昨年12月に香港で行われたレース中に落馬事故に巻き込まれ、左鎖骨骨折と診断された福永祐一騎手。京都のご自宅に戻られ、無事に手術を終えたそうですが、妻でフリーアナウンサーの松尾翠さんにアスリートの妻として、3人のお子さんの母親としての心の持ち方について伺いました。
術後の経過は順調「何かに守られた」
──ご主人のお怪我で、ご家族も大変な心配をされましたよね。
松尾さん:
ものすごく大きい事故だったけれど、骨折で済みました。本当に、何かに守られたなと思います。ありがたいことだと思って、戻れる日に向けて頑張っていこうと思っています。
不安が心の中にあるのは自然現象だと思うんですけど、必要以上に目を向けて、ネガティブな選択をしないようにしています。不安に思ってはダメだということはないんですけど、大丈夫と思う気持ちの方を意識して選ぶようにしています。
──ご自身の気持ちに向き合って、整理をしているんですね。
松尾さん:
結婚して9年になりますが、心の中に沸き上がった感情の取捨選択には気をつけていて。たとえば今回のように夫のケガだったら、きっと大丈夫と信じるか、またあったらどうしようと思うか。自分の気持ちが楽になる方をその都度選んで、実際に起こってしまったことに対しては、そこからどう解決策を見つけていくかを探すようにしています。
自分の気持ちに意識を向けていくことや感情に対する処置というのは日々細かくしていると思います。なので大きくぶれることはあまりないですね。私がそうあることで子どもたちも大枠で安心していられるといいなと思います。
──アスリートの妻として、ご主人を送り出すときはどんな気持ちでいるのですか。
松尾さん:
何かが起きたから対処をするわけじゃなくて、すべてが想定内というか、何かが起こってしまうかもしれないと常に思っています。
もちろん起こらないことをイメージはしますが、起きたからと言ってそれで揺らぐほどの覚悟をしているわけじゃないぞと。結果、何かが起きてしまったのであれば、「よし任せておけよ」という気持ちでいます。
うちの夫の場合はケガをするとか、困難な状況がわかりやすいんですが、今を生きる人ってみんなどこかで大変な思いをしていますよね。それぞれが心の中に抱えている大変さや苦しさというのは人と比べられるものではありません。
自分の心のセーフティゾーンを守ること。それが家族を守ることにもなるんだと思います。
夫が不在の間「頼ることで頼られる」友人関係
──ご主人がレースなどで家を不在にするときも多いと思いますが、どなたか頼りになる方はいらっしゃいますか。
松尾さん:
夫がいない間はいわゆるワンオペですが、友達たちが近くにいます。ご飯を持ってきてくれることもありますし、ひとりの子の通院などで、他の子の面倒をちょっとお願いしたいというときも昔のコミュニティみたいな感じで来てくれています。
──信頼できる友人がお近くにいらっしゃるのは心強いですね。
松尾さん:
本当に助かっています。でも意外と人に頼むことが苦手な人も多いですよね。その感覚もすごくわかります。逆の立場なら人に頼ってもらえるとありがたいなと思うので。私も何か負荷がかかったときは、えいっと友人に頼るようにしています。
「ありがとう」って気持ちは沸けば沸くほど、相手のために何かをしたくなる原動力になると学びました。できることを循環させていくのがこれからの社会の形だと思います。
だれかが困っていたら全力で行くぞ!と。頼ることで頼られる。信頼できる人が周りにいて、ひとりではない人を増やしていきたいなと思います。
PROFILE 松尾翠
フリーアナウンサー、SENSE OF WONDER主宰。2歳3歳7歳の3児の母。夫はJRA騎手の福永祐一。2006年フジテレビ入社、2013年結婚を機に退社し京都に移住。出産後、本を通して体験することをモットーに「SENSE OF WONDER」設立。選書、イベント、執筆などを行い、オンラインショップで毎月おすすめの本や逸品を受注式で取り扱う。Instagramで情報を発信中。
取材・文/内橋明日香 写真提供/松尾翠