オリエンタルランドは、5年前に北海道弟子屈町で自社農園を設立し、オリエンタルランドグループ内で提供するイチゴなどの栽培を行っています。なぜ、北海道で農園を…?気になるその背景を取材しました。

温泉の活用で周年栽培が可能になる場所だった

オリエンタルランドによれば、北海道弟子屈町の自社農園は敷地面積がおよそ3haで、最大の年間生産量は最大でおよそ50t

 

自社農園で作られたイチゴは、オリエンタルランドグループ内で提供されるフレッシュフルーツやデザートのつけ合わせなどとして使用しているほか、メニューの原材料の一部にも使用されているといいます。

 

自社農園を設立した理由についてオリエンタルランドの広報部は、こう話します。

 

「高品質なものを季節や天候にかかわらず安定的に生産できることに加え、完熟状態のものをパークへ供給できることなど品質の向上を目的としています。そして食を通じたゲストの体験価値向上、満足度の向上を目指しております」

 

自社農園での栽培をするにあたって弟子屈町を選んだ理由には、気候や温泉などの資源を栽培に活かせる環境があるからだそうです。

 

「弟子屈町は、夏場は夜も15℃ほどでの冷涼な気候で、かつ昼夜の寒暖の差があることから、イチゴ栽培には最適な場所であると考えております。また、豊富な温泉に恵まれる地域であり、温泉を活用した暖房を行うことで、 エネルギーコストを抑制した冬場の温室栽培も可能になることから、周年栽培が可能になる場所だと判断しました」

イチゴ栽培で地元も活性化「午前中で完売するケーキも」

オリエンタルランドの自社農園で栽培したイチゴを使用している弟子屈町のケーキ店では、1年を通して入荷できるイチゴはとても魅力的だといいます。

 

「小さい町なので、ここでイチゴを育てるという話はすぐに耳に入りまして、まだ収穫が始まる前からぜひ使わせていただきたいと話していました。イチゴはケーキなどに年中使うものですので、一年間通して使えるのはありがたいです」(森のホール代表 武山まき子さん)

 

季節のフルーツと地元や北海道産の材料にこだわったケーキ作りを行っている「森のホール」では、ショートケーキやタルトなどにオリエンタルランドの自社農園で栽培されたイチゴを使用しています。地元の方に人気で、午前中でケーキが売切れてしまう日もあるそうです。

森のホールInstagramより(morinohall)

 

「酸味のバランスが良くケーキに合うイチゴだと思います。冬になるにつれて糖度が増してきます。地元のものを使いたいという思いがあるお店の方は多いと思いますが、なかなか北海道ではイチゴが採れるところがなかったので、東北地方など早く収穫が始まるところのものを使っていました。

 

森のホールInstagramより(morinohall)

 

最初のころは、地元でイチゴが取れるんだ、珍しい!とおっしゃっているお客さまもいました。近くで栽培しているので、新鮮な状態で収穫した次の日にはお店で使うことが出来るのが魅力です」(森のホール代表 武山まき子さん)

町内の子どもたちが名付けた「摩周ルビー」

オリエンタルランドが自社農園でスタートさせたイチゴ栽培をきっかけに、弟子屈町では2年前から町内で栽培されたイチゴとその加工品をブランド化させる動きが始まりました。

 

町内の小中学生に募集をかけて「摩周ルビー」と名づけたブランドイチゴは、地元の道の駅などで販売されているほか、かりんとうや生キャラメルなどのお菓子やアイスクリームに加工されたり、フレッシュなものをそのまま凍らせて冷凍イチゴとして販売されたりしています。

 

ブランド認定には、町内で栽培され1年を通して出荷ができることや、再生可能エネルギーによって発電された電力や地熱を使った栽培を行うことなどの条件を設けたといいます。

 

これまでのところ、オリエンタルランドの自社農園以外に認定を受けている生産者はいないとのことですが、こちらで生産されたイチゴを使った加工品の販売などで認定を受けている企業は10社以上あるといいます。

 

「弟子屈町には川湯温泉、摩周温泉をはじめとして屈斜路湖周辺地域にも数多くの温泉地があります。昭和52年に建てられた役場庁舎をはじめ、警察署や病院なども温泉の熱を利用した暖房を使っていまして、今言われるゼロカーボンなどに先進的に取り組んでいます。

 

オリエンタルランドさんは、地域と一緒に農業に取り組まれていると伺っていましたので、町としてはぜひ誘致したいと思いました。だんだん認知がされてきたこともあり、摩周ルビーを使いたいという会社からの相談を結構受けます」(弟子屈町 観光商工課 商工振興課係 浜崎浩一さん)

 

弟子屈町内の温泉地(弟子屈町 提供)

 

今は地元の方にも人気のイチゴですが、栽培が始まる5年前は心配の声も聞かれたといいます。

 

「こんな寒いところで、本当にイチゴが作れるのか?という地元の方からの声もありました。夏場はメロンを栽培していますが、他の果物はもちろん、イチゴは特に本州で作られているものという認識でした。でも実際に動き出して、本当においしいイチゴができたので今はみなさん歓迎していますよ」(弟子屈町 観光商工課 商工振興課係 浜崎浩一さん)

 

弟子屈町では、「摩周ルビー」をきっかけとして町の魅力を多くの人に知ってほしいと考えています。

 

「イチゴをきっかけに弟子屈町をアピールしていきたいです。食べた人が弟子屈町に興味を持ってくださって、ぜひ町を訪れてほしいと思います」(弟子屈町 観光商工課 商工振興課係 浜崎浩一さん)

取材・文/内橋明日香