娘に小言を言う50代の夫

20代、30代の人たちには、今やジェンダーフリーの考え方は一般的。男だから、女だからと従来の役割を人に押しつけないし、そういう刷り込みに苦しまないように生きていこうとしています。ところが上の世代には、なかなかこれが浸透しません。

 

「女だから」「男のクセに」が口グセの夫

31歳のときに、5歳年上の男性と結婚して15年。13歳の長女と10歳の長男がいるマサミさん(46歳・仮名=以下同)。以前はあまり気にならなかったものの、最近、夫の言動がいちいちひっかかるようになったそう。

 

 

「私はある企業の人事部に勤務しています。娘が思春期だからなのか、勤め先で実施されたジェンダー関係の講習会のせいなのか、私自身、最近、とてもそういったことが気になるようになりました。

 

それで改めて夫を見つめ直してみると、あからさまに性差別をしているんですよね。家庭内のことだから目くじらを立てなくてもいいのかもしれないと思いつつ、でも子どもたちには悪影響を及ぼすのでは?と悩んでいます」

 

娘に対しては、「女の子なんだから、もっとお母さんを手伝いなさい」と、夫はよく言うそうです。

 

「そのたびに私は、そう言うあなたが手伝ってよと夫に言うんです。女の子だから手伝うのではなく、大変そうな人を見たら手を貸すのは人間としての基本でしょと。夫は反論しませんが、少し時間がたつとまた、『女の子なんだから』を繰り返す。

 

息子に対しても、『男だったら、うじうじするな』と言ったりします。男、女ではなく、人として考えたほうがいいと夫には言っているのですが、なかなか直りませんね」

 

夫の勤める企業では、セクハラやパワハラの講習会はあったものの、ジェンダーにまでは踏み込まなかったようです。

 

「夫は早くに父親を亡くし、『男としてお母さんを守る』と頑張ってきた人。その母親も3年前に亡くなりましたが、その気持ちは変わっていないようで、ときどき、『オレは全力でマサミと子どもたちを守る』と言うんです。

 

何から守るのか、そもそも曖昧なのですが、それが夫の生きるモチベーションになっているのかもしれない、と思うと静観するしかなくて

 

このあたりの意識は個人差も大きく、難しいところかもしれません。

冗談で言ったつもりが職場で大ヒンシュク!

マサミさんが折に触れて、夫に「男性だから、女性だからという言い方はやめたほうがいい」と言っていたのに自覚できなかった夫は、ついに最近、職場でやらかしてしまったそうです。

 

1か月ほど前でしょうか、帰宅した夫の様子がおかしかったんです。子どもたちが自室に引き上げると、『今日、こんなことがあって』と夫が話してくれました。

 

話によると、職場で雑談中に、他部署の新入社員の話題になったそうなんです。どうやら美人でデキる子がいるみたい。夫がつい、『ああ、あの美人か。彼女は愛人向きの顔だよなあ』と冗談のつもりで言った、と。

 

最悪と、私はつぶやきましたけど。誰も笑わず、場は凍りつき、女性社員が『そういうことを平気で言う上司だと思わなかった』と上層部に訴え出たそうです。たったひと言が命取りになって、夫は上層部からも厳重注意を受けたとか」

 

 

だから言ったじゃない、とマサミさんは思わず言ったそうです。「今までの発言も蒸し返される恐れがある」と、夫は戦々恐々としています。

 

「夫を見ていると、家庭内では疑問も持たず、私が注意しても聞く耳を持たなかったのに、職場で問題になり、やっと思いが至ったようです。

 

でも、これは職場で問題になると自分の居場所がなくなる恐怖感であって、発言のどこが問題なのかは理解していない。夫や世代の闇深さを感じました」

 

「世代だからしかたがない」と済ませず、意識を変えようと本気で思うなら、少し勉強すればわかるはずとマサミさんは言います。

 

「娘や息子とも話したのですが、やはり夫だから、父親だからと遠慮するのではなく、こちらが正論をぶつけていくしかないねって。夫もこれをいい機会にしてもらいたい。今が夫を変えるチャンスだと考えています」

 

男女というわけ方すら、今はしない時代。性自認がどちらかだとは限らないのですから。変化し続ける時代に、どうやってアジャストしていくか、それがこれからの「大人世代」のテーマなのかもしれません。

娘に小言を言う50代の夫
妻や娘から総スカンをくらう夫
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。