なんだか洗濯物の汚れが落ちていないみたい…そんなとき、誰もが洗濯洗剤の見直しを考えるのではないでしょうか。しかし、「その視点こそが落とし穴」と指摘するのは、洗濯王子の愛称で人気の洗濯家中村祐一さん。洗濯トラブルの沼に陥らないための、正しい洗濯洗剤選びと使い方について教えてもらいました。

目次

洗濯洗剤「どれがよい」ではなく「どう使うか」が大切

洗濯洗剤って、料理でたとえるならば、カレー粉のようなもの。

 

カレー粉には、銘柄それぞれに味の特性や違いがあると思います。でも、上手にカレーをつくるために大切なことは、「どのカレー粉にするか?」よりも、丁寧に下ごしらえをするとかきちんと煮込むとか、そういうところではないでしょうか。

 

ようは、出来上がるまでの工程によって仕上がりに差が出るのだと思っています。

 

洗濯も同じで、どれを使うかというより、どう使うかが大事です。

 

皆さん、洗濯トラブルがあると、まずは洗剤を変えようとする方が多いですが、変えるべきポイントはそこじゃない。使い方なんです。

 

まずは、今持っている材料の「使い方」を見直す。そうすると、今ある洗剤でも十分きれいに洗うことができます。

洗剤の主成分「界面活性剤」は「逆汚染」を防いでくれる

洗剤は「汚れを落とすもの」というイメージがあると思いますが、洗剤は、主成分である「界面活性剤」が服についた汚れを「包み込む」働きがとても重要なポイントです。

 

界面活性剤は言葉だけ聞くと、普段の生活では馴染みがないし、何だか怖いもの・よくないもののように感じる方もいるのではないでしょうか。

 

しかし、現在、洗濯に使われている代表的な界面活性剤は、体への悪影響や環境に大きな負荷をかけるなどの心配はほぼないといわれています。

 

よくいらっしゃるのが界面活性剤を避けて、重曹やオキシクリーンなどで洗う方。でも、これらには、汚れを「落とす働き」はあっても、汚れを「包み込む働き」がありません。

 

界面活性剤を使わない洗濯は、落としたはずの汚れが、再び繊維に戻ってしまう「逆汚染」が起き、洗濯を繰り返すことで衣類が黒ずむという問題が生じます。

 

界面活性剤には、汚れを落とすことと同時に、「逆汚染」を防ぐ働きがあります。現時点では効率よく洗濯するのに、界面活性剤に代わるものはありません。

洗濯に使う洗剤は大きく分けると3つ

洗濯に使う洗剤には、種類や性質によって、それぞれによさや特徴があります。

洗濯王子・中村佑一さんのアトリエ
中村さんの洗濯アトリエではさまざまな種類の洗剤が並ぶ(提供:中村さん)

皆さんに「洗濯」をお伝えする仕事柄、「どの洗剤がいいんですか?」とよく質問されますが、正直にお答えすると、同じ属性(種類)のものであれば、どれもそんなに変わりません。

 

それよりも大事なことは、洗う衣類や用途、必要に応じて、適切なものを使う。そのためにも、まずはそれぞれの特徴や役割を知ることが大切です。

汚れを落とすために欠かせない「洗濯洗剤」

毎日の洗濯に必要な洗剤には、液体洗剤と粉末洗剤があります。

 

液体洗剤は、使い勝手がよく、使っている人も多いでしょう。ジェルボールタイプも特性としては液体洗剤と同じです。

 

液体洗剤よりもアルカリ度が高く、洗浄力が強いのが粉末洗剤です。汚れがひどいとき、白いものをより白く洗い上げたいときなどには、お湯で使うとさらによいでしょう。

 

あとは、お洒落着用の中性洗剤ですね。シルクやウールなどのタンパク質由来の繊維をはじめ、デリケートな衣類を洗う際に使うと安心です。

洗剤で落ちない色素にアプローチする「漂白剤」

洗濯洗剤できちんと洗うことができていれば、ほとんどの汚れは落ちますが、それでも落ちないガンコな色素には漂白剤の出番。

 

洗濯洗剤は、衣類の汚れを包み込んで水に移すことで汚れを落としますが、漂白剤は色素を分解して消してしまいます。色素を壊すイメージというとわかりやすいかもしれません。

 

なので、洗剤と漂白剤の働きは全く別物です。漂白剤は、衣類を変色させたり生地を傷めてしまったりトラブルにつながることもあるので、やみくもに使うことはやめましょう。

 

いきなり漂白剤を衣類に塗ったりする人も多いのですが、それでは効果が出にくく、トラブルも起こしやすくなります。

 

まずは洗剤で落とせる汚れはしっかり落とす、それでも残った色素に漂白剤を使うようにする。こうするとリスクが少なく、効果が上がるようになります。

繊維に残し、やわらかな風合いに整える「柔軟剤」

柔軟剤は、衣類をふんわりやわらかに仕上げる働きがあります。

 

投入のタイミングは最後のすすぎ。繊維の表面に残すことで風合いをよくします。静電気を防ぎ、花粉やホコリなどの汚れをつきにくくする働きもあります。

 

洗濯の際、毎回使う方も多いのですが、洗剤が必ず必要なのに対して、柔軟剤は必ず使わないといけないものではありません。

 

最近では、よい香りをつけることが目的のようになってしまい、「香害」という新たな深刻な問題も出てきています。

 

そもそもしっかり汚れが落ちていれば、イヤな臭いも出てきませんし、繊維が素の状態に戻って着心地だってよくなるんです。

洗濯を重ねて、衣類のごわつきが気になってきたときや、静電気が気になるなどのタイミングで使うといいでしょう。

 

ただし、柔軟剤を使うと水分を吸いにくくなるので、タオルや汗を吸わせたい肌着などには向きません。

役割や特性に合わせた洗剤選びで、自分好みの仕上がりに

洗濯洗剤・漂白剤・柔軟剤、それぞれの役割や特性を知っていれば、衣類の汚れ具合や素材などそのときの状況に応じて、洗剤を使い分けることができます。

 

例えば、ニットをふんわり仕上げたいときに柔軟剤を入れたり、ブラウスについたワインのシミが洗濯で残った時に漂白剤を使ったり。必要なタイミングでオプションとして使うことができれば洗濯上手。

 

ちなみに、さまざまな種類の服を一緒に洗う際には、汚れ具合に合わせるのではなく、いちばん弱い素材に合わせましょう。

 

ただ汚れを落とせばいいわけではなく、長く着るための持続性・洋服を守ることも大切ですよね。

 

衣類の量と水量のバランスをしっかりおさえたうえで、洗剤をきちんと使い、力をうまく発揮させてあげましょう。

 

PROFILE 中村祐一

洗濯家・愛称「洗濯王子」。1984年、長野県伊那市生まれ。洗濯から考える「よりよい暮らし」の提案をはじめ、「衣」文化の革新にも積極的に取り組む。各種メディアにも多数出演。

取材・構成/大熊 智子