有給休暇があっても病気のとき以外はなかなか休みにくい…などと感じていませんか?一方で、有休取得率がなかなか上がらないとお悩みの人事関係者の方もいるのではないでしょうか。

 

鉄道事業をはじめ、不動産事業や生活サービス事業など暮らしに密着した事業を展開する東急株式会社では、部署ごとに計画的に有休を取得できる仕組み「ポジティブワン」を導入しています。導入に至った経緯や効果について、ダイバーシティ推進担当の牧野さんと、労政担当の今村さんにお話を伺いました。

(左)人財戦略室 労務企画G 労政担当 今村葵さん、(右)人財戦略室 労務企画G ダイバーシティ推進担当 課長補佐 牧野彩さん(1児の母として在宅勤務やフレックスタイム制をフル活用し、育児と仕事を両立させてイキイキと働いている)

有休の取得を促進するのは「風土」と「マインド」

──世の中的にも有休取得を促進する風潮が高まってきているように感じますが、御社でも「ポジティブワン」という制度を導入し、有休取得を推進していると聞きました。まずはどのような制度なのか教えてください。

 

今村さん:

「ポジティブワン」とは、部署別計画年休のことです。毎月どこかの金曜日1日を部署ごとに「ポジティブワン」として設定し、社内に公開します。

 

さらに、すべての基幹職(管理職)に、部署ごとのポジティブワンのなかから年に5日間、自身の休暇を計画して予定表に入力していただきます。

 

──「ポジティブワン」を導入された背景について教えてください。

 

今村さん:

ポジティブワン導入の背景としては、法改正によって年次有給休暇のうち年5日の取得が義務化されたことがあります。

 

ポジティブワンの目的は2つありまして、1つは休暇取得の風土醸成です。基幹職がしっかりと休暇を取ることで、一般社員も休暇計画をたてやすくなると考えました。

 

もう1つは休暇取得のマインド醸成です。上長やチームに事前に自身の休暇予定日を周知することで、休暇を前提とした業務スケジュールをたてることができ、より休暇がとりやすくなると考えました。

 

この2本立てで休暇取得を推進していこうという仕組みになっています。

 

風土醸成とマインド醸成を目的にしたのは、制度整備のみならず、制度を実践・選択できる風土・マインドが重要であると考えているためです。

 

「制度」「風土」「マインド」という3つのサイクルを短期間で回し、推進していくことでより定着させようという狙いになっています。

 

牧野さん:

「ポジティブワン」として設定した日は、あくまで目安なので、必ずしもそこで休まなければならないというものではなくて、取得しやすい雰囲気作りのための仕掛けとしてやっているものになります。

 

──御社の2020年度の有休取得率は84.0とのことですが、これは全産業(56.3%)と比較してもかなり高い印象です。

 

牧野さん:

そうですね。当社ではもともと半日休暇など働き方改革の先駆け的なところは2000年ころから取り組んできていたのですが、私が入社した2009年と比べても、年々休みを取りやすい雰囲気ができている印象です。

 

今村さん:

今後も休暇を取得しやすい雰囲気作りに向けて、制度整備・風土醸成・マインド醸成を推進していきたいと考えています。

働き方を自ら選べる時代に

──御社では早いうちから働き方改革に着手されているそうですが、現在の取り組みについて教えてください。

 

今村さん:

当社では、2000年代前半から従業員のニーズと職場状況に応じてさまざまな制度等を整備してきました。

 

特に、半日休暇や時間休暇、スライド勤務など、働く時間の選択肢の拡充は早い段階から着手しており、現在は当たり前のものとして風土醸成されています。

 

 

2018年からは「スマートチョイス」を導入しました。これは、年間を通じて、自身の職務や環境に合わせた働き方をみずから選択する取り組みです。

 

弊社では場所・時間・服装・リフレッシュについてこれまでさまざまな制度を整えてきたのですが、それをチームや個人の状況に合わせて自由に選ぶことができます。

 

従来の働き方に捉われず、創造性発揮や業務の効率化を考え、一人ひとりが主体的に働き方を選択できるようにという目的で推進しています。

 

 

── すでにさまざまな制度や働き方が整っているように思いますが、直近で取り組まれたことはありますか?

 

今村さん:

直近では、コロナ禍におけるテレワーク推進などの追い風もあり、「場所」と「時間」の選択肢を拡充させました。

 

具体的には、場所に捉われない働き方としてテレワーク制度、時間に捉われない働き方としてフレックスタイム制を導入しました。

 

テレワークに関しては、自宅やサテライトオフィス以外の場所であっても、適正な執務環境、セキュリティ環境を確保し、通常と同等の業務効率・成果が期待できると上長に認められた場所であれば可能としています。

 

たとえば実家や旅先のホテルなども可能なので、配偶者の里帰り出産にあわせて、里帰り先で勤務するというケースもあります。

 

出社日数についても特に決まりを設けずに、業務の内容や、個人・チームの状況によってテレワークと出社を柔軟に選択することができます。

 

現在はテレワークだけを強く推進するというよりも、個人もチームも最大のパフォーマンスができるように、出社とテレワークをうまく組み合わせた「ベストハイブリッド」を目指そうという動きになっています。

 

フレックスタイム制は、コアタイムなしにすることで日々の勤務時間の柔軟性を最大限高めて、さまざまなワークライフスタイルに対応できるようにしています。

 

── 御社はこれまでさまざまな取り組みをされてきていますが、とても順調に整えられてきた印象を受けました。

 

今村さん:

実際は苦労しながら進めていることもあります。

 

たとえば、現在、人事からの働きかけで部署ごとに労働時間の適正化等に向けた取り組みの検討と振り返りをしているのですが、現場からは、部署ごとの業務改善は既に自律的に考えて実行できるフェーズに入っているとか、むしろ仕事が増えて負担になるという声も聞かれます。

 

どこまで人事が介入すべきか、従業員のための取り組みが逆に負担になっていないかなど、現在悩みながら取り組んでいるところです。

 

牧野さん:

小さいことですが、会議をする準備段階で、複数の上長に順番に書面を回して根回しすることをやめたり、ペーパーレス化の強化を進めるなど、各部署の業務効率化や、生産性が上がるような取り組みを挙げてもらっています。

 

これによって、長時間労働の削減や、働きやすい環境の整備につながると考え、労政担当を中心に進めています。

 

やはり事業部ならではの忙しさもあるので、改善策を考えること自体がプラスアルファの業務として捉えられてしまっているところが悩みですが、長期目線で考えたらやるべきことなので、制度を作るだけでなく、取り組むメリットを伝えながら粘り強く説明していくことが大事なのかなと思っています。

 

── 最後に、今後、働きやすさを考えるうえで必要なことはなんだと思われますか?

 

牧野さん:

当社は「働きやすさ」というところはかなり整備できてきたところだと思っていますので、今後は「働きがい」の推進にも注力していきたいと思っています。

 

やはりこの会社にいる意味があると思ってもらえないと辛いし、人生1度きりしかない中でもったいないとも思いますので、この会社で働く誇りを持ってもらえるような働きかけをしていきたいです。

 

ただ、働きがいというのは人それぞれなので、働きやすさを考える以上に難しいとも感じています。

 

何をもってそこを伸ばせるかという点は考えているところなのですが、あまり既存の制度などにとらわれずに柔軟に考えていこうと話し合っているところです。

 

人によっては仕事よりもプライベートに比重を置きたい時期などもあると思いますので、そこも尊重しながら、さまざまな考え方を受け入れられるような雰囲気を地道に作っていきたいですね。

 

 

計画的に有休を取得できる仕組みを作り、有休取得を推進する「ポジティブワン」は、法対応だけでなく、みんなが休暇をとりやすい雰囲気作りにも寄与しているようです。

 

またそれぞれの事情に合わせて働き方を選択できる「スマートチョイス」も参考になることが多いのではないでしょうか。

取材・文/田川志乃 写真提供/東急株式会社