仕事をするうえで、ミスはつきもの。でも、そのミスを恐れて、不安でしんどくなっている人もいるのではないでしょうか。
産業医・精神科医として活躍する井上智介先生に、「仕事のミス」が怖いと思う気持ちを和らげるマインド法と環境作りについて教えてもらいました。
「他人の目が気になりすぎている」から仕事のミスが怖い
ミスをしたら誰かに迷惑をかけてしまう、叱られるのが怖い…そう思っている人は少なくありません。
この不安には、「他人の目が気になっている」ことが大きく影響しています。
たとえば、自分ひとりで食事をしているときにうっかり食べ物ををこぼしてもなんとも思わないのに、そこに誰かがいれば、失敗が気になってしまうもの。仕事でも同様の心理が働いているのです。
仕事のミスが怖くてしんどい人は、他人の視線との付き合い方を考えると、その不安が払拭されるのではないでしょうか。
失敗を引きずらない考え方のポイント
あらかじめ準備したり、対策を練ったりして、ミスを防ぐことも大切ですが、他人の目が気にならないようなマインドチェンジをすることも、ミスを恐れずに仕事に取り組める秘訣です。
人生に失敗はつきもの。誰だって必ずミスをする
まずお伝えしたいのは、「どんなに偉い人でも、必ずミスをする」ということ。人生において失敗はつきもの。何度もあることです。
ですから「1回の失敗ですべてがダメになった」と思う必要はまったくもってありません。
実は、ミスの大小を判断するのは他人ではなく、自分自身。「こんなに大変なミスをしてしまった」と思っていても、他の人から見たら、さほど気にするような失敗ではないケースは多々あります。
ミスを過剰に恐れるあまりに、さらに失敗してしまうケースも少なくありません。「ミスは誰だってするもの」と捉え、怖がらないマインドに変えていきましょう。
ミスを分解し「良かった点」を見つける
しかしながら、そう頭ではわかっていても、やはり「仕事のミス」を気にしてしまったり、落ち込んでしまったりすることも多いですよね。
そうならならないためには、「失敗を分解して振り返り、ミスの中でも良かった点」を見つけることが重要です。
たとえば、 1.企画を考えて提案した
2.社内ミーティングで自分の企画が採用された
3.取引先のコンペでプレゼンをした
4.コンペの結果、他社の案に決定した
という出来事があったとします。
このとき、コンペの結果を受けて落ち込んでしまいますが、1~3の過程においては、社内で企画が採用されているので、十分褒められるべきことではないでしょうか。
最終的にうまくいかなかったことだけを見るのではなく、そこまでの過程を振り返り、うまく進めた自分を褒めてあげるのがポイントです。
この思考方法を繰り返していけば、頑張った部分は自分でしっかりと認められるようになり、自己肯定感アップにもつながります。
周囲を味方に!心理的安全性を保つ環境作りも重要
周りとの信頼関係が、自分の仕事のミスを救ってくれるケースもあります。信頼関係がしっかり築けている相手の場合は、ミスを責めるのではなく、親身になって相談に乗ってくれるケースもあるでしょう。
自分が組織のなかで安心して過ごせる・発言できる状態を「心理的安全性」と言います。ミスすることを恐れ、周りから責められるのでは…と萎縮している環境では、仕事上で良いパフォーマンスも発揮しづらいものです。
必要なのは、周りから『ミスをしても大丈夫』と思ってもらえる、心理的安全性が高い環境を作れるか否か。「許してもらえる」と確信できれば、ミスをすること自体が怖くなくなりますよね。
そのために、日常の中でできる環境作りとして、小さな親切を繰り返すことも重要です。
たとえば、
・換気のための窓の開け閉めをする
・シュレッダーのゴミを捨てる
・コピー機の用紙を補充する
・会議室の予約をする
など、みんながあまりやりたがらない、でも誰かがやらないとまわらないことを積極的に行ってみる。
誰も見ていないようで、あなたの行動を見ている人は必ずいます。こういった小さな積み重ねも、仕事仲間との信頼関係に結びつくものです。
失敗をラフ(rough&laugh)に受け止めよう
どうしても、目先の「ミスをしない方法」を考えがちですが、仕事でミスをしないよう身構えるよりも、ミスをしても大丈夫と思える人間関係を構築していくことのほうが、長い目で見ると有効なのではないでしょうか。
会社はひとつのコミュニティであり、さまざまな不安は自分自身が生み出しているもの。失敗は大きな学びであり、次に生かすことができるかけがえのない経験です。
ほんの少し、考え方、捉え方を変えるだけで、あなたの心はすーっと軽くなるはずです。もちろん、実行が難しいときは、無理にしなくて大丈夫。
「ラフ(rough/laugh)に生きる」というのが、私のモットーです。どうか良い意味で大雑把に、そして笑顔で、毎日を過ごしてくださいね!
PROFILE 井上智介
取材・構成/水谷映美