緊急事態宣言の解除と国内の感染者数の減少を受けて、これまで減便措置を取っていた日本航空と全日本空輸は、年末年始の国内の運航率をコロナ前の水準に戻すことを発表しました。

 

コロナ禍でまだまだ例年通りの帰省とはいかないかもしれませんが、交通機関を利用して子連れで移動をする際の注意点などについて、小児科医の島袋林秀先生に伺います。

まずは親自身がしっかり健康管理を

「冬の感染予防に関して医学的な観点からいうと、むやみな外出や人混みに出ないのがいちばんです。ご家庭によってさまざまなご事情もあるかと思いますので、今時期の帰省について一律な意見は言えませんが、家族でよく相談することが大切です。

 

コロナウイルスに限らず、インフルエンザウイルスなど他の感染症予防にもいえることですが、子どもを感染症から守るためには濃厚接触者であるご家族自身がしっかりと健康管理と対策を行うことが大切です。

 

もし帰省をするのであれば、移動手段を飛行機にするのか、新幹線、あるいは乗用車にするのか悩むことでしょう。年齢が小さい子どもとなれば、より悩ましいかもしれません。

 

私は普段使い慣れている交通機関を使うことを勧めています」

それぞれの交通機関の特徴

交通機関を利用する際には、用意すべき持ち物や心構えも違いますので、事前にそれぞれの特徴を知っておくことが大切です。

 

子どもの旅行手段や患者の搬送方法について研究をされた島袋先生に、子どもと交通機関を利用する際のメリットとデメリットについて伺いました。

新幹線・長距離鉄道

列車は時間の予測が立ちやすいですが、駅によっては授乳室がないところもあります。新幹線では、トイレにはおむつ交換台があり、多目的室が設置されている車両もあります。空室であれば車掌に鍵を開けてもらって、授乳や着替えなどに利用できます。

 

是非、指定席の予約をしましょう。デッキ近くの座席はぐずっている子どもをあやすなど、席を立つ際に便利です。 列車に限ったことではありませんが、最近乗り物内の通路を移動する乗客の荷物と乳幼児の頭が接触する事案が生じています。乳幼児を横向きに抱っこをする際は、乳幼児の頭が通路にはみ出さないようにしましょう。乳幼児の頭を通路と反対側に向けると他の乗客の荷物との接触を防ぐことが出来ます。

プライバシーが保たれる一方、車内は密室空間にもなるので短時間であっても絶対に子どもだけにしてはいけません。ドアの開閉時などの事故にも注意しましょう。

 

チャイルドシートを座席にしっかり固定し、正しく着用することが大切です。ただ、チャイルドシートは体を拘束するため、こまめに休憩をして子どもをシートから解放することも忘れてはいけません。また、渋滞に巻き込まれても良いように、ミルクやおむつの準備は余裕を持っておきましょう。

飛行機

飛行機のことばかり考える前に、空港までの移動を考慮しましょう。搭乗手続きなどで待ち時間がかかりますが、空港にはおむつ替えのスペースや授乳室も準備されています。機内への優先搭乗もあり、子ども向けのサービスが他の交通機関よりは充実しています。

 

機内で赤ちゃんを寝かせるバシネット席を利用したい方は、早めの予約でリクエストしましょう。

 

飛行機の機種によりますが、通常富士山5合目ほどまで気圧が下がります。健康な子どもが機内で過ごすうえでは問題がないものの、耳抜きには注意が必要です。

飛行機で注意すべき気圧の変化

移動手段の中でも、子ども連れの場合に特に気になるのが飛行機内で起こる気圧の変化です。島袋先生によりますと、離陸よりは着陸前の対策がポイントのようです。

 

「スキューバダイビングをされたことがある方はわかるかと思いますが、水中に潜る(低い水圧から高い水圧の)場合、頻繁に耳抜きをする必要があります。

 

飛行機も同じで、着陸時(低い気圧から高い気圧の場合)には頻回の耳抜きが必要となります。

逆に水面へ浮上していく(高い水圧から低い水圧)際には、耳抜きがあまり問題にならないように、飛行機も離陸(高い気圧から低い気圧の場合)のときは耳抜きで難渋しません。

 

飛行機での耳抜きは、離陸よりも着陸の際に注意が必要となります」

子どもの耳抜きが難しい場合は

着陸前に突然泣き出す子どもに遭遇したことがあるかと思います。

 

着陸前の機内のざわつきに加えて、気圧による耳の体積変化が鼓膜に影響し、痛みが生じることが理由とされています。

 

痛みが起きる前にぜひ行っていただきたい子どもの耳抜きは、唾を飲み込む動作である「嚥下(えんげ)」をすることで促されるそうです。

 

「ただし、個人差があり、大人でも耳抜きがしにくい方もいらっしゃるくらいなので、子どもに唾を飲み込んでもらって耳抜きを促すことは難しいかと思います。

 

おしゃべりができる子であれば、会話をしたり、飴やお菓子を食べたりすることでも耳抜きができます。

 

授乳中であれば赤ちゃんにミルクを飲ませたり、ケープを使って座席で授乳したりするのが効果的ですが、機内で難しい場合はおしゃぶりを使って嚥下をさせることをおすすめしています」

耳抜きの重要なタイミングは、着陸1時間前

島袋先生によりますと、耳抜きへの対策は早い段階ですることが大切だといいます。

 

「シートベルトサインが点灯するときにはすでに地上近くに下降していますので、耳抜きのタイミングとしては遅いです。

 

国内線では少なくともシートベルトサイン点灯前の化粧室の使用を促すアナウンスや機内サービスの最終アナウンスがある頃に早期対策をしてあげると、耳抜きがしやすくなります」

移動中の体温調整も注意が必要

この季節の移動には温度管理にも注意が必要です。

 

飛行機は、新生児集中治療室とほぼ同じ25℃前後で調整されているそうです。

 

ただ、機内の気流は天井から足元へと流れて循環する構造になっているため、上方からの風が直接体に当たることで寒く感じることがあるといいます。

 

外は寒くても、ひとたび室内に入ると暖房で暑いと感じることもあるこの季節。

 

島袋先生は、子どもの体温調整についての大切な点をこう話します。

 

「どの服装が適切かというよりも、こまめに子どもの手足や腕を直接触ってみて、自分の体温より冷たいと思ったら寒い状態と考え、抱っこをしたときなどに首元に汗をかいていたり、湿っぽかったりしたら暑い状態と考えると良いです。

 

わざわざ体温計を使う方もいますが、気温も含めて数字だけを見て判断するのではなく、自分の五感を使って子どもに触れてみて、臨機応変に対応してあげることが大切です」

帰省時の人見知りには慌てずに

移動時の話以外で、帰省時の悩みとしてよく聞かれるのが人見知り。島袋先生は子どもが祖父母や親戚などの前で泣いてしまっても慌てずに見守ってほしいといいます。

 

「人見知りは発達にとって極めて重要な要素です。

 

祖父母を否定しているのではありません。人見知りは人を見極めて親を認識できるようになったという発達の良さととらえてください。祖父母には人見知りができる年齢になったと伝えてあげましょう」

 

PROFILE 島袋林秀

国立成育医療研究センター総合診療部総合診療科診療部長。聖路加国際大学大学院臨床教授。産業医科大学卒、東京医科歯科大学大学院修了。博士(医学)、病院管理学修士。聖路加国際病院に勤務し、2021年4月から現職。専門は新生児学、小児総合診療学、臨床遺伝学。

取材・文/内橋明日香