LGBTQや左手の障がいをオープンにして、SNSで発信をしている三上大進さん。「大ちゃん」の愛称で親しまれ、東京2020パラリンピックでNHKのリポーターに起用されたり、スキンケア研究家として活動したりするなど活躍は多岐にわたります。
楽しそうに毎日を過ごしている三上さんが考える、「自分らしく生きる」こととは ──?
完璧じゃない自分を愛してあげたい
── パラリンピックでリポーターをされていた際、流暢な英語が話題になっていました。大学卒業後、フィンランドに留学されていたんですね。なぜフィンランドに?
三上さん:日本の大学では経営学専攻でした。当時、北欧の文化やインテリアが好きで、フィンランドという国は社会福祉が成り立っているからこそ、ああいう自由なアートやデザインが生まれるのかなと興味があって。どんな社会がそこにあるのか知りたくて、フィンランドの大学で国際経営と社会コミュニケーション学を学びました。
── フィンランドでの生活で、価値観に変化はありましたか?
三上さん:当時は10代で若かったことと、留学生というプレッシャーもあって、最初は学位を取ることで頭がいっぱいでした。
それまでは私、超完璧な人になりたかったんです。いい大学に行って、留学して、英語ペラペラで、TOEICも満点で、首席で卒業して…みたいな。(『ハリー・ポッター』シリーズに登場する)ハーマイオニーに憧れていたの(笑)。
それで気張っていたけれど、うまくいかないことや挫折もたくさんありました。そのたびに、自分がすごく背伸びをしようとしていたことに気がついて…。同時に、そんな自分を受け入れてくれる周りの人たちへの感謝が芽生えました。フィンランドに住む人たちと触れ合うなかで、「完璧じゃない私がカンペキ」と思えるようになったんです。
── 東京での生活と、大きく違ったことは?
三上さん:春の終わりから夏にかけては夜中まで太陽が沈まない季節なので、寝ようと思っても外はさんさんと明るい。静寂のなかに光だけがあって…。そんな自然環境だったので、就寝前に1時間、自分を見つめ直す時間ができました。
日本と昼夜逆なので、1日が終わる頃には誰からも連絡はありません。音もなく眩しい、まどろむ前の自分だけの1時間。私はこれを “フィンランドの25時間目”と思って、すごく大切にしていました。東京にいたときは流行り始めのSNS、YouTube、大学のチャットなど情報や誰かとの繋がりを1日中考えなきゃいけなかったから。
自分はどういうことがしたくて、どういう存在になりたくて、何を求めているんだろう。そんなことを考える、とても不思議な時間でした。
── 素敵な時間ですね。今まで気づかない自分に気づく感じがありましたか?
三上さん:私って意外と傷つきやすいなとか、いままで笑い飛ばしてやり過ごしていたことが、実は頑張って笑うことでもなかったのかなとか。そして、会えない友達や家族を思い出して、私は人が好きなんだなとか。
おかげで自分のことをもっと認めてあげられるようになったし、“自分らしさ”がどういうものか、少しわかってきたような気がして。そして、それは他の誰が決めるものでもなく、自分で定義して自分の色にしていいってことに気づけたような気がします。
自分の弱点が、個性を生み出してくれた
── 帰国後、化粧品関係の会社に就職されたんですね。お肌がきれいで、びっくりしました。なぜこの道に?
三上さん:ありがとうございます。きっかけは、自分の障がいが大きいです。昔は左手の指の本数が足りないことを人より劣っていると思っていて、容姿に関しては人一倍センシティブなところがありました。左手の形や、見た目をカバーするために、他の部分をどうやって美しく見せるか、ということを考えていたんですね。
悲しく聞こえないといいんだけど、そのおかげで美容が大好きになって。今後、一生美容とは向き合っていくつもりで、いまは「美容が好きなこと」は私の大切な個性になっています。あ、これは障がい=個性という意味じゃないですよ。障がいがくれたものが個性になっているという意味。人生のなかで、左手には大きな財産を与えてもらえました。
── 好きなことを仕事につなげられることは、幸せなことですね。その夢を叶える力は、どこから来ていると思いますか。
三上さん:月並みですけど、自分が好きなものに真摯で正直でいたいと、いつも強く願っています。周りの期待とか、みんながこうしてるから合わせようとか、自分の選択から目を遠ざける理由はいっぱいあると思うけど、自分だけには正直でいようと思っています。
中学生のころからスキンケアをすることが好きでしたし、美容の世界だったら自分のコンプレックスをもっと良いものに変えられる可能性を感じていたので。美って誰にでも平等だから、その概念に携われることは意義深いなと思って、この道を選びました。
── その後、パラリンピックのリポーターに起用されたんですね。この体験で得たものはありますか?
三上さん:パラアスリートたちは、自分の障がいと向き合い続け、同時に残された機能を最大限に活かして競技に立ち向かいます。置かれた環境はまったく違いますが、同じように障がいと対峙しながら生きてきた自分なら、いままで伝わりきらなかったパラアスリートたちの個性や魅力を発見できるのではないかと思いました。
自分の障がいが、誰かの何かの役に立てるかもしれない…。まさか人生でそんな日が来るなんて思ってもいなくて。このチャンスを逃したら一生このことと向き合えないと思ったんですよね。
会社員を辞めてリポーターになったので、キャリアや収入のことなど不安もありました。でも、選択した道が結果的に間違っていても、そこで失敗したり転んだりする経験ってそれも含めて財産になる。平坦な道では見えなかった景色が見られるかもしれないと思ったら、もう心は走り出していました。
── さまざまな経験を積み重ねてきた過去を振り返って、いま思うこととは?
三上さん:「らしく」という3文字は、「自分」「私」以外の言葉につけるべきじゃないと思っていて。「らしさ」を決めるのは自分自身であって、その人の性別や属性がそれを決めつけてはいけないと思うからです。
私自身、学生時代に「男らしくしなよ」と言われたことがあって、そのたびにその言葉に対して、そして何も言い返せない自分に絶望していました。
いまでも表現には悩むことがあるくらいなので、10代の多感なときなんてうまく言葉にできるわけもなく。そもそも“自分らしさ”がわからなくて、アハハって笑い流すことしかできなかった。もし当時の自分に会えることができたら、「完璧じゃない私がカンペキよ」って、教えてあげたいな。
<前編>三上大進「LGBTQや障がいを『スルー』しない。大人も一緒に考える時代」
PROFILE 三上大進
1990年東京生まれ。立教大学卒業後、フィンランド留学。日本ロレアル、ロクシタンジャポン勤務を経て、2018年NHKのリポーターに就任。現在はスキンケア研究家として化粧品のプロデュースなどを行う。2022年YouTube「大ちゃんチャンネル」を開設。インスタグラム(@daaai_chan)では自分の立場からLGBTQの話題を積極的に発信。
取材・文/大野麻里 撮影/北原千恵美