できれば、職場の人間関係で悩みたくはない。とはいえ、なかなか思うようにいかないのが人間関係。
産業医・精神科医として活躍する井上智介先生も、「私のもとに相談に来る方の悩みで圧倒的に多いのが、職場の人間関係のトラブルです」と断言するこの問題。
苦手な上司や同僚との“しんどい”を解消する方法を聞きました。
相手の言動を「コントロールできない」からしんどい
常に高圧的な態度をとってくる、ビジネスマナーが守れない…そんな上司や同僚が近くにいると、イライラが止まらなかったり、ストレスに感じたりすることも。
しかし、「どんな環境であっても、相手を変えることは難しい」ということが現実問題としてあります。
仕事量ならば自分である程度調整できても、人間関係の悩みは相手ありきの話。自分だけではコントロールできないものです。
実は、人間関係でストレスを抱えるのは、「自分のことをわかってほしい」とか、「こう接してほしい」という期待があるから。
この悩みから解放されるためには、相手が変わってくれると期待しないことが大前提。自分自身が相手との関わり方や考え方を変えるのが一番の解決策になるんです。
自分の身は自分で守る!苦手な上司や同僚への対処法
とはいえ、職場で接しなくてはいけない苦手な上司や同僚とは、険悪にならない程度につき合っていきたいもの。どのようにすればいいのでしょうか。
心理的な距離をとる
簡単にできるのは、心理的な距離をとること。自分がストレスを感じる原因を探ってみたとき、相手への期待からストレスが生じている場合に有効です。
たとえば、「時間を守るのは当たり前」と思っているあなたにとって、時間にルーズな相手と付き合うことは、イライラしっぱなしでしんどいでしょう。
この場合、「時間を守ることを相手に期待する」ことをやめるなど、自分の期待値を下げない限り、永遠に相手がこちらの期待を上回ることはありません。
相手がどう振る舞うかは自分には関係ない。そう割り切ることも大切です。加えて、なるべく接点を作らないように心がけつつ、絶妙な「塩対応」で物理的な距離もとっていけるとよいでしょう。
「メタ認知」を使ってラフに受け流す
相手が言葉や態度でこちらを攻撃してくる場合は、真面目に対応すればするほど心が疲弊していったり、相手の対応がエスカレートしたりする恐れがあるので注意しましょう。
特に上司の存在は、会社で快適に過ごせるかどうかという点において、最も影響力があるもの。その場合は、上司に対する「認知」を変えてみるのも効果があります。
具体的には上司の存在を心の中で上から目線で見て「ちっぽけな存在」と認識します。そして、攻撃を受けても、決して同じ土俵にたたずにラフに受け流す。これは、「メタ認知」と言われる手法です。
相手が何を言ってきても、子犬が吠えているくらいの感覚で怖がらない。そして、心のなかでは「あ~、また怒ってるなぁ」と思いつつ、口では「ありがとうございます!」のように丁寧な素振りで対応すると、関係性が悪化することもないはずです。
1人で抱え込まずに相談する
「メタ認知」はすぐに身に付くものではないため、もしかすると、つらいと感じてしまうこともあるかもしれません。そうならないためには、誰かに思い切って相談してみる、ということも重要です。
1人で悩みを抱え込んでしまうと、なかなかゴールが見えずに、また悩むという悪循環に陥ってしまい、SOSが出せないまま身も心もボロボロに…。実際にそのような方を何人も見てきました。
最初のハードルは高いかもしれませんが、打ち明けてみると、同じ悩みを抱えていたり、なかには心強い味方になってくれる人もいるでしょう。
反対に、誰かに相談されたときは、手を差し伸べられるといいですね。環境を変えるという意味では、違う部署へ異動願いを出したり、リモートワークをお願いしたりするのも一案です。
それでもダメなら「期間限定思考」で気持ちを吹っ切る!
お伝えした対策をとっても、自分のマインドを変えても、悲しいことに状況が好転しないこともあります。
その場合は、いつまでその環境で頑張るかを決めてしまいましょう。つまり、自分でゴールを設定するのです。
たとえば、来年の3月末までは頑張ってみる。目標に掲げた日付までに、人間関係が改善されていなかったら、仕事を辞める!といった具合です。
意外と、「半年後には辞めればいい」という決断を心のお守りにすると、自分らしく振る舞えることも増えます。結果として、ストレスの種がなくなり、そのまま仕事を続けられるケースも少なくありません。
「自分」と「他人」を分割して考えよう
自分は自分、他人は他人。そう割り切って捉えることで、あなたを悩ませる人間関係の悩みが少し軽減されるのではないでしょうか。
相手に期待しない。自分の機嫌は自分でとる。
最初はマインドチェンジするのに時間がかかるかもしれませんが、不要なストレスを抱え込まないためにも、ぜひチャレンジしてほしいと思います。どうか、居心地の良い職場環境になりますように!
PROFILE 井上智介
取材・構成/水谷映美