「体の痛みや微熱など、何らかの身体的症状が出ていれば病院に行くなど対処できますが、厄介なのは、なんとなくしんどくて辛いというケースです」

 

そう語るのは、産業医・精神科医として活躍する井上智介先生。自分でできる「しんどいの解消法」とは…!?

「なんとなくしんどい」その理由は?

毎日の仕事のなかで、「なんとなくしんどいな…」と感じている人は多いかもしれません。

 

なぜ「なんとなくしんどい」と感じるのか。解決策を見つけるためには、ストレスを感じている理由を考えてみることが大切です。

 

なかには「特に思い当たらない」という人もいるかもしれませんが、実は、当たり前だと思っている今の自分が置かれている状況が、客観的に見るとおかしい場合もあります。

 

たとえば、家族や友人に話をすることで、「そんな状況は異常だ!」と気づくケースは珍しくありません。第三者から客観的な意見をもらうのもひとつの方法ですし、カウンセリングという方法をとるのも有効です。

自分で自分を癒す「ストレス解消3ステップ」

僕ら精神科医は、診察に来た人の話を聞いて、なぜ「なんとなくしんどい」のかをいっしょに探っていきます。

 

自分で行う場合は、次のステップを踏んでいくと実践しやすいかもしれません。

1.自分のストレスを紙に書いて整理する

まずは、今抱えている不安やモヤモヤしていることを紙に書き出してみましょう。漠然としたネガティブな感情を目に見える形にすると、今後どう動くと心が楽になるかがハッキリしてきます。

書き出したネガティブに考えてしまうこと、つまりストレス源のうち、自分の力ではどうしようもできないものはスルーしてしまって問題ありません。

 

たとえば、「上司がいつもイライラしていて会社に居づらい」というのがストレスの場合は、そもそも上司の機嫌をコントロールするのは難しいため、一旦不安リストから切り捨てましょう。

 

「取引先に提案した企画の返事が今週中にもらえるはずだけど、通っていなかったらどうしよう」といった不安も、すでに提案済みであれば、今から思い悩んだところで自分ではどうしようもできませんよね。であれば、悩まず不安リストから消してしまってください。

 

反対に、自分でなんとかできることに対しては、モヤモヤを解消できる可能性があります。

 

たとえば、「取引先と英語でやりとりする機会が増えたが、コミュニケーションが難しい」という不安であれば、少しずつでも外国語を勉強する。対策をとれば、不安が少し解消するのではないでしょうか。

2.60点合格を基準にする

自分でコントロールできるストレスがわかったら、改善に向けて動き出します。おすすめは、「60点を合格ラインとすること」。完璧主義の人や真面目な人は特に、つい理想の形として100点満点を目指してしまいがちです。

 

けれど、100点を合格ラインに設定してしまうと、どんなときも100点を目指さなくてはならず、辛いですよね。これが、多くの人のしんどいにつながる原因にもなっているのです。

 

だから、60点合格ラインを目指す。理想まで40点ほどたりなくても問題ありません。それこそ、精神的な余裕につながり、今背負っている負担が軽くなるのです。

3.自分なりのストレス解消法を見つけて実践する

自分の心と体を健康に保つには、ストレスを発散するのも非常に大切です。音楽を聞く、喫茶店でゆっくり過ごす、睡眠をとる、お風呂に浸かる、なんでも構いませんので自分に合った方法を見つけておきましょう。

 

ただ、気持ちがいっぱいいっぱいになっているときほど、自分は何が好きだったのか、何をしたかったのかが思いつかないもの。ストレスの極限状態では、頭がうまく働かないケースが多いのです。

 

対策としては、気分転換になることやちょっとしんどくなったらやりたいことを、普段から手帳などに記しておきましょう。

 

たとえば…

  • 少し高価な入浴剤を入れる
  • いつもは買わないコンビニの高級スイーツを食べる
  • 友達に薦められたアロママッサージに行ってみる
  • 気になっていたアーティストの音楽を聴く

 

といった些細な贅沢でもいい。もちろん身近な発散法だけでなく、「海外旅行に行く」といったなかなかできないストレス発散法を集めておくことでも構いません。

 

特に何も思いつかないという人には、しっかりと睡眠をとることや、近所の公園などで森林浴することなどをおすすめしています。

 

リストアップしておけば、いざストレスがたまったときも、何をしようか考えずに選ぶだけ。普段から少し意識して、必要に応じて取り入れると、ストレスの予防にもつながります。

目指すは「柳のようにしなやかな心」

ストレスに負けないためには、鋼のような強い心が必要だと思いがちですが、実はそうではありません。ストレスをうまく逃して元の形に戻れる、「柳のようなしなやかさ」が大切なのです。

 

ポイントは、ストレスに立ち向かうのではなく、流れに身を任せて時には受け流したり、逃げたりする選択肢を持っておくこと。

 

先ほどお伝えしたストレス解消3ステップも、気分が乗らないときは無理をする必要はありません。どうか自分の心と体を大切に。毎日を楽しく過ごすことがいちばん重要です。

 

PROFILE 井上智介

井上智介先生プロフィール
大阪を中心に精神科医・産業医として活動。産業医としては社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員に、カウンセリング要素を取り入れた対話重視のケアを行う。精神科医としてはうつ病、適応障害などの疾患の治療に加え、自殺に至る心理、災害や家庭、犯罪などのトラウマケアにも対応する。

取材・構成/水谷映美