衣類と洗剤を入れたら、スイッチオン。あとは洗濯機の自動コースに任せておけば大丈夫!そう思っていませんか?今回は「洗濯」という側面から、よりよい暮らし方・よりよい社会への変革を目指す・洗濯王子の愛称で人気の洗濯家中村祐一さんに、家庭洗濯の基本を教えてもらいました。

目次

洗濯トラブル…ほとんどが「きちんと洗えていない」!?

「部屋干しをすると、イヤな臭いがする」「白いシャツを着ようとしたら、黄ばみができていた」

 

このような洗濯物のトラブルには、「きちんと洗えていない」という原因が潜んでいます。

 

「臭い」や「黄ばみ」など、日常の洗濯での気になるトラブルの原因のほとんどは、衣類に残ってしまった汚れ。

 

トラブル解消のためには、しっかりと汚れを落とすこと。この基本が最も重要です。洗濯の基本を知り、まずはきちんと洗えるようになることからスタートしましょう。

なんとなくやっている…洗濯の盲点

洗濯機の機能・コースを選んで、表示されている通りに洗剤を入れているのに、なぜ洗えていないのでしょうか。

 

洗濯機メーカーも洗剤メーカーもそれぞれの機能についてはスペシャリストですが、実は、洗濯機だけよくても、洗剤だけよくても「本質的な洗濯そのもの=衣類をきちんと洗う」ということはできません。

 

私たちは「洗濯」のやり方そのものを見直し、正しく使いこなすことが求められます。

 

そもそも、洗濯とは、衣類の汚れを洗剤の力を借りて水に移動させて流すこと。

自宅の洗濯アトリエで洗濯をする洗濯王子・中村祐一さん
自宅の洗濯アトリエで洗濯をする中村さん(提供:中村さん)

しかしながら、ドラム式をはじめ、今の洗濯機の多くは節水タイプが多く、水の設定量が少なくなっています。僕から見ると、下げてはいけないところまで水量を下げてしまっているように思います。

 

例えば、お米を炊くときに、お米の量に応じた水量をセットしたのにしっかり炊けていない炊飯器って嫌ですよね?

 

でも、洗濯機はそういうことが起こっている。表示通りにやってもキレイに洗えないのが現状なんです。本当に水量が足りていないことが、ニオイや汚れ落ちなど様々なトラブルのもとになっています。

料理と違って教わる機会が圧倒的に少ない

もうひとつの原因は、学校でも家庭でもあまり教わらないことがあります。同じ家事のなかでも「料理」は、料理研究家といった専門家も沢山いるし、情報も多い。

 

料理には野菜の切り方とかダシのとり方など…世の中に共有されている「料理の基本」というのが多少なりともあると思うのですが、一方で、残念ながら「洗濯」にはそういうものがありません。

 

衣食住の「衣」としてみたときにも「どう着るか?」というファッションやコーディネートについては、たくさんの情報がありますよね。

 

しかしながら、それを脱いで洗ってもう1回着られるようにケアするところまでのところは、なかなか正しい知識がありません。

 

それなのに、何か洗濯物のトラブルがあれば、多くの人が、「もしかしたら、洗濯洗剤のせいかな?」と、洗剤を買いたしたり、買い替えたり…。

 

「何かやらないと!」と思って複雑になってしまう。料理でいうと、基本がないまま作って、やみくもに調味料をいれるようなもの。それでは洗濯トラブルを、根本から解決することはできないんです。

洗濯は衣類量・水量・洗剤量の「3つの量」が重要

洗濯の原理・原則に基づいて家庭で洗濯を行う場合、基本は何と言っても、衣類を傷めずにちゃんと汚れを落としきることです。

 

繊維の表面やなかにある「汚れ」をスムーズに取り出し、水へと移動させるために、縦型洗濯機の場合は、衣服が水面の下にあるように水量を調整するのがポイントです。

洗濯物の詰め込みすぎには注意が必要(提供:中村さん)

ドラム式洗濯機は、水量を細かく調整することができないので、衣類の量で調整しなければいけません。

 

皆さん1回で洗濯を終わらせようと、詰め込みがちですが、洗濯槽のなかに入る衣類の量と、きちんと洗うことができる量は違います。

 

目安としては、衣類が乾いた状態でドラムの半分くらいまでの量にしましょう。

 

叩き効果で汚れを押し出すので、ドラムのなかで衣類がよく動く状態を作ってあげると汚れが落ちやすくなります。

洗濯は「洗い」と「すすぎ」の両輪で成り立っている

もうひとつ、忘れてはいけないのが「すすぎ」です。「洗濯」とは文字の通り、「洗い」と「すすぎ」で成り立っています。

 

節水・時短の観点から見ると「すすぎ1回タイプ」の洗剤が主流ですが、実は、しっかり「すすぐ」という視点で見ると、1回では十分とは言えません。

 

きれいに洗うためには、「最低2回できれば3回」すすぎが必要です。すすぎには、洗いの工程で洗剤で包み込んだ汚れを、水で十分に薄めていく目的があるからです。

 

自分で設定した水量ですすぎ2回から3回で洗うのが基本だとしたら、すすぎ1回のスピードコースは手軽なレトルト食品みたいなもの。

 

毎日の食事だって「今日はどうしても忙しいからレトルトにしよう」というときがありますよね。でも、レトルト食品がメインになるということはないと思います。

 

洗濯も苦痛になってしまったら、持続できません。本当にどうしても忙しいときにはすすぎ1回で済ませる日があってもいいと思います。

 

ですが、すすぎ1回の洗濯は、汚れが残ったままの不完全な洗濯だということを覚えておいてほしいです。

基本をマスターして、快適な洗濯ライフを送ろう

私たちが毎日を快適に健やかに暮らしていくために、欠かすことのできない洗濯。だからこそ、まずは、正しい洗濯の基本をマスターしましょう。

 

そのベースさえ作ってしまえば、何かトラブルが起きても、コントロールができるようになるし、手間も減る。

 

基本を理解して、しっかり洗えるようになれば、洗濯は誰にとっても快適なものになるはずです。

 

PROFILE 中村祐一

洗濯家・愛称「洗濯王子」。1984年、長野県伊那市生まれ。洗濯から考える「よりよい暮らし」の提案をはじめ、「衣」文化の革新にも積極的に取り組む。各種メディアにも多数出演。

取材・構成/大熊 智子