多様な働き方に応じた保育の提供と待機児童対策を目的とした、会社が作る保育園「企業主導型保育施設」が増えています。2019年4月に東京中央区にカゴメ株式会社が開園した「野菜を好きになる保育園 ベジ・キッズ」もそのひとつ。毎年、応募が殺到している人気の保育園を取材しました。

全国で4223施設も!増える企業主導型保育施設

企業主導型保育施設とは、内閣府が実施している企業主導型保育事業によって作られた、会社が子どもを持つ従業員のために作る保育園などを指します。

 

従業員枠の他に地域枠を設定している施設もあり、近隣地域の子どもが通うこともできます。

 

公益財団法人 児童育成協会によりますと、令和2年度の助成決定数は、全国で4223施設、定員は101,028人。平成28年の制度開始以降、毎年その数は右肩上がりに増えています。 

パートタイマーの方も利用できる

認可保育所の場合、入園するには親が勤務状況などを書類で提出し、保育の必要性があるか自治体が判断して決定されます。

 

一方で、企業主導型保育施設は、設置事業者が入園を決定するため、保育の必要性が認められれば働き方に問わずパートタイマーであっても入園が可能です。

 

施設によっては、短時間利用や夜間・土日も預けることが可能です。一時預かりを行う施設では、専業主婦(主夫)も利用することができます。

 

企業主導型保育施設には保育料の利用者負担相当額が設けられていて、保育料に関しては認可保育園とほぼ同等となっているほか、「保育の無償化」

(※1)

の対象になっています。

 

企業主導型保育施設は、待機児童の多い地域の方にとっては認可保育所以外の選択肢となりうるほか、独自の特色ある保育を行っている施設も多くあるため、保護者からも関心が高まっています。

カゴメの企業主導型保育園の特徴は「野菜」

今回取材した、カゴメ株式会社の「野菜を好きになる保育園 ベジ・キッズ」では、生後57日〜2歳までの子どもが保育対象。施設の運営は、子育て支援、在宅介護サービスなどを手掛けるポピンズが行っています。定員19人の枠は開園以降、常に満員となっているそうです。

 

野菜を扱う企業だけあり、同園でも野菜に触れるカリキュラムが充実しているのが特徴。

 

取材時には、園児たちが給食で使う玉ねぎの皮をむいたり、ピーマンの種を取り除いて洗ったりしていました。野菜に触れる活動を毎日行っているそうです。

2歳児のクラスでは保育士が手作りした「野菜かるた」で遊ぶ姿も。子どもたちが「冬瓜(とうがん)」を知っていることには驚かされました。

保育室の中央には調理室の中が良く見えるオープンキッチンが設置されています。

「ご家庭のキッチンはお子様の目線より高い位置にあるので、ご家族がキッチンの中で何をしているのかお子様にはわからないことがあります。

 

ベジ・キッズのキッチンは、調理室の中で栄養士さんがいろいろな道具を使って給食を作ってくれている姿が、お子様たちの目の高さから見えるようになっています。様子がよくわかるので、お子様たちがしているおままごとでは、包丁を洗うしぐさなど細かい工程まで模倣できているのです。よく見ていますよね」(カゴメ株式会社 経営企画室 飛石希さん)

子どもたちが下処理をした玉ねぎとピーマンは、給食のトマト入り酢豚になりました。ブロッコリーにピーマンなど、嫌いな子どもが多い緑の野菜もモリモリ食べています。

園では給食とおやつを合わせて幼児の1日に必要な野菜量(※2)のおよそ半分にあたる120g以上を提供。

 

この日の給食は、このほかにキャベツとブロッコリーのサラダ、玉ねぎとコーンのスープ、ごはん。おやつには、きゅうりとさつま芋ようかん、柿と、野菜たっぷりのメニューが提供されていました。

 

おやつに毎日出されるひと口野菜は、味をつけずに茹でたもので、素材そのものの味を知るきっかけを作っているそうです。

ただし、野菜を食べさせることが目的ではない

野菜に触れる機会が多い同園ですが、飛石さんによれば「野菜を食べさせること」が園の目的ではないと言います。

 

「保護者様からは、野菜が嫌いだったけれど食べられるようになったというお声をいただきます。

 

ただ、野菜を食べさせることが目的ではありません。お子様によっては、野菜の味が嫌いという子もいらっしゃいます。今は味が苦手だけれど、野菜に触れて野菜とお友達となることで、野菜を生活の中で身近にしてもらえたらいいなと思っています。

 

給食のときは、無理に食べさせるよりも、食べようとしたことや食べられたことに対して、一緒に喜びを分かち合うようにしています」

設立経緯は、働く親の不安を解消すること

ベジ・キッズは、カゴメで働く従業員の声を基に社内プロジェクトで設立されました。保育園の起案から設立、運営のリーダーを担当している飛石さんは、ご自身の育児経験からアイディアが浮かんだといいます。

 

「仕事に復帰して働き出すと、もう生活がいっぱいいっぱいで。好き嫌いなく何でも食べられる子になってほしいと思う一方で、育休中はたくさんおかずが作れたのに、復帰後の朝食はパンだけ、夕食はおにぎりと何か少し、麺類ばかりになった時期もありました。

 

プロジェクトを立ち上げたときに社内外にアンケートを行ったのですが、復職後に時間がなく、自分の子どもの食事に向き合えていないという声が多くあがりました。私の悩みは多くの保護者様が抱えていることなのだと感じました。

 

カゴメは野菜不足を解消することを会社の目標に掲げています。どうしたら好き嫌いなく、食事を楽しみながらお子様の野菜不足にアプローチできるか考えた結果のひとつが、このプロジェクトの立ち上げでした」

会社が作る保育園だからこそできること

コロナ禍でますます健康に注目が集まる今、野菜嫌いや食べむらなど、子どもの食に悩む家庭や保育園向けに、園で培ったノウハウを発信していくことがカゴメの役割と考えているそう。

 

設立から3年を迎えたベジ・キッズでは、2022年春からトマトやパプリカの栽培キットを保育園向けに発売を開始する予定です。野菜の苗とそのまま袋で育てられる土がセットになったものと、野菜栽培を保育に取り入れるプログラムが届くサービスになっています。

袋のまま育てるので、畑やプランターを置く場所がなくてもトマトを育てられる。 

 

「毎年200以上の保育園にご協力いただいて、お子様や保育士さんが使いやすく、親しみやすくなるよう改善をしてきました。野菜の栽培を通して、お子様たちにたくさんの学びと成長があり、それを保育士さんも実感してくださっています。

 

プログラムには、五感を使ってお子様たちと一緒に野菜栽培を楽しむメソッドをたくさん盛り込みました。全国の保育園へのアンケートで、園庭や畑がないなどの立地条件や、栽培経験がないなどお子様達との野菜栽培に取り組みたいけれど、できないものになっているということを知りました。このような保育園の力になれたらいいなと思います」

※1「保育の無償化」…0~2歳の子どもは住民税非課税世帯などが無償化の対象で、3~5歳の子どものうち、保育の必要性のある子どもが対象。
※2 第6次日本人の栄養所要量 活用編1-2歳で記載されている緑黄色野菜、その他野菜、いも類、きのこ類の目安量が合計255g。

文・撮影/内橋明日香