子どもがやりかけた宿題を放り出して遊び始めてしまった──そんなとき、「集中して勉強できないのは、もしかして環境のせいかも?」と思ってしまうことはありませんか。今回は、「子どもが快適に勉強できる空間づくり」について、教育者・見守る子育て研究所(R)所長の小川大介先生にお話を伺いました。
【Q】積極的に学ぶ勉強の空間づくりについて
小学校5年生の子どもがいます。これまで子どもの勉強は、ダイニングやリビングでさせていたのですが、「家族が出入りするので、うるさくて集中できない」と言うようになりました。自室で勉強をさせてみたのですが、誘惑が多いのか結局、集中できていないようです。リビング&ダイニングでも、子ども部屋でも、積極的に学ぶようになる勉強の空間づくりのポイントがあればぜひ教えてください。
3つの「学習タイプ」わが子はどれに近い?
大人も子どもも、人は脳の使い方にクセがあり、情報の捉え方に特徴があります。私が提唱する「見守る子育て」においては、こうした特徴を「学習タイプ」と呼び、わかりやすく3つのタイプに分けて考えています。
1つ目は、「視覚タイプ」。視覚が優位にはたらく、つまり色や形などの目に入ってくる情報に反応しやすいタイプです。いろいろと目移りしがちなので、部屋には余計な物を置かないことが大切になります。
2つ目は、「聴覚タイプ」。音に反応したり、言葉をよく記憶していたりするタイプです。そばに家族がいると、その声が気になってしまって集中できないので、音をシャットアウトする工夫が必要になります。
3つ目は、「身体感覚タイプ」。動きがあるものや伝わってくる響きなどに反応しやすく、運動や身体感覚で感じることが好きなタイプです。
いすに座り続けることが苦手な場合があるので、立ち歩いたり寝転がったりと、好きな姿勢で勉強できる空間が必要です。部屋の中をうろうろ立ち歩くことでかえって集中が増す場合もあるので、お子さんのスタイルを発見していくつもりで見守るといいですね。
子どものタイプはひとつではなく、グラデーション
ご相談者様のお子さんは、「聴覚が優位なタイプ」かもしれません。家族の声や物音を遮断することが効果的なので、リビングやダイニングではノイズキャンセリング機能がついたヘッドホン(できれば圧迫感を抑えたもの)を与えてあげると落ち着いて勉強ができるようになると思います。
また、「自室で勉強してみたものの集中できない」ということは、視覚情報にも反応しやすいのかもしれません。お子さんを誘惑する物が散らかっていませんか。
たとえば、漫画や趣味関連の物は手が届きにくいところに収納する。収納場所の確保が難しい場合は背中側に置いて視線からはずすなどの工夫をしてみてください。世界地図など学習系のポスターは、1つの壁に1つだけ貼るなど、ゾーンを分けるとお子さんの気が散らずにすみます。
リビングやダイニングで学習しているのであれば、家族やモノが目に入ってこないよう壁側に机といすを向けてあげるといいでしょう。また、学習机でも、リビングやダイニングのテーブルでも、お子さんが学習する場所はきれいに片づけて、集中したいものだけを置くようにしてあげてください。
このように、3つの学習タイプのどれか1つにバッチリ当てはまるということはありません。誰もが視覚、聴覚、身体感覚を使っていて、その度合いに濃淡があるのです。
「この環境を作れば間違いない」という理想の空間はなく、お子さんの特性に合わせた空間づくりが必要になります。まずはお子さんが、視覚、聴覚、身体感覚をどのようなバランスで使っているのかよく観察し、その特性を理解してあげてほしいなと思います。
たとえば、視覚タイプの子がキョロキョロしていても、「落ち着きがない」と思うのではなく、「いろんな情報が見えてるんだな」と捉えて学習空間を整えてあげてください。
「得意な科目は1人でやりたいけれど、苦手な科目は親のそばでやりたい」とか、「たくさんの資料を広げられるから、調べものをするときはダイニングテーブル」とか、子どもは自然と心地よい環境を選んでいたりします。そんなところにも注目して、快適な空間をサポートしてあげられるといいですね。
なお、「積極的に学ぶようになる」には、本人が学習での成功体験を重ねていくことが必要です。気持ちよく勉強できた経験が、次の学習への意欲につながるのですね。ですから、子どもの特性に合わせて空間を整えただけで、劇的に子どもの意欲が上がるという期待はしないようにしてください。まずは、「子どもの学びを邪魔しない空間づくり」を目指し、うまく学習できた時にしっかりと褒めてあげて自信を高めていくというのがコツです。
PROFILE 小川大介
取材・構成/佐藤ちひろ