幼児と外出する時には、突発的な行動が心配になります。子どもはなぜ急に走り出してしまうのか。事故防止のために育児グッズはどう役立つのかなど、気になる疑問を小児科医の島袋林秀先生に伺いました。

どんな育児グッズも使い方次第

── 海外では利用者も多い子ども用ハーネスですが、日本小児科学会、米国小児科学会ともに、子ども用ハーネスに対する公式な見解を発表していないといいます。子ども用ハーネスについてメリットとデメリットについて教えてください。

 

島袋先生:

子ども用ハーネスについてはさまざまな意見があります。メリットとしては、突発的な行動をとるお子さんたちの安全の確保ができるということです。子どもがどこかに行ってしまって事故に巻き込まれることを防ぐことができます。

 

一方で、デメリットとしては、周囲の目が気になったり、ハーネスをつけている状態で転倒したときにケガを助長したりしないか、またハーネスの紐が事故の原因にならないかが問題になります。

子どもの「突発的行動」は親目線の表現

── 1歳の息子が繋いでいた手を振り払って走り出したり、突然、進んでいた方向と逆の方に向かったりしてびっくりすることがあります。危ないということがどこまで伝わっているのかも不安です。

 

島袋先生:

親の気持ちはよくわかりますが、突発的というのは親目線での表現ですね。

 

親が予測できなかっただけで、子どもはそのときに興味があるところに行ってみよう!という純粋な行動をとっていて、子どもなりの一連のストーリーを持っています。

 

子どもが巻き込まれる事故の原因の一つに、この親子の意識の違いにあります。

 

通常12歳の子どもは、何度も教えてもなかなか自分で危険を予測できません。35歳になると、少しずつわかるようになっていきますが、すべての危険予知ができるわけではないので、周囲が目配りする必要があります。

 

── では、35歳の子どもにはどのように危険を伝えるべきでしょうか。

 

島袋先生:

親の心配や驚きは理解できますが、感情的に子どもを𠮟っても肝心な内容は伝わらず、恐怖心しか残りません。

 

子どもの目をきちんと見て、その行動に対して冷静に「ダメ」と危険を伝えて、簡潔に理由を述べる。そのあとは、笑顔を見せて、別の話題に移ることが良いかと思います。いつまでも叱らないことです。

「育児グッズは補助具」大切なのは親の目線

事故を防ぐために育児グッズを使う時もあるかと思います。その際の注意点について教えてください。

 

島袋先生:

大切なのは子ども用ハーネスなどの育児グッズを使っているときに、親の目線がどこにあるかです。

 

親がスマートフォンに夢中になり子どもを見ていなければ、育児グッズは時に危険な道具になってしまうかもしれません。ちゃんとお子さんを見守っていれば、育児の補助具になり得ます。

 

子どもにしっかり目配りしながら子ども用ハーネスを使うことは、突発的な行動による事故防止になり、必ずしも批判されるものではないと思います。

 

最近は頑丈で安全性の高いベビーカーもありますが、乗せているからといって子どもと一緒に行動をする際に、目を離しても良いというわけではありませんね。

 

育児グッズの有無に関わらず大事なことは、親の関心が常に子どもに向けられているかどうかです。

時代とライフスタイルに合わせて変わっていく子育て

── 育児を便利にするグッズが次々と出てきて、それに対する口コミなどもよく見かけるのですが、本当に必要なものかどうかわからないことがあります。どのように取捨選択していくのがいいのでしょうか。

 

島袋先生:

例えば、おむつのように昔からあるものは、子育てに必須のものだと思います。しかしながら、最近はさまざまな育児グッズに満ち溢れています。新しい育児グッズに関しては、自身で価値を決める必要があります。

 

持っていないと不安という理由ではなく、時代やライフスタイルの変化のなかで、育児グッズがプラスになるのであればそれを活かしていくのは良いですし、役立たないと感じるならば無理して使わなくていいと思います。

 

── 育児グッズのなかでは昔からある「おしゃぶり」の必要性も話題にあがります。先生はどのようにお考えですか。

 

島袋先生:

おしゃぶりを前提にした育児は決して良いとはいえません。しかし、親が家事などで少しの間、赤ちゃんをどうしても構ってあげられないときに、ベッドで大泣きさせているよりは、おしゃぶりを使って一時的にも落ち着かせることは決して悪くはありません。

 

一方、親がスマートフォンやテレビを楽しんでいる横でおしゃぶりを使って泣き止ませているやり方には賛同できません。そのような時はちゃんと抱っこしてあやしてあげましょう。

 

育児グッズの活用は正解か不正解かではなく、どのような状況でどのような目的で使うかが重要です。

育児の世代間ギャップにはどう向き合う?

── 価値観の違いという点では、自分の親であっても育児に関することで対立したり揉めたりするケースもありますよね。どのように向き合っていくのが良いのでしょうか。

 

島袋先生:

先人の知識はプラスになることもたくさんありますので、決して無視してはならないと思います。一方で、生活や育児スタイルも祖父母の時代とは大きく違っているのも事実です。どちらが正しいわけでも、間違っているわけでもありません。

 

昔は祖父母や周りの育児経験者が子育てをサポートしてくれていたものの、今は核家族が多くなっています。

祖父母との育児に関するコミュニケーションが少なくなっている一方、ネットなどのさまざまな情報が溢れています。情報には、自身の育児に活用できるものもあれば、自身の育児には不適切なものもあります。情報を見極める能力(メディア・リテラシー)は育児にも必要ともいえます。

 

そのような時代のなかで、育児のやり方、グッズの最終判断は自分自身でする必要があります。子育ての主役は、周囲の方ではなく親自身です。周囲の意見に傾聴しつつ、情報を取捨選択し、振り回れされない自身の子育てを実践していただければ良いかと思います。

 

PROFILE 島袋林秀

国立成育医療研究センター総合診療部総合診療科診療部長。聖路加国際大学大学院 臨床教授。産業医科大学卒、東京医科歯科大学大学院修了。博士(医学)、病院管理学修士。聖路加国際病院に勤務し、2021年4月から現職。専門は新生児学、小児総合診療学、臨床遺伝学。

取材・文/内橋明日香