オフィスでミーティングするチーム

欧米型の営業組織の施策として「セールス・イネーブルメント」が注目されています。日本企業ではまだまだ浸透していない人材育成のアプローチで、チームとして継続的な営業成果をもたらす仕組み。「うちの会社には縁遠い」と諦めず、個人ではどう取り組めばいいかを、考えます。

前年比125%の成果を出した企業例も

企業にとって重要なのはビジネスの「成果」に他なりません。成果を上げることで企業は成り立っています。したがって、継続的な成果を第一に考えて営業社員の人材育成に取り組むべきなのですが、現実にはそうなっていない様子。

 

「日本企業の多くは、実施するトレーニングなどの育成と、ビジネスで求める成果が結びついていない。だからいくら育成をしても結果が出ません」と、株式会社R-Square & Company代表の山下貴宏さんは言います。

 

欧米企業では、ビジネスの成果を起点に人材育成プログラムを設計するのが最近の傾向。セールス・イネーブルメントの仕組みを取り入れ、成長を遂げています。

 

「まず企業として達成すべき営業成果があり、そのための育成施策が計画・実行され、効果がどうだったかを検証するサイクルです。コーチングやツールを活用するなどして支援し、営業組織全体のパフォーマンス向上につなげます」

 

日本でも先進企業でセールス・イネーブルメントを導入する動きが加速中です。山下さんの会社ではNTTコミュニケーションズなどの大手企業から、SmartHRなどのスタートアップ企業までの導入サポートを行い、多くの企業で効果を上げています。

 

例えば、CCCマーケティング株式会社。同社は7000万人を超えるT会員のユニークデータを活用したマーケティングサービスを提供する企業です。

 

CCCマーケティングのケースは、人材育成プログラムを整備し、SFA(営業支援システム)も導入して、営業DX(デジタルトランスフォーメーション)を一気に進めました。結果、昨年度の営業成果は前年比125%となり、かつてない伸びを実現しています」

営業組織が成長できない部下への問いかけとは?

日本企業に欠けていた育成施策により、継続的な成果をもたらす営業組織に変えるのがセールス・イネーブルメントの優れたところです。そのエッセンスとして、山下さんは「営業プロセスの見直し」を重要なテーマに挙げます。

 

「営業の成果とは、顧客からの発注です。顧客が自社の製品やサービスを購入する意思決定をすることで、対価として受注を得て、それが成果になる。だから、もし営業パーソンが顧客に対して正しい営業プロセスを踏んでいないなら、そこを見直さなければなりません」

 

例えば、営業チームを率いるマネージャーで、メンバーが今月重要な商談を多く抱えていたとしましょう。立場的には、受注の有無を重視しますよね。このとき、メンバーにどう問いかけるか考えてみてください。

 

「やりがちなのは、自社の思惑で考える自社視点の問いかけです。『今月の重要商談は受注できそう?』『あの案件、今月いける?』などと聞いてしまう。そうすると、メンバーはイエス・ノーでしか答えられない。ノーだった場合は、その時点で手詰まりしているわけで、次の行動につながりません」

 

望ましいのは、顧客視点での問いかけだ、と山下さんは言います。

 

「顧客の立場に考えを巡らせ、『顧客の意思決定者が今月発注したい理由は何かな?』『顧客の意思決定プロセスはいまどこにある?』などと聞けば、メンバーの回答で受注の見込みをある程度把握できますよね。仮に答えに窮しても、問いかけ自体が次のアクションを促します」

 

こういった営業プロセスを効率的に管理および支援できるのもセールス・イネーブルメントの強み。コーチングやツールなどの活用で実現します。

 

「顧客視点か自社視点かという問いは非常に大事です。自分の会社が今セールス・イネーブルメントを導入していなくても、顧客視点を個人でつねに心がければ、成果につながる効果を生み出していけるでしょう」

 

組織の営業力をパワーアップし、持続可能とするセールス・イネーブルメント。顧客視点、明日から取り入れてみては?

  

PROFILE 山下貴宏さん

株式会社R-Square & Company代表取締役社長/共同創業者。2019年、セールス・イネーブルメントに特化したスタートアップ企業を設立。イネーブルメント分野の日本での第一人者。

取材・文/百瀬康司