腹痛で苦しむ女性のイメージ

排便は大事な生理現象。子どものうんちは気になっても自分の便のことは気にもとめない…なんて人も多いかもしれません。

 

とくに女性にありがちなのが「便秘」の症状。「いつものことだ」と放っておく場合も少なくありませんが、大きな病気を見落としてしまうことにもなりかねません。

 

「便秘や出血を放置するのは危険。排便やおなかの調子について、いつも違う症状や感覚には注意してほしい」と話すのは消化器系外科医の宮島伸宜さん。便の状態からわかることを詳しく教えてもらいました。

便がすべてを物語る!?がんとそれ以外の病気の見分け方

── お尻から出血した場合、痔だと思い込まないことが大切と伺いました。知っておくといい注意すべき出血の状態を教えてください。

 

宮島さん:

大腸がんの場合でも、痔と同じように肛門にとても近いところから出血することがあるので、自分で見分けるのは非常に難しいです。ただ、S状結腸などの大腸がんでは便の中に血が混じりがちですが、痔の出血は便の表面に血がついていることが多いと言われています。ですから、まずは日頃から便の状態をよく観察してほしいですね。

 

いぼ痔の場合は、最初はペーパーに血がつく程度ですが、そのうち一気に垂れてきて「便器が真っ赤になった!」と慌てて病院に来る方が多いです。ただ、量としてはスポイト1滴分ほどで、実はそれほど大量ではありません。

 

炎症性腸疾患、いわゆる潰瘍性大腸炎と言われる炎症による病気の場合は、ねっとりとした粘液に血が混ざる粘血便が特徴です。

便秘が原因の“怖い病気”が女性に増えている

── 血便にもこんなに種類があるとは…。本当に健康のバロメーターなのですね。そういう意味でも便秘は良くなさそうです。

 

宮島さん:

そうなんです。便秘が引き起こす病気も軽視できません。特に最近、若い層の女性に増えている「虚血性腸炎」は“慢性的便秘の極み”のような病気です。

 

慢性便秘で下腹部の上部から腸の圧が高まり、血管が引き延ばされて腸内の血液が少なくなった結果、腸に潰瘍などができるのですが、慢性便秘で突然脂汗をかくほどの腹痛に襲われ、大量の出血を起こすのが特徴です。ときには貧血になるくらい出血することもあります。

 

私が大学病院に勤務していた頃は、冬になると1日に1人は虚血性腸炎の患者の診察をしていましたね。軽症だと、あっという間に跡形もなく治りますが、重症化すると腸の細胞が壊死してしまい、手術をしなければならなくなることもあります。

 

── 冬に虚血性腸炎の受診が増えるのは、つまり便秘の人が多くなるということですか?

 

宮島さん:

その通りです。便秘の方がさらに便秘になること、また寒さから血管が収縮することが原因です。

大腸の病気の予防には排便習慣を整えるのが最善

── 便秘の状態が当たり前になっている女性もいそうですが、寒さが本格化する前に意識して改善したほうがよさそうですね…。

 

宮島さん:

そうですね。大腸の病気、痔ともに健康的な排便の習慣が何より大事です。

 

冬になると血管が収縮するというのがまず一つ、便秘の原因になります。湿度が下がると皮膚が乾燥します。その皮膚を保湿するために身体が水分を出そうとするんですね。だから余計に便秘が進みます。

 

さらに、冬は喉の渇きを感じにくいので水を飲まなくなり、ますます便秘になります。冬は、特に痔を育てている時期と言ってもいいくらい。ほかの病気にも血流が関係してきますから、とにかく冬に症状を悪化させないようにしてほしいですね。

 

最近の傾向として、コロナ禍で在宅勤務になった方が増えたことで、便を我慢する必要もなくなり、排便習慣が良くなっている傾向もみられます。これを機に、しっかり排便の習慣を身につけてほしいと思います。

 

── 冬は確かに水分を取る量が減ります。脱水症状になる人も多いと言われていますね。

 

宮島さん:

冬こそ意識して水分を取ることが大事です。ただ、コーヒーや紅茶など、カフェインが入っているものはできるだけ避けてください。カフェインは利尿作用があるため、飲んだ分以上に水分を体外へ出してしまいます。水や麦茶、黒豆茶などノカフェインの飲料をお勧めします。

 

一度に大量飲むことも利尿作用が働く要因になるので、少量ずつ一日に何度かに分けて飲むのが理想です。

 

排便習慣を整えることは、痔や大腸がんなど病気の予防に大きくつながります。腸内細菌を整えたり、野菜から繊維質を意識して摂ったりすることで、腸の状態が整い、便通も良くなります。

 

── 水分の上手な取り方や排便を整える習慣が、痔や大腸がんだけでなく、他の病気の予防にもつながるのですね。

 

宮島さん:

そうです。そして、もしお尻から出血したことに気づいたら、「何もない」ことを証明して安心するために受診してほしいです。お尻からの出血は「身体を調べなさい」というひとつのサインだととらえて、軽視しないことです。痔や大腸の病気など、総合病院や肛門・大腸の病院に行けば、詳しい検査までしてもらえます。

出血がなくても病気の場合もある!?

── 貧血がひどくて、人間ドックで大腸の内視鏡検査を勧められた編集スタッフもいます。便潜血はなかったのですが、出血による貧血の可能性もあると言われたそうです。やはり検査をしたほうがいいのでしょうか。女性の場合は生理があるので、出血に慣れている方もいるような気がします。

 

宮島さん:

そうですね。たとえ、今の時点でお尻から出血がなくても、内視鏡検査はしたほうがいい。というのも、大腸がんにかかっている方でも、検便で見つかる確率は80%ほどで、20%ほどの割合で気づかない場合があるからです。

 

これまで100人を超える方の手術をしてきましたが、30代の女性でも大腸がんにかかった方はいますし、40代になるとさらに可能性が高くなります。若い女性の場合は、異変があっても病院を受診する人自体が少なく、大腸がんが見つかったときには進行してしまっていた、ということもままあります。

 

以前は若い人の大腸がんは治りにくいと言われていましたが、今は医療の進歩により治りやすい病気になりました。内視鏡検査も昔と比べてスピード化されて、心身ともに負担が減っていますし、できるだけ早い段階で受診し、治療することをお勧めします。

 

PROFILE 宮島 伸宜さん

松島病院 宮島伸行院長
医療法人恵仁会 松島病院 院長。慶應義塾大学医学部卒業。同大学病院をはじめ都内の総合病院などで消化器外科の経験を積み、2007年より聖マリアンナ医科大学東横病院消化器外科に勤務。2014年、同病院の病院長に就任。2021年6月より現職。

取材・文/高梨真紀