくるのも、また自然なことです。負の感情も自分自身の大切な感情なので、否定する必要はないと思います。

 

ただ、負の感情に巻き込まれてしまうと、さらにモヤっとしてしまうので、その感情を俯瞰して見られるといいですね。

 

こういう場合、まずは浮かんできた自分の気持ちを少し客観的に見て、観察することがお勧めです。

 

「あぁ、あの人の発言について『うそじゃないの?』って感じているんだな、私。」

「今の私、あの人の言い訳するような言い方に、ちょっとイラッとしてるなー」

 

など、湧き出た気持ちから一歩引いてみると、モヤっと、イラッとする感情から少し距離が置けます。

  

心理学でいう「爽やかな自己表現」をトレーニングする時に使われる手法、「私は」を主語にした使い方「I(アイ)メッセージ」を、心の中で使ってみるのもいいかもしれません。

 

「私はこの人の発言を『本当なの?』と疑っている」、「私はこのみんなが押し付け合う空気感が好きではない」という風に考えると、少し冷静になれます。

スマートな立候補の仕方

その場の空気に押されて立候補したくなったけど「目立ちたがり屋」と思われたくないという感情を抱く気持ちもわかります。ただ、立候補する人に対して「目立ちたがり屋」ととる人の心を深読みすると、「嫉妬」の裏返しであることが多いです。本当は自分自身が目立ちたいけれどそこまでの勇気がなく、その人のことをうらやましく感じているのです。

 

もしあなたが立候補してもいいかなと思っているけど「目立ちたがり屋」と思われるのが嫌なら、役員経験のある人に実際にやってみた感想を事前にリサーチしておくことをお勧めします。

 

そのうえで、「前任者から話を聞いたら、とても楽しそうだったのでやってみたくなった」「子どものお友達の顔が覚えられるって聞いたのでやります」という前任者のアドバイスが立候補の動機になったことを伝えると、いや味がなくて叩かれにくく、目立ちたがり屋の印象も薄くなります。ぜひ試してみてくださいね。

 

PROFILE 八木経弥さん 

八木経弥(やぎ・えみ)先生
やぎ・えみ。臨床心理士/公認心理師。心療内科や児童相談所、スクールカウンセラーなどの勤務経験のもと、開業カウンセラーとしても活動中。仕事では心理学を活用した育児の方法などを伝えている。2人の娘の母。

取材・文/大楽眞衣子