皿洗いのしかたをレクチャーする妻

家庭内のこと、子どものこと、さらに近所や親戚とのつきあいなど、それらをひとりですべてハンドリングするのは難しいでしょう。ときには人に任せるのも重要。ところが、なかなか人に任せることができない女性もいます。

リモコンの並べ方までルールがある妻

結婚して14年が経つリョウタさん(44歳・仮名)には、同い年の妻と、13歳、10歳の子どもがいます。妻もパートで働いているので、リョウタさんも時間を見つけては、家事はするようにしているそう。

 

「妻が『リビングを片づけておいて』というから、片づけたら『どうしてこんなふうにするの?』とイライラしながら言うんです。彼女は几帳面でリモコンの並べ方も自分で決めているから、人が違うことをするとイラッとくるみたいで

 

お皿を洗っておいてと言われた際、リョウタさんが洗って、最後に布巾を洗ってかけておいたら、「それは台布巾だから、そこにはかけないで。どうして私がやることをいつも見てないの?」と言われる始末。リョウタさんのイライラも募ります。

 

「だったら最初から、『台布巾はそこにかけないでいいから』とひと言あればわかるのに。『言葉がたりないんじゃないか』と、言ったら逆ギレされました。パート先でもああいう感じだと、周りは仕事がしにくいんじゃないかと余計な心配までしてしまいますね。人に任せるときは、完全に任せたほうがいいんですよ」

 

でも、そんなことを言ったらさらに怒られるのはわかっているので、言わないようにしている、とリョウタさんは肩をすくめます。

家庭だけでなく、周囲にも悪影響を与える現状

ところが妻の「すべてハンドリングしないと気がすまない」性格は、子どもたちの学校でも話題になっていることを、リョウタさんは耳にしました。

 

「上の子の中学で父母会があったとき、妻が会のリーダーになったんです。ああいう性格だから人に任せず、すべて自分を背負い込んでしまう。グループ分けした連絡網ができているのに、全部自分で確認して連絡が遅くなることもあるようです。ママ友さんから『“もうちょっとみんなを信頼して”って、言ってもらえませんか?』と言われてしまいました」

 

その話をやんわりと告げたところ、妻はほろほろと涙をこぼします。「みんな自分勝手、私にすべて押しつけておいて」というのが妻の言い分です。でも実態は押しつけられたのではなく、妻がひとりですべてを把握しようとしているだけ

 

「ちゃんと担当を決めて“任せればいいんだよ”と言ったのですが、それができないんですね。結局、別の方がサポートしてくれてなんとかやっているようですが」

長男も母親のやり方に言い返して

そういう性格は子どもにも向かいます。教科書やノートの揃え方から、通学カバンやランドセルの整理まで、自分のやり方を子どもたちに押しつけていると、夫には見えるそう。

 

「子どもには子どものやり方があると思うし、大人から見て効率的でなくても子どもが工夫しながらやっているなら、それでいい。いつかもっといい方法を本人が見つけるでしょう。でも妻にはそれを待つことができないんでしょうね(苦笑)」

 

ときどき、家の中で聞こえる妻の声。「どうしておかあさんの言う通りにしないの!」と。上の子が「どうしてなんでもお母さんの言う通りにしないといけないの?」と言い返しているのを聞いたリョウタさんは、子どもの成長を実感します。でも、妻は上の子が反抗していると受け止めたようです。

 

「誰かの言う通りにする子どもと自分で考える子ども。どちらがいいと思う?と、妻に聞きました。すると妻は『まだ母親の言うことを聞くべきよ』と頑なに言い張ります。反抗期の子どもよりきみのほうが扱いづらいと言ったら泣き出して。一生懸命なのはわかるんですけどね」

 

母として完璧でなければいけない、頑張らなくてはいけないと思うあまり、そうなってしまうことを夫は理解しています。ただ、このままでは妻自身も、そして子どもたちも追い詰められてしまうのを心配しています。

 

「折に触れて、妻にはそう言っています。いつかわかってくれるといいんですが

 

人生そのものが思い通りにはならないもの。大きな挫折をしたことのない妻には、なかなか納得できないのかもしれません。 

皿洗いのしかたをレクチャーする妻
親子の主張の間に入り苦労する夫
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。