歯に衣着せない物言いと、チャーミングなキャラクターでSNSを中心に人気を集めている三上大進さん。「大ちゃん」の愛称で親しまれ、東京2020パラリンピックではNHKのリポーターとして活躍。現在はスキンケア研究家として活躍しています。
子どもの頃から感じていた自分の性の違和感について、自身の体験を聞きました。
「男の子は青、女の子はピンク」の分類がイヤだった
── 子どもの頃の夢は「セーラームーン」だったそうですね。
三上さん:セーラームーンになることは、いまも変わらず夢のままです!(笑)。私が1990年生まれで、セーラームーンの連載開始が1992年なので、セーラームーンと共に大きくなりました。両親もとくに不思議がらず、変身グッズを買ってくれて。「この子は幼すぎて自分の性別をよくわかっていないのだろう」と思っていたそうです。
でも、いまでも忘れられない衝撃的なできごとがあって…。幼稚園のときに引っ越しをしたんですけど、セーラームーンの変身スティックがなくなってしまい、血眼で探し回っても見つからなくて。後から知ったのですが、「このままセーラームーンになると言い続けられても応援できないし、新居におもちゃを増やしたくない」という母の一存で処分されていました(笑)。
30年近く前だから「男子たるもの、女子たるもの」という考え方がまだ根強い時代。それでも比較的フレキシブルだった母に感謝はありますが、スティックの恨みは引きずって…。30歳の誕生日にセーラームーンのトレーナーを買ってもらったことで、無事に和解しました。
── 幼少期に感じた違和感はありましたか?
三上さん:友達は女の子が多かったので、「お誕生日会にどの男の子を呼びたい?」と聞かれると申し訳ない気持ちになりました。子どもながらに大人の心配を察して、それほど親しくない男の子の名前を挙げて、誕生日会に来てもらった覚えがあります(りゅうくん、あのときは来てくれてありがとう)。
三上さん:幼稚園や小学校で男女を色で分けることがあるでしょう?男の子は青で、女の子はピンク。幼心に性別で色を決められるのがすごく不快で、猛抗議した記憶はあるんですよね。「あなたはこれだよ」と、無理やり用意された箱に入れられているような気がして。
でも空気を読まなきゃいけない雰囲気も感じとっていたから、自分のなかの自我と、周囲の大人たちの視線の狭間で揺れていた。そんな、少し綱渡り気味な幼少期を過ごしていました。小さかったのに、なかなか器用よね。
── 思春期のころはどうでしたか?
三上さん:自分を「男」「女」のどちらで考えたらいいのか分からず、正直あまり考えたくもなかったんです。自分は何者なんだろう? なんで男女の枠にくくられるのがこんなにイヤなんだろう?って。
いまでこそ“どちらでもない自分” を自分らしいと感じますが、当時は家族や先生、友達、他の人からの言葉をセンシティブに受け止めてしまうこともあって。コンプレックスのような、この性に産んでくれた親への申し訳なさにも似たような感情を持っていました。
親にカミングアウトした日は…
── SNSを拝見すると、家族仲が良さそうですね。親にカミングアウトしたのはいつですか?
三上さん:2018年に平昌パラリンピックのNHKのリポーターに起用され、テレビに出る仕事を始めたときです。番組で私のセクシュアリティについて発言するかもしれないから、親にもちゃんと伝えておこうと思って。
といっても、親の前でも私はずっとこんな感じだったし、ふだんから「早くお嫁に行きたい」とか「駐在妻になるのが目標」とかいつも真顔で言っていたので、隠しているつもりもなくて。“改めてのご報告”でした。
── どうやって伝えたんですか?
三上さん:「知っていると思うけど、私は男や女にくくられるのがとにかくイヤで、男性が好きで…」と母にLINEで。そうしたら「びっくりして言葉が出ません。そうだったの? ところで年末年始の予定だけど…」って、混乱しつつも内容に関係のない長文の返信がきて。「びっくりして言葉が出ないとは…?」と、こっちが驚きました。
三上さん:怒られるでもなく悲しまれるでもなく、とにかく驚いたみたいです。私も家族にハッキリと言葉で伝えるのはどこか避けていたのかもしれないです。やっぱり傷つけたくなかったし、見栄みたいなのもあったかもしれませんね。
LGBTQも障がいも「かわいそう」じゃない
── 三上さんは、生まれつき左手の指が2本の「左上肢機能障がい」にも向き合っています。LGBTQや障がいのある方に接したとき、子どもが悪気なく「なんで?」と聞いてきたら、親はどうすればいいでしょう?
三上さん:私がいままで経験したなかで多かった親御さんの対応は2つあって、1つは「かわいそうな人だからそんなこと言っちゃダメ」というもの。親御さんも当事者ではないので、そう声をかけるのも仕方ないと思います。でも実は、これは大きな決めつけの上に成り立つ言葉。私をはじめ、マイノリティの人々がかわいそうかどうかを決めるのは周囲の人ではなく、あくまでも当事者自身だからです。
実際に小さいお子さんが私の左手を見て「変なの!」と無邪気に言うことはよくあります。そして親御さんの悪気ない「かわいそうだからやめなさい」も、しばしば。
見た目やセクシュアリティが違っていても、その人自身がハッピーに生きていたら、それはまったくかわいそうなことではないですよね。私たち大人はそれを見誤らずに、子どもにシンプルに託してみたらいいと思います。
「どうして変だと思うの?」…そう問いかけてみることで、子どもからの回答に学ぶこと、反省すること、考えさせられること、さまざまあると思います。
── そのとおりだと思います。よくある親の対応の“2つ目”というのは?
三上さん:もう1つは「いいの、見ないの」という声がけ。これも悪意のない言葉だと思いますが、親が目を背けた責任は、いつか子ども自身が負わなきゃいけない瞬間がきっと来ます。
子どもにどう伝えたらいいか迷ったら、伝える前にまずは自分の知識や理解が誤った方向を見ていないか、確認してみてほしいと願います。子どもがマイノリティとの出会いを、疑問や不思議に感じることは当たり前。そのときに一緒に目を背けないだけの準備は、していてきっと損はないはずですから。
人の個性は「グラデーションのようなもの」
── SNSでは自身のことをオープンに発信されていますね。悩みや相談も届きますか?
三上さん:当事者の子や、子育て中のお母さんからもたくさんいただきます。「子どもがLGBTQかもしれない」とか「大ちゃんはどうやってママに打ち明けましたか?」とか。数が多すぎて全部には返せていないんですけど。
── そういうときは、どんな言葉をかけていますか?
三上さん:誰一人として見た目が同じ人がいないように、障害も性もグラデーションだと伝えています。
外見でわからなくても、性格や心にもさまざまな色がありますよね。それまで自分が想像もしていなかった誰かの一面に出会ったときも、「これが見えていなかったこの人の色なのね」と思えたら、余程のことじゃない限り、ほとんどのことは許せちゃうんです。ずいぶんと濁った色ね、と思うことはありますけど(笑)。
そのためには何より、まずは自分を理解することも大切。完璧じゃない自分のことも「これでいいよね」と認めてあげることが、相手への思いやりや理解、ときに「許し」にもつながると思っています。
三上さん:少しずつだけど、いまはユニバーサルトイレやジェンダーレス制服を導入する学校も増えていますよね。大人が考えているより、子どもたちはジェンダーへの意識に対して、良い意味ですごくフリーだと感じています。
子どもたちが見せる機微や個性の色彩を、どうか否定せず、一番の味方として受け入れてあげてほしいと願っています。親が子どもに対して寛容になったぶんだけ、その子は誰かに対して寛容になれるはずですから。
<後編>三上大進「男らしくしなよ」に悩んだ10代 「自分らしさ」に気づけた理由
PROFILE 三上大進
1990年東京生まれ。立教大学卒業後、フィンランド留学。日本ロレアル、ロクシタンジャポン勤務を経て、2018年NHKのリポーターに就任。現在はスキンケア研究家として化粧品のプロデュースなどを行う。2022年YouTube「大ちゃんチャンネル」を開設。インスタグラム(@daaai_chan)では自分の立場からLGBTQの話題を積極的に発信。
取材・文/大野麻里 撮影/北原千恵美