趣味のある母、無趣味な父を思い自分の趣味について考える女性

世間話のひとつとして、趣味の話題がのぼることもあります。「オタク」として趣味を極めている人もいます。一方で子育て、仕事、家庭の雑事に追われて「趣味を持ちたいけど持てない」と嘆く女性たちも

両親を見ていると感じる「趣味」を持つ大切さ

「両親や義両親を見ていて思うのは、年をとったら趣味と友だちは絶対に必要だな、って。母は長年、日本舞踊をやっていて今も発表会などに出ている。でも父は無趣味。母は足腰が弱らないようにと散歩をしていますが、父は『一緒にやる』と言いながら三日坊主。

 

結局、一日中、家にいてテレビばかり見て、忙しい母に『お茶いれて』と言っては、『自分でやって』と怒られています。一方、義両親は義母が無趣味。気になって脳トレの本などを送ったのですが、読んでみた形跡がない

 

そう言ってため息をつくのは、ヒナコさん(44歳・仮名=以下同)です。結婚して15年、14歳と12歳の男の子がいて、彼女自身もフルタイムで働いています。

 

自分や夫の両親を見ながら趣味の大切さを痛感、下の子が来春、中学生になるので、それを機に趣味をもちたいと考えているそうです。

 

「実際には時間がない、体力気力も充実していない。しかもよく考えたら、私は昔から趣味といえるようなものがないんです。小さいころ夢中になっていて、それを再び始めたいと思えるものもない」

友人はピアノを再開したり、空手を始めたり

今も連絡を取り合う短大時代の仲間たちは、昔の趣味を始めたり、新たなものに取り組んだりしているといいます。

 

「ピアノやトランペットを再開したり、新たにドラムを始めた人もいます。面白いと思ったのは、『普通の人がやらないことを』と、空手に挑戦している友人もいます。

 

『将棋道場みたいなところに行ってみたら、女性が少ないからモテてるわよ』と、楽しそうな友人も。じゃあ、私は何をしたいのだろうと考えたら、なんか一歩が踏み出せないんですよね」

 

趣味を始めたいけど何をしたらいいかわからない。案外、そういう人は少なくないのではないでしょうか。

 

趣味を考え始めた時、ヒナコさんは自分の人生を振り返ってみたといいます。

 

「夫はサッカーが大好きで、今もフットサルのチームに入っている。若い頃、遊びでやっていたビリヤードも最近、また少しずつ始めたみたい。子どもたちは夫に感化されて、ふたりともサッカーに夢中。なんだか私だけ取り残されている気分」

 

夫はアクティブで友人も多いそう。ヒナコさんはインドア派だし、時間があるとせいぜい読書をするくらい。活動的な家族に囲まれると、「何かしなければ」と、思いだけが先走ってしまうのかもしれません。

 

「本当はお菓子作りをしたいんですけど、うち、誰も食べてくれないんですよ。今どき、手作りのお菓子を職場に持っていくのも、感染症の問題もあって気が進まないし」

踏み出せないのは心の問題も

最寄りの駅ビルにあるカルチャースクールの案内書をときどき眺めて、面白そうだなと思っても、見学に行くところまでいかないと彼女は言います。それは「人の間に入るのが得意ではないから」だそう。

 

「人間関係に時間がかかるタイプなので、新しい場に行くと疲れてしまうんです。意見を押し出すほうじゃないし、かといって、誰かの言いなりになるのもストレス。

 

今の職場も転職を繰り返して、ようやく見つかった居場所で。今から趣味の場で新たなストレスは抱えたくはないんですよ」

 

でも、趣味を持ちたい気持ちがないわけでもありません。一歩踏み出せば何かが変わる、と思いながら踏み出せない感覚、彼女だけのものではないでしょう。

 

「自分が動かないと何も変わらないのはわかっています。先日も夫が『やりたいことをやったほうがいいよ』と背中を押してくれました。わかっちゃいるけどという感じですね」

 

苦笑しながらそう話すヒナコさん。「時間がない」が言い訳にすぎないことを、いちばんわかっているのは彼女自身なのでしょう。

趣味のある母、無趣味な父を思い自分の趣味について考える女性
料理教室に行きたい気持ちもありつつ悩む女性
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。