「なんかあの人老けたかも?」。ふとマスクを外した相手を見て、そう思える瞬間
老け顔以上に深刻なマスク生活の影響
── 忙しい毎日を送っていると、優先順位が低くなりがちなオーラルケアですが、その重要性について教えてください。
石井さん:
口の中のケアや口元の運動は、全身の健康に影響してきます。
口は「食事する(噛む)・会話する・呼吸する」中心の部分。口を動かしていくうちに脳内は活発になっていきます。
逆に動かさないでいると、「オーラルフレイル」といって口腔内機能が衰えます。具体的には舌が動かなくなったり、飲み込む力が弱くなったり…。脳への刺激もなくなって、気力まで奪われてしまいます。
── 動かすことが重要なのですね。コロナ禍で長引くマスク生活での影響も気になります
石井さん:
マスクで口をフタしている状態だと、いつにも増して口元を動かさなくなります。「どんな顔をしていようが、目(アイメイク)だけ何とかすればいい」考えにも陥り、口元の運動量も減ってしまいます。
マスク生活で特に衰えやすいのが、口輪筋です。骨にくっついていない筋肉なので、油断すると若い人でも簡単に衰えていきます。
ここが衰えると「口角が下がる」「たるみ」「ゆるみ」といった見た目の老けた印象はもちろん、唇の開け閉めが不自由になり、きゅっと口を閉じることが難しくなってきます。
口が閉じていないと乾燥しやすくなるので、口腔内環境が悪化して老化をさらに早めてしまうことに…。
誤飲や、喉から肺の方に菌を侵入させやすくもなるので、“マスク老け”は侮れません。
── 口輪筋の衰えについては、気づいていない人がほとんどだと思います。マスク生活による影響の大きさを感じますが、ほかにも何かありますか?
石井さん:
マスクをしているとき、無意識のうちに口呼吸になっていませんか?これがよくありません!なぜなら、口腔内が乾燥して唾液の分泌量が低下するからです。
唾液が少なくなると、口腔内の環境は一気に悪化します。唾液には、免役を維持する物質が含まれていますし、口の中全体を掃除する役割もあります。
さらに少量ですが、美肌ホルモンの「パロチン」も入っているので、唾液がたくさん出ている人は肌もきれいになります。若さをキープすることに関係しているんですね。
そんな大切な役割を持つ唾液。年齢を重ねるにつれてその分泌量は減少しますが、今、若い人でもマスク生活で唾液が出ない現象が起きています。唾液は運動で出てくるので、口元の運動不足は大敵です。
たった10秒!口元の老化防止エクササイズ「顔トレ」
── “マスク老け”の奥深さを知りました…。手遅れにならないために、ふだんからできることはありますか?
石井さん:
マスク生活はまだしばらくは続きます。老化防止のために、忙しい方でも取り入れやすい簡単エクササイズ「顔トレ」を3つ紹介します。
マスク生活が終わったとき、素敵な表情で好印象を持ってもらうためにも、今すぐ実践してみてください。
1.二重あごやたるみにも効果あり!「10秒舌まわし」
食後のタイミングでぜひやってほしいのが「10秒舌まわし」。1周10秒かけて、口内で舌をぐるっとまわしてください。上下の歯の表面を滑らせるように右まわし、左まわしを1回ずつ合計20秒でOKです!
舌を鍛えるためにも「ゆっくり」まわすのがポイント。舌筋や口輪筋に刺激を与え、口まわりだけでなく二重あごやたるみ、首まわりの老け顔予防に繋がります。
舌の動きが刺激となって唾液がたくさん分泌され、口元まわりを整えてフェイスラインを引き上げる効果もあります。
2.肌の調子もよくなる「美唾液プッシュ」
疲れのピークがやってくる夕方は、ストレスのせいもあり、唾液が出にくくなります。そんな時間帯におすすめしたいのが「美唾液プッシュ」です。
耳上部の前あたりにある小さなくぼみが唾液のツボ。ここを「指の腹で10秒押して離す」を5~10回繰り返します。そうすることで、耳下腺が刺激されて唾液の量が増えます。
ここから出る唾液は、先ほどお伝えした、「パロチン」という成長ホルモンを含んでいます。若返りホルモンとも呼ばれるものです。
肌の不調や更年期のドライマウスの改善効果も期待できるので、帰りの通勤電車などで、リラックスしながらやってみてください。
3.安眠にもつながる「かみしめほぐし」
夜は口元の筋肉をほぐすことに専念しましょう。最近、日中マスクの下で歯をくいしばる人が増えています。この緊張をほぐしてあげることが大切です。
かたくなった側頭筋を「お疲れさま」という意味も込めて、人差し指、中指、薬指の3本で前へぐるぐる5回、後ろへ5回マッサージします。血流がよくなり、次の日のむくみ、たるみ予防にもなりますよ。
お風呂でリラックスしながらやると安眠にもつながります。口の中の粘膜は、夜修復していくので、しっかり眠ることはとても大切。ぜひ覚えておいてください。
「マスク老け」を予防するためにやるべきことは、表情筋を鍛えること、口角を上げるよう意識すること、そして唾液の分泌を促すこと。
こうした日々の積み重ねが、マスク生活にも負けないイキイキとした表情をつくっていきます。口元のケアを意識的にすることで、老いのスピードは遅らせることができます!
PROFILE 石井さとこさん
歯科医師・口もと美容スペシャリスト。「ホワイトホワイト」院長。歯のホワイトニングを日本で広めた第一人者。マスク老けを撃退する、「顔トレ」を提唱。歯と身体を美しく保つための食事や、口元メイクについてのアドバイスに定評がある。女優・モデル・アナウンサーからの信頼も厚い。著書に「マスクしたまま30秒!! マスク老け撃退顔トレ」(集英社)など。
取材・文/高田愛子 イラスト/かりた