大人が抱えやすい対人関係の解決策について、臨床心理士の八木経弥(えみ)さんにお話を伺います。今回は、コロナ禍で、仲の良かった友人との関係がぎくしゃくしてしまった方のお悩みにお答えします。

【Q】コロナ禍で友人と価値観の違いが…

コロナ禍になり、これまで気が合うと思っていた友人とぎくしゃくしています。わが家の場合、感染状況が落ち着き、蔓延防止などがない時期も感染の懸念があるので外出はなるべく控えているけれど、友人一家は気にしないタイプ。価値観のずれがきっかけで、距離を感じるようになってしまいました。会いたいからランチしようと誘ってくれるのですが、今はちょっと気が向きません。話すと楽しいし、以前のように気兼ねなくつき合いたいです。何かいい対処法はあるでしょうか。

価値観のずれには正解がない

今、とても多いお悩みですね。もやもやしますよね。

 

こうした場合、相手に気をつかうあまり「今日はちょっと都合が悪い」とその場しのぎで断りがちですが、その対応はどこかで行き詰まります。精神的にもつらいうえ、お互いの関係を悪化させかねません。

 

人とつき合うなかで「価値観のずれ」を感じたときに思い出してもらいたい大切なポイントがあります。それは、人はそれぞれ色々な価値観を持っていて、お互い尊重されるべきということ。外出を自粛したいという感覚も、相手の遊びたいという感覚も、決して間違っているわけではないのです。つまり、価値観のずれには正解がありません。

 

それを踏まえたうえで、良好な関係を築くためにはどうしたら良いのでしょうか?今の自分の気持ちを「具体的」かつ「さわやかに」伝えることをおすすめします。私はこう感じているし、あなたはこう感じている。ここに考え方の違いがあるけれど、仲良くしたい気持ちはある、ということを伝えるのです。

言葉のプレゼントも忘れずに

こうした伝え方は、心理学の分野では「アサーション」と呼ばれます。アサーションとは「さわやかな自己表現」のこと。円滑なコミュニケーションのためには欠かせないコミュニケーションスキルのひとつであり、覚えておくととても役に立ちます。

 

友達と会話

「アサーション」な自己表現をするためにはいくつかのやり方があるのですが、取り入れやすいの「私は」を主語にした伝え方「I(アイ)メッセージ」です。

 

例えば今回の場合でいうと、「私は心配性で、出掛けるのがこわいの」「私は遊んでいても、感染させていたら、感染していたらという不安がなくならないんだよね」ということを「私の意見」として伝えます。

 

でも誘ってくれたことを断る場合、ただ断るだけでは申し訳ないですよね。そんなときには「言葉のプレゼント」をおすすめします。 

 

「またコロナが落ち着いたらこちらから誘ってもいい?私もあなたと遊ぶの好きだから、遊べるのを楽しみにしてるよ」

 

「ごめんね。今回は遊べないんだけど、誘ってくれてうれしかったよ。また誘ってね」

 

このように、Iメッセージの後にこれからどうしたいかという意向を具体的に伝える言葉プレゼントすることができると、断られた相手も誤解しづらくなります。良好な関係を継続するために大切な働きかけです。これもアサーショントレーニングの大事な要素です。

伝え方は普段から練習が必要

「アサーション=さわやかな自己表現」と伝えましたが、別の言い方をすると「自分のことも相手のことも大事するコミュニケーション」です。上手にアサーショントレーニングを実践するためには、普段から意識していろんなシーンで練習してみるとよいです。以下の4つのステップを意識してみてください。

ステップ1:まずは相手の気持ちを受け止める

状況を受け止めて、自分は感情的にならないように相手の気持ちを受け止めます。オウム返しなど、ひと呼吸おくことができればOKです。例えば、ランチに誘われた場合、「ランチね」と返します。

ステップ2:自分の気持ちを表現する

「久しぶりにランチしたいね。でも、自分でも不安になりすぎかもと思うけど、自分も感染しているかもという気持ちや、人を感染させてしまうのではという不安が、遊んでいてもなくならなくて・・・」というように、相手の気持ちや立場に共感しながら、思いやる内容と事態に対する自分自身の気持ちを率直に表現します。

ステップ3:次の行動を具体的に伝える

「今は遊んでいても心から楽しむことができないから、コロナが落ち着いたら私から連絡してもいい?」と、自分がとりたい行動や、相手にとって欲しい行動を1つか2つ、具体的に伝えます。

ステップ4:お礼や交渉、妥協点を見つける

ステップ3への相手の対応に対するあなたの反応です。言葉のプレゼントも一緒に伝えることができると、さらにいいコミュニケーションが生まれやすくなります。

 

相手が了承してくれた場合、「あなたとは絶対遊びたいから、必ず連絡するよ。誘ってくれてありがとう。声かけてくれて、うれしかったよ」

 

『そんなの心配しすぎだよ』など、了承してもらえなかった場合、「やっぱり今、直接会うのは怖いから、LINEのビデオ通話とか、Zoomでおしゃべりするのはどう?」

 

こうして具体的な提案と率直な気持ちを伝えることで、お互いに尊重される感覚が生まれます。ぜひ試してみてください。

 

PROFILE 八木経弥(やぎ・えみ)さん 

八木経弥(やぎ・えみ)先生
臨床心理士/公認心理師。心療内科や児童相談所、スクールカウンセラーなどの勤務経験のもと、開業カウンセラーとしても活動中。仕事では心理学を活用した育児の方法などを伝えている。2人の娘の母。

取材・文/大楽眞衣子